奇妙な男

 私がとある駅の近くを歩いていた時の話である。電車で通り過ぎることはあっても散策することが殆どない道だったので、へえ、こんなところがと周囲を見回しながら彷徨っていた。かなり挙動不審であったに違いないが、そんな私より遥かに怪しい輩が前方から近づいて来たのである。


 男は丸眼鏡に長髪、ベージュの作務衣に下駄という格好をしており、一目見ただけで何か強い思想や感情の持ち主だと理解できた。


 さっさと擦れ違ってしまおうと脚を早めたが、あろうことかこの過激派は私を呼び止めて駅はどこかと聞くのであった。土地勘が無いので、咄嗟に東の方を指差した。私の歩いた北側に取り敢えず駅は無かったし、駅を探して歩いているなら男の通って来た南側も無いだろうという推測だ。西側に道はなかった。


 名もなき革命家は軽く頭を下げて私の差した方へ行ってしまったが、私は男と別れてすぐに駅を見つけた。あの主義者は駅の近くを通りながら、それを見落としていたようである。何だか恐ろしい体験をした気分だ。

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