花見、人混み、一休み

 汐入公園で花見客を見て、ああ、のどかだなと思ったのも束の間。隅田公園に差し掛かると先ほどの何十倍もの人でごった返していたのだ。いつもは屋形船がせいぜい二三艘居るだけの隅田川も何だか混雑している。たまらず私は人の居ない場所はどこかと脳内地図を探した。

 そうだ、谷中霊園があるではないか。浅草寺を避け、人の居なさそうな吉原大門のあたりからぐるりと回り、日暮里駅のもみじばしを渡った。何かおかしい。向こう側から来る人が多すぎる。橋を渡り切った私は膝から崩れそうになった。人、人、人である。墓参りに来たわけではない彼らの目的はすぐに分かった。ソメイヨシノである。なんなら隅田公園より見事に咲いていた。だからと言って霊園に詰めかける必要があるのか。私はもう疲れ果てていた。他に心安らぐ場所はないのか。

 六義園だ。一年前に行ったきりだが、あそこが混んでいるとは思えない。そうだ、それがいい。私は谷中霊園を足早に駆け抜け、不忍通りに入り六義園へと急いだ。だが、六義園に着いて、さて入口は何処だったかなと近づいた私はまたも驚かされた。行列が出来ていたのである。もはや私に安息の地は無いのではないかと思い始めた。

 私は精も根も尽き果て、救いを求めるような足取りで池袋に向かった。書店にも入ったが、疲れていてすぐに出てしまった。その頃になるとすっかり日が沈んでいた。私は今日一日何をしていたのか。学習院下をふらふらと彷徨っていたが、やがて神田川の辺りが光輝いているのが見て取れた。もしや、と思い私は面影橋に向かい足を速めると、案の定であった。神田川沿いのソメイヨシノがライトアップされていたのである。無論、他にも人はあったが不快になるほどではない。桜に振り回された一日だったが、今日初めて桜を綺麗だと思うことが出来た。

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