早朝散歩

 吸血鬼にでもなった気分であった。

 悪夢を見て、目覚めてみるとまだ朝の五時であった。いつもなら寝なおすところだが、気分じゃなかったので軽く朝食を取って外に出た。行きも帰りも電車は空いていたし、降りてからも人が少なくて歩きやすく、これは良いと思ったが、無視できない難点が一つだけあった。

 日差しである。焼かれすぎて死ぬかと思った。普通、西日の方が辛いものであり、普段の昼から夕方にかけての散歩ではそれを存分にくらっているのだが、そんなことは関係ない。暑いものは暑い。そもそも、何かと比較してあれよりはマシとかおかしな話なのだ。

 今、目の前にあることが辛い。例えば死にたいくらい辛いことが有ったとして、その人に向かって「世の中にはもっと辛い人が居る」と声を掛けることに何の意味があるというのか。当人にとってはその痛みが全てであり、何処かのもっと辛い誰かのことなんか知ったことじゃない。それに、その理屈でいけば、世界で一番辛い人のみが嘆く権利を与えられるということになってしまう。

 話が脱線したが、散歩中に考えていることなんてこんなものだ。大方、暑さで頭がやられているのであろう。

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