旧芝離宮恩賜庭園

 人はいつか必ず死ぬ。ちょっとした不注意で、或いは不幸な事故で、あっさりと死んでしまう。いつ死んでも良いなどとは思わない(言ったことはある気がする)が、せめて死ぬその瞬間に、悔いはなかったと言えるような人生を送りたい。ふざけているのかと言われそうな書き出しだが、実際、酒が入っていて少し調子に乗っている。だが、まるっきり無関係というわけでもない。

 都立文化財九庭園いう括りがあり、芝離宮もその一つなのだが、前々からその全てに足を運んでみたいと思っていた。しかし、いつでも行けるだの、遠すぎるだのと、色々理由を付けて行っていなかったのを、今回やっと出向いた次第である。そして、これを以て全ての庭園を踏破したこととなる。

 芝離宮と言えば藤棚だと思うのだが、当然、咲いてはいなかった。殿ヶ谷戸庭園に続く失態だ。これでは見事な景色を見たいというより、ただ其処に行ったという話のネタが欲しいだけではないか、と言う疑問が頭に湧いたが別に話す相手もないので考えるだけ時間の無駄であった。

 では何を見ていたかと言うと、私は人間を見ていた。偶々その時がそうだったのか分からないが、何だか他の庭園と比べて、客層が違っているように思えたのだ。外国人観光客、散歩に来た老夫婦、カメラを持った大学生……この辺りがそれこそ九庭園全ての共通の利用者だと考えていたが、この芝離宮では疲れ切ったスーツ姿のお父さん方がベンチに等間隔に座っていたのである。その後ろに東京モノレールが見えたのも印象に残っている。

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