上野恩賜公園

 既にこの題名は使ったものだと思っていたが、そうでもなかった。確かに此処で特別に何かをしたという覚えは無いのだが……。

 今こうして書き出したからには何かあったのである。他愛のない話だ。

 午前十時に上野駅に到着して、まだ飲食店が開いていなかったので、適当にサンドイッチを購入し上野公園に向かった。公園なので椅子ぐらい、いくらでもあるだろうと思っていたのだが、悉く誰かが座っていたので困惑した。そういえば今日は日曜であった。仕方がないのでその辺の石に腰を掛けて、さあ、食べようと袋を開けた時である。一羽の鳩が足元に寄ってきた。私はまるでそうするのが当たり前であるかのように、自然にパンを千切って鳩の方へ投げた。鳩も当然だという顔でそれを貪り食らっていた。それを見ながら、不思議なことに何の感情も湧かなかった。愛しいとも、卑しいとも、思わなかった。

 鳩が食べ終わるごとに、一かけら、また一かけらと放ってやった。野生の動物は腹が満ちると、目の前に餌が有っても食べないというのは本当なのだろうか。

 そこまで量もなかったのですぐに食べ終わってしまった。鳩はまだ食べ足りないという顔をしていたが、空の袋を見せてやると何処かへ行ってしまった。別に恩知らずとも思わない。それでこそ野生である。

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