晩餐は名物?

「2人とも、どうする?」


 咲蓮社を出るともう5時を過ぎていた。訊いた僕に対し、カヤノンが不思議そうな顔で言う。


「何言ってんの? そんなの決まってるじゃない」

「え」

「矢部ちゃんにお泊りだあ!」


 久内さんが拳を突き上げる。


「ちょ、ちょ。カヤノン、バイトは?」

「シフト替えてもらう」

「久内さんは外泊なんてダメでしょ?」

「ううん。今朝、”男の子んに行く” って言ったら、お母さんから、”しっかりね” って言われた」

「・・・ちょっとだけ寄って貰うつもりではいたけど・・・泊るつもりかあ・・・」


 僕はスマホで母親に電話し、2名宿泊、と告げた。



 さすがに突然夕食まで準備させるのは申し訳ないと思ったらしく、実家に行く前に夕食を済ませることにした。九州出身のカヤノンはともかく、隣県の久内さんまで、


「名物食べたい」


と駄々をこねる。学生の分相応の範囲と思い、


「まあ、塩スープラーメンが流行ってはいるよ」


と、2人を小汚い年季入りのラーメン屋に連れて行った。

 宿賃だと言って、僕の分650円は2人で出してくれるという。


「あ、ほんとだ。みんな写真撮ってる」


 店内は県外から来た客ばかりらしい。みんなスマホでメニューや店内を撮影している。


「一応B級グルメランキングで3位だったから」


 僕が解説してると、ちょうど塩スープラーメンが3人前カウンターに、とんとんとん、と置かれた。澄んだとてもきれいなスープの色。でも騙されてはいけない。


「うわ、何これ!」

「しょっぱ!」


 2人は口ぐちに不平らしきものを述べるけれども、口の動きは止まらず、ズズズ、と結構な勢いで麺を啜りスープを飲み続ける。


「ひー、しょっぱい!」

「これはだめだよー」


と言いながら、スープまであっという間に飲み干した。

 僕はまだ半分残ってるんだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る