3-6
「……」
すると遠くから、軽い足取りでこちらに近付いてくる足音が聞こえてきた。
俊太がドアへと歩き出し、途中でこちらを振り返る。
「祭りの日、待ってるからな」
そして俊太が外へ出ていくと、何やら話し声が聞こえてきた。その内容はこちらまでは届かず、何を言っているのかは分からなかった。
ゴロゴロと空が
ふと、雷が鳴っているのに俊太は来てくれたのだと、今になって気が付いた。
そして再びドアが開く。
「螢ちゃん!」
その声に反応して、私の鼓動は跳ね上がった。
しんとした部屋に、俊太が離れていく足音が聞こえる。
「佳くん、どうして?」
「俊太から、君の様子がおかしいからって連絡があって」
佳くんが私に近付いてくる。
彼は私の顔を見て、少し驚いたようだった。
「目が真っ赤だね。泣いていたの?」
佳くんがポケットからハンカチを取り出し、私の頬に軽く押し当てた。
二人の距離が、ぐっと近付く。
それだけで、私の心は落ち着かなくなってしまう。
先ほど俊太に抱き締められたときには、ここまで動揺しなかったのに。
「将来のこと、親に反対されたって聞いたけど……」
「うん……。でも、やっぱりかって感じ」
私は小さな苦笑いを彼に向けた。
「無理して笑わなくていいんだよ。悲しい時、つらい時、悔しい時。そういう時は、泣いてしまうのが一番。我慢をしてしまっては、心が壊れてしまうよ」
胸を締めつける優しい声。
「大丈夫。さっきもう泣いたから、少しスッキリしてるよ」
すると、佳くんのハンカチを持つ手が止まった。
「……俊太の胸を借りたの?」
瞬間、俊太に抱き締められた感覚を思い出してしまう。
でも、あれは違う。
「う、ううん。俊太が来る前に、一人で泣いたんだよ」
ぎこちなかっただろうか。佳くんが、私の顔をじっと見る。
「俊太と、何かあった?」
「何もないよ」
本当に悪いことはしていないのに、佳くんと視線が合わせられない。
「だったら、僕の目を見てちゃんと言ってよ」
先程から騒がしくしている鼓動を感じながら、私はゆっくりと、彼に視線をすべらせた。
窓際に立っているせいか、色素の薄い髪や瞳がとても綺麗で、私は何も言えなくなってしまう。
「……」
「……」
この沈黙がどのくらい続いたのか分からない。時間の流れが狂ってしまったかのような錯覚に襲われた。
「そんなに僕を見つめないで……」
佳くんの静かな声が空気を震わせる。
「そんなに見つめられたら、僕はどうしたらいいのか分からなくなってしまうよ……」
「それは……、どうして?」
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