異界の神編
外伝:おっぱい狂いな無敵の英雄の友人
外伝1話 世界を壊したい少女
「アビー、おはよう」
太陽に透けたキャラメルみたいな色のさらさらした髪の男の人は私の頭を撫でて起こすと、毎日どこかへ出掛けていく。
顔は見えない。ぼんやりとしながら部屋を見回して「そっか朝か」って思ってテレビをつけて用意されているたっぷりとジャムが塗ってあるパンを口にほうばってぶどうジュースを喉に流し込んだ。
私を放って置く両親……そうだずっとそんな感じだった。私は一人で、なんでもして、それで親に気に入られなければならない。
いい子にしていれば殴られることもないし、大切なゲームも壊されない。
なんとなくとても昔のことを思い出してしまったみたいな感覚がこみあげてきてちょっと気持ち悪くなったので、私はテレビをつける。
テレビには小型ドラゴンがブレスで荷物を燃やしてしまったニュースとか、獣人とヒトのモデルカップルの結婚が流れてる。
どれもつまらなくて私はリモコンでチャンネルを変えてみる。パッとしない。
もやもやしながら、ノロノロと洗面台にいって身支度を整える。
青みがかった紫色の長い髪を整えて、自慢の真っ白な肌に日焼け止めを塗って、血のような色の薔薇のコサージュがついた真っ黒なキャノチエをかぶって外に出かけた。
夏の日差しと蝉の音が降り注ぐ中を私は気の赴くままにあるきまわって、適当にコンビニで冷たいアイスやお菓子を取って食べて、お人形さんたちや動物たちと遊んで夜になってお家になって眠る。
それが私の毎日だ。
朝になって、また見知らぬ声で起こされる。
きっとお父さんとお母さんが来ない限り、ここは変わらない平穏。変わらない世界のはず。
これが終わったら、私は神様に頼んで世界を好き放題する権利をもらうんだ。世界をめちゃくちゃに壊してやる……お母さんとお父さんが私の世界をめちゃくちゃにしたみたいに……。
あれ?じゃあ、あのキャラメル色の髪の毛の人はだれ?
「ねぇアビー、その絵が映る板はなんなの?」
「テレビっていうんだよ。えーっと……あなたはだれだっけ」
急に声が聞こえてきた方向に目を当てると、深みのある綺麗で落ち着いた緑の生地で作られたリスさんのぬいぐるみが私に話しかけてきていた。
ええっと……この声は聞き覚えがあるはずなんだけど……一体誰だったっけ?
首を傾げたら頭の奥がずきっとして思わずこめかみを抑えると、リスのぬいぐるみは私の膝の上に座ってこちらをみた。
「わらわはたんたん。あなたのおともだちでしょ?わすれてしまったの?」
「ああ。そうだった。たんたん、ごめんなさい」
そうだった。聞き覚えのある響き。
私はたんたんの頭を撫でて抱きしめる。
「ねえアビー、ぼくのこともわすれていないかい?」
たんたんをぎゅうっとしていたら、横から綺麗な金色の毛並みの羊のぬいぐるみが飛び出してきて私の真っ黒なシルクのスカートの裾をひっぱってくる。
この子の声にも聞き覚えがある。でも名前が出てこなくて私はまた首を傾げてしまう。
「るーるーだよ!おもいだしてほしいな」
「思い出したわ。あなたはふかふかしたやわらかいものがすきなるーるー」
言われてみれば、るーるーも私と仲良しの金の羊のぬいぐるみで、なんで忘れていたのかわからないくらい彼のことが頭に浮かんでくる。
そうだ、私は毎日見知らぬ声で起こされて、その後たんたんとるーるーと遊ぶのが日課だった。
「さぁ、アビー、今日はなにをしてあそびたいの?」
「そうだな……私は……」
「今日はティーパーティーをしましょう。三日月ケイクもあることだし」
たんたんがどこからともなく取り出してきた三日月の形をした焼き菓子の甘い香りが私の食欲をくすぐる。
そうそう、これは私の大好物で、いつも作ってもらってたっけ。
アレ……だれに?
思い出そうとしてまた頭がズキッとして顔を顰める。
眼の前にカップが並べられて、たんたんとるーるーが小さなテーブルに座って空っぽのティーカップを傾けてお茶を飲む真似をする。それがなんだか懐かしくて落ち着いて、私は目の前のお菓子に手を伸ばしてバターと蜂蜜の香りがするサクサクとして中はふわっとしてるソレを口に頬張った。
「これ、本当に美味しいんだよな。また頼んで持ってきてもらおう」
自然とそんな言葉が出てビックリして両手で口を抑える。
言ってはいけないことを言った気がする。
るーるーとたんたんの黒いボタンの目が私の顔を見つめて、私はどうしていいのかわからなくて手にしていたゴブレットの中のぶどう酒を飲み干した。
あれ?わたしが持っていたのは紅茶じゃなかったか?
音がゆっくりと消えていく。るーるーとたんたんが私の眼の前にいてなにか話してるけど、それがわからなくてわたしはゆっくりと首を振った。
それから、どうしても眠くなって、私はそのまま机の上に突っ伏してしまう。まぶたが閉じるその瞬間、たんたんとるーるーのやわらかい布地で出来た手で頭を撫でられた気がした。
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