2-15


「いただきまーす」

「ごめんね、あんまり種類が残ってなくてさ。思った通り凄い混雑していて、ほとんど売り切れ状態だったんだ」

 おにぎりやサラダ、唐揚げなども二人分あり、充分だと思った。

「全然謝ることないよ」

 私が笑いかけると、佳くんが私の顔を覗き込むようにして言った。

「何だか、元気になったみたいだね?」

「うん、まあね。先生とちょっと話したら、すっきりしたというか」

「そうなんだ。よかったね」

 佳くんが柔らかく微笑む。

 私は軽くなった気分で唐揚げを口へ運んだ。

「螢ちゃん、いい場所を見つけたよね」

 私は先生と話した場所を動かなかった。ここは木陰になっていて過ごしやすかったからだ。

「コンクリートだからちょっとお尻が痛いけどね。ごめんね、芝生まで行けばよかったよね」

「平気だよ。ちょっとだし」

 僕も、と言いながら、佳くんは唐揚げに手を伸ばす。

「佳くん、あのさ……、」

「うん?」

 先ほどから、胸がうずうずと落ち着かないでいた。

 この人だ。この人しか、居ない。

 私は思いきって、もう何年も、ずっと胸にしまっておいた言葉を口にした。

「私に、……演劇の基礎を教えてくれないかな」

 何となく彼の瞳を直視できなくて、少しだけ顔をうつむける。

「君に、演劇を?」

「……うん、駄目かな」

 そろりと視線を向けてみる。

「いいよ! うん! 僕でよかったら、喜んで!」

 どきりと鼓動が高鳴った。

 この人は、なんて眩しい笑顔をするんだろう。

 私の一言が、演劇という言葉が、こんなにも彼の表情を変えさせるなんて。

「ありがとう。私も、大好きなんだ、演劇が。佳くんに負けないくらいに」

「ミュージカルに憧れてたんだっけ?」

「そう」

 私は、富田先生と親友の愛実まなみにしか打ち明けていなかった夢と、初めてミュージカルを観に行った時のことを彼に話した。

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