3-13

 私たちは、人混みから少し離れた場所まで歩いた。晴れていれば座れたであろう場所は、先程の夕立で濡れていた。

「この辺でいいかな」

「うん」

 人通りがまばらになった所で立ち止まる。頭上には小さな外灯があって、私たちを静かに照らした。

「……君が僕の所へ来てくれた理由を、君の口からちゃんと聞きたい」

「うん……」

 向き合った佳くんの瞳を見つめる。

 彼も真っ直ぐに私を見ていた。

 らしたくなるほどの綺麗な瞳。その瞳に意識を全部持って行かれそうになるのを、ぐっとこらえた。

「私は、佳くんが、……好きだから、逢いにきた」

「嬉しい。とても嬉しいよ。でも、ここへ来る前に俊太の所へ行ったのは、どうして?」

 その口調は責めるのではなく、普段通りのそれだった。眼差しも柔らかく見える。

「俊太には、ちゃんと話しておきたかった。俊太に恋はしていないけど、付き合いの長い大切な存在だから、何も言わずにこっちには来られなかった」

 次の瞬間、佳くんが私の手を優しく引き寄せた。

けちゃうね。……さっきのバイトの子にだって、僕は妬いてしまったんだよ」

「ごめん……」

「どうして選んでもらえた僕が、こんな気持ちになるんだろう。今までに感じた事のない、複雑な気持ちだよ」

 佳くんが近すぎて、視線が彼の後方へすべる。

「駄目だよ、僕を見て」

 静かに囁かれた声音こわねに鼓動が乱れる。

 佳くんが、私の視線を自分の方へ戻そうと更に近付いた。

「前にも、そう言ったでしょ?」

「……!」

 彼の手が私の頬に触れる。

 もう、動けない――。

「……僕はもう遠慮しないよ」

 そうして唇に触れたそれは、飴玉で触れてきた指先よりも、ずっと優しかった――。

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