第7話

四匹いる。

こちらを見つけた怪物たちが、一斉にかじりついてきた。しかし、透明な壁の前では歯が立つはずもなく、次々と壁に衝突し、擦過音を立ててずり落ちていった。

喫煙所のドアとて例外ではない。スーツを着用したサラリーマンもとい怪物が、ドアに飛び付いたり剥がれたりを延々と続けていた。

「ドアが開いたらこっちに来ちゃうんじゃない?」

 女性がドアから遠退き、怯んだ声で言う。聖二は前に回り込み、ドアを観察した。

「いや、多分平気だ。あのドアはレバーハンドル式だから、怪物が立ち上がらない限り開くことはない」 

「レバーハンドル式?」

 女性と大柄が同時に声を上げる。

知らないの、と言いかけて聖二は口を閉ざす。よく考えてみればレバーハンドル式という言葉自体知らなくて当たり前だ。

「トイレとかでよくある、取っ手を押し下げて開けるドアだよ。無闇に押しただけでは開かないんだ」

 極力簡潔に説明する。女性と大柄は納得したようにうなずいた。

しかし、ドアがどんな形式であれ、中にいる怪物を倒さねば喫煙所には入れない。

女性は意を決したように割れた瓶を持ち直し、喫煙所のドアを開けようとする。

今まさに死地に向かおうとする彼女は、深く沈んだ面持ちだった。 

「待ってくれ」

 咄嗟に聖二は呼び止める。レバーハンドルを引き下げようとする手を押さえ、そっと瓶を引き取る。

「さっき助けてくれたよね?だから、今度はおれがいくよ」

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