序章 願いごと

プロローグ

 〜 メアリー 秘密の岩場 にて〜


『ときの なかの ブ〜ランコ やさしく ゆめを か〜なでる〜♪』


 私の名前はメアリー。人魚の住む國、アクアブルー王國の女王。歌を歌うことが大好きで、満月の夜にはこっそりお城を抜け出して月を見ながら歌を歌っていた。


 3曲ほど歌い終えるとどこからか美しい歌声が聞こえることに気がついた。その歌声に惹かれて海から顔を上げると、美しい人間が大きな船の上で歌っていた。私は、その人間にふしぎな想いを抱いた。暖かくて愛おしく、どこか苦しいふしぎな想い。この感情がなんなのか私には分からなかった。近くの岩に身を潜めて人間を見つめていると、突然大きな音がして黒くて丸い何かが船に直撃した。船はたちまち壊れてしまい、人間は海に投げ出されてしまった。


 私は慌てて人間を海から引き上げて砂浜に運んだ。必死になって手当てをしていると、少しずつ人間は体温を取り戻し息を吹き返した。私は人間の着ていた上着を砂浜に流れ着いた木の枝に括り付けて目印として立てた。人魚である私は、長い時間陸の上で息をしていられないし、人間に見つかったら大変な事になるのでその場を去る事にした。海に入ろうとすると人間が、


「まっ…て。また…あ…えた…とき……にこ…れを………。」


と言って布でできたワッペンを私に渡した。それで力尽きたのか、人間はピクリとも動かなくなった。心配だったけど他の人間の声が遠くから聞こえるし、息が続きそうになかったので、後ろ髪を引かれる思いで私はその場を後にした。

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