夕日色の恋

折口 つかさ

夕日色の恋

 私のお気に入りの場所は、家の二階にある出窓だ。家が丘の中腹にあるので、窓を開ければ、風がよく通って気持ちが良い。

 私は、この窓から外の景色を見るのが好きで毎日ここから外を眺めている。特別に良い景色が見える訳ではない。住宅街なので同じ様な家しか見えない。

 ただ、遠方に目を向けると海が見え、そこに沈んでいく夕日がキレイで私は好きだ。

 

そして、私はここで君に恋をした。


 君は毎日、朝方と夕方の同じ時間に必ず、私の家の前の道を優しそうなお義父とうさんと通っている。そんな君を私は、この窓から眺めていた。


 君と出会ったのは一年前だった。初めて君を見た時、身体に電撃が走った様な気がした。

 凛々しい顔立ち、優しい瞳、真っ直ぐ通った鼻筋、堂々と歩く姿は大人だった。 私はその日から、君を目で追う様になっていった。


 春、桜の花びらが舞う穏やかな日も、

 夏、日差しが容赦なく照りつく暑い日も、

 秋、空気が澄んで爽やかな日も、

 冬、雪がこんこん降り積もる寒い日も。


 目が合いそうになると目を逸らしたり、寝たふりをしたり、時には興味が無いふりもした。

 そして、君が家の前を通り過ぎると私はまた、君の姿が見えなくなるまで、目で追いかけ続けた。見られている時は恥ずかしいのに、見られていない時はなんだか寂しい気持ちになる。


 これが恋、というやつなのだろうか・・・


 本当になのか、本気なのか、分からないまま一年が経ってしまったのだった。

 そして、それは突然やってきた。家庭の事情により、引っ越さなくてはいけなくなってしまったのである。

 引っ越しの日までは、まだ一か月ある。と思っていたら、いよいよ引っ越しの日が明日に迫ってしまった。グズグズしている間に、時は無情に過ぎ去って行く。

 

 黙っていれば、楽かもしれない・・・ 

と考えると胸が痛い。

 

 このまま、私の片思いで終わってしまっていいのだろうか・・・

いや、決心をする時が来たのだ。


 叶わぬ恋と分かっていても、告白しないといけない時がある。

 私が、一大決心をしているとも知らず、

「明日は朝から忙しくなるわね」と義姉あねは言った。私は聞こえないふりをして、うたた寝を続けた。


 翌朝、いつもの様にこの窓から外を眺めていた。君が待ち遠しい。あと一分で君が通る。


 ほら、来た。


 そして、君が私の家の前に来た時、声をかけようとして息を吸い込んだ。

 その時、一緒に歩いていた君のお義姉ねえさんと目が合い、身体が縮んでしまった。いつもなら、君はお義父さんと一緒にいるはずが、今日に限って君はお義姉さんと一緒だった。

 私は混乱した。

「あんたにはムリよ」と言っている様な気がする。私は君が通り過ぎるまで見送るしかなかった。

 やはり、越えられない壁だってあるのだろうか。でも、やるだけの事はやりたい。私は腹をくくった。

 次に通ったら伝えよう。今日の夕方までに君がこの道を通る事を願って、待つ事にしょう。


 しかし、願いも虚しく時間だけが過ぎていく。日は傾き始め、青かった空を紅く染めていく。

 荷物も積み終わり、後は車に乗って新しいお家に行くだけとなった。私はもう一度、君がいつも来る方向を見つめた。

 君が来る気配が無い。ただ、夕日が水平線の奥に沈もうとしているのが見えただけだった。

 車に乗る様に促されて、仕方なく乗り込んだ。開いた車の窓から冷たい空気が入り込み、私のポッカリと開いた胸の穴にまで吹き込んで来た。

 出発の時間となり、車が走りだそうとした時、チャンスはやって来た。君が歩いて来たのだ。

 私は思わず、車の窓から顔を出す。


 君をこんな近くで見たのは初めてだ。

 周りの音が聞こえない。

 時が止まっている様だ。

 心臓の音が大きく聞こえる。

 今にも胸が張り裂けそう。


 そして、目に映った今日の夕日が、特別キレイに見えた。

 祝福している様だ。

 私は勇気が湧いてきた。

 今日という日に感謝しよう。


 私は思いっきり息を吸い込んで、力の限り君に届く様に、叫んだ。


「ニャーーーッ!」


 君は私に気付いてくれた。


「ワーーーン!」

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夕日色の恋 折口 つかさ @uruu-ruuru

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