3-8

 佳くんが私の正面へ回り込んで、両肩を優しく掴んだ。

 佳くんってこんなに強引な人だっただろうか。

 どうしたらいいのか分からず、私の頭の中はぐるぐると回っている。

「君がこのままずっと下を向いているのなら、僕は下から君の顔を覗いてしま――」

「わ、分かった。分かったから、下から覗くのはやめて」

 ゆっくりと、自分の視線を佳くんの方へ向ける。それでも、どうしても彼と目を合わせることが出来ずに、それは宙を彷徨った。

「螢ちゃん、僕のこの気持ちだけは、俊太に負けない自信があるよ」

「う、うん……」

「君が好きだよ」

「うん……」

「今、君を困らせているのなら、ごめんね。でも、我慢できなくなってしまったみたいだ」

「……」

「好きだよ」

 私はもう、彼の言葉に倒れてしまいそうだった。

「もちろん返事は今は要らないよ。夏祭り当日まで待ってるからね」

「どうして、私を……? 私のどこがいいの?」

 佳くんは私なんかのどこに惹かれたのだろう。一体、いつから?

「恋に落ちるのに、コレって理由なんてあるのかな? 気が付いたら好きだったっていう方が普通だと思うけれど」

 佳くんは、うーん、と考えてから言葉を続けた。

「そうだなぁ。一緒にいて話していると楽しいし、演劇が好きなところだって合うと思うし……、謙虚なところも好きだよ。それから……」

 佳くんが私の顔に視線を戻した。

「顔もタイプだった。可愛いよ」

 穏やかな笑顔でさらりと言う。

 私の顔に熱が戻る。もう駄目だ、クラクラしてくる。

「佳くんって……」

「うん?」

「王子様みたいだよね」

「そうかな? 言われたことはないけれど」

「そうなの?」

「君の王子様になれたら嬉しいよ。なんてね」

 似合う。そういう発言が、凄く様になってしまう。

 他の人が言っていたら、絶対に引くような事を言っているのに。

 華やかで綺麗な人だからだろうなと、一人で納得した。

「佳くん、私、ちゃんと考えるよ。二人の気持ちが分かったから、二人のために、答えを出すから」

「うん、ありがとう。待ってるからね」

 そのとき不意に、携帯の着信音が鳴った。

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