新宿御苑

 今日も今日とて東京の街を彷徨っていた。人は私を見てこう言うだろう。暇なのかと。私は決して暇ではない。頭の中にはやらなきゃいけないことが渦を巻き、どれから手をつけたらいいか分からないほどである。だから私は外に出るのだ。何かを変えるために、何かを成すために。まともな人は私を軽蔑するだろう、疎ましく思うだろう。しかし、こうでもしないと私は生きていかれない。

 今日は新宿御苑に行った。いつ行っても閉まっているというイメージだったのだが、珍しく開いていた。尤も、今日も閉園一時間前だったのだが……。

 そんなわけで温室ぐらいしか見ることができなかった。だが、この温室が存外私の心を打った。タビビトノキという熊手のような奇妙な木も愉快であったし、コーヒーやカカオがなっているのを私は始めてこの目で見た。何より面白かったのが、ここは入り口ではありませんと書いてある扉の前で外国の人が悲しそうな目をしていたことである。彼は手を交差させ「もうダメなのか?」という顔をしていた。私がジェスチャーで入り口は向こうだと伝えるととても嬉しそうだった。その時点で閉園十分前だったのだが彼は楽しめたのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る