Elpis
泝
目覚め
新学期。膨らんだ夢と希望は、桜の花と共に無残に散った。
高校二年、春。
校門に掲示された新しいクラスの名簿を見て、井波冬馬は絶句した。
友人はおろか、知っている名前がなかったからである。
冬馬の通う高校のクラス数は多く、特定の友人と同じクラスになれる確率は高くない。
さすがに、親友と来年も同じクラス。なんて考えてはなかった。
しかし、決して多いとは言い難いが存在した冬馬の友人すべてが別クラスで固まり、
自分が一人孤立するなんてことは、もっと考えていなかったのである。
そのためダメージも大きく、昨年友人達と誓った「彼女をつくる。」なんて目標が、
夢のまた夢へと遠ざかることになった。
肩を落としながらも、新たな出会いという希望を胸に教室の扉を開けると、
既に一年過ごしているのではないか、と錯覚するほど綺麗にグループが出来上がっていた。
それぞれ部活、元々のクラス、友人とその友人、など何かしらのつながりから集まり
グループを形成していたため、そのには冬馬の入るスペースはない。
部活に入っておけば良かったと頭を抱えたものだが、後悔先に立たず。
諦めるしかなかった。
それから半年。
見事にクラスの輪に入るタイミングはなく、冬馬は今だ孤独に過ごしてた。
クラスを出れば友人もいたので、退屈はなんとか凌いでいたものの、
体育祭や文化祭など、ある程度クラスの団結を要される行事では、隅で眺めるばかり。
学校行事よりも授業のほうがましなレベルであった。
しかし、紫香高校一同は次の行事、遠足を明日に控えていた。
付属している中等部の行事の際は基本、高等部は遠足として学外に追いやられる。
今回の遠足は中等部の体育祭のためだぞうで、冬馬のクラスは山登りに決定。
もちろん冬馬に行く気はない。
夜、スマートフォンを取り出しSNSを眺める。
遠足はクラスによって行き先が異なるため、つぶやきの内容にばらつきがある。
しかしどれも前向きなものばかりで、明日の休む口実を考える自分に嫌気がさす。
ため息をつきながらベットに飛び込むと、どっと疲れが押し寄せてくる。
一人で過ごすのは何かと苦労するな、なんて思いながら時計を見ると、
ちょうど二十二時をまわったばかりだった。
寝るには少し早いが、これといってすることもなく動く気もしない。
休む口実をまだ考えていないと気付く頃には、冬馬の意識は夢の中にあった。
休み時間の教室。
一番後ろの席から、教室全体を眺める。
普段と何も変わらない。
仮眠でもとろうと机に突っ伏すと、いままで騒がしかったのが嘘かのように、
物音ひとつ聞こえなくなった。
不審に思い顔を上げると、教室のすべての視線がこちらに向いている。
こちらを睨むその眼には、嫉妬や憎悪を宿していた。
足音や話し声で目が覚める。
目を開けると、高層ビル、滑空する車やバイク、そして
「あ、起きた。」
「起きましたね。」
紺色の制服を着た体格のいい男と、冬馬と同年代くらいの女の子。
ベットのあった自室の姿はどこにもなく、ビル街の脇道に寝転がっていた。
しかも時代が一世紀ほど進んでいる。
まだ寝ぼけているのかと頬をつねってみるが、しっかりと痛みを感じる。
「ここどこだよ・・・・・。」
「なんだ、狐につままれたような顔して。寝ぼけてんのか?」
「寝ぼけてる?違う、俺はまだ夢をみてるんだ。」
「はぁ?何言ってんだ?」
男は呆れたようにため息をつく。
「真昼間にこんな場所でよく寝れたもんだな。俺は18区生活安全課の児玉だ。
名前と年と・・・・・・おっと悪い、部長からだ。双葉任せる。」
ばつの悪そうな顔をしながら離れていく男に代わって、
先ほどまで後ろにいた女の子が出てくる。
「同じく生活安全課の双葉霧華です。それでは、名前と年齢教えてください。あと、身分証明できるもの何かありますか?」
「井波冬馬、十六歳。身分証は・・・・・・ないですね。」
「井波さん、ですね。昨晩は何を?」
「家でゲームを。」
「ならどうしてこんな場所に?」
「わかりません。」
「はぁ・・・・・・。」
「ちょっと待って。ほんとにここがどこか分からないんだよ。混乱してて何が何だかわからない。」
女の子もまた、呆れたようにため息をつく。
「ハントヘル十八区です。詳しく言えば五番通りの脇道。」
「ハントヘル?地名...?」
「馬鹿にしてます?基礎学校で習うことですよ?ふざけるのもいい加減にしてください。」
女の子の顔がどんどん曇っていく。
タイミングがいいのか悪いのか、電話を終え男が戻ってきた。
「片付いたか?ちょっと悪いが、署長からの呼び出しだ。至急、署に戻るぞ。」
「残念ながら片付いていませんね。とりあえずついてきてもらいましょうか。」
「井波くん...だっけ?そういうことだ。悪いが署のほうまでついてきてもらうよ。」
座り込む冬馬の前に仁王立ちする二人。
拒否権は無いらしい。
それに、解放されたといって行く場所なんて無いうえ、状況判断もままならない。
夢かうつつか分からないまま、冬馬は、二人に続き空中に浮遊する車に乗り込んだ。
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