第3話 異世界転生

 

 ヒッヒッフー! ヒッヒッフー!


 肉の塊に揉みくちゃにされながら、ある一定の方向に移動させられて行く。なんとか抵抗しようとしても抗えない。しばらくすると、暗闇のなか一筋の光が射し込んできた。この状況を脱する事ができるのか?俺は必死に光の射し込む方向に身体をくねらせて進んでいった。


「おぎゃー!おぎゃー!」


 俺は遂に肉の塊の中から脱出した。


 アレッ?何だ?この状況は?


 目の前には耳が少し尖った金髪の女性が幸せそうに微笑んでいた。


 誰だこの人は?状況が飲み込めない。


『これは転生した様じゃな。』

 紅龍がつぶやいた。


『転生、何だそれは?この金髪の綺麗なお姉さんは誰なんだ?』


『転生は転生じゃ!よくある事じゃ。生ある者は誰しも、輪廻転生すると決まっておる。そして、目の前の女が、わらわとお主の母親じゃな。』


 この綺麗な金髪美女が俺のお母さん?耳が尖っているんだけど?巷で言うエルフと言う奴なのでは?これは噂の異世界転生って奴?


 確かに、ここは元いた場所では無さそうじゃ。大気中の魔素量が、尋常でないのう。


 魔素が多いと言う事は魔法が使えるんじゃないのか?エルフがお母さんだし。完全なファンタジーの世界じゃん!紅龍も、元は龍だったんだから魔法を使えるんじゃないのか?


 多分、魔法なるものは使えるじゃろう。

 そもそも、わらわを封印した者は、陰陽師おんみょうじの達人であった。陰陽師と魔法は似たような物じゃろう。その末裔であるお主に、才能が無いはずは無い。


 それと、たぶん妾も魔法なる物は使えると思うが、妾が知ってるのは、龍族特有の術じゃ。この身体では、術に耐えられなくて壊れてしまうわ!


 やっぱり魔法が使えるのか!23年間引きこもって、ラノベの異世界物を読みまくって得たチート技術を、遂に解禁する日が来るとは!


 お母さん魔法教えてくれるかなー!


 魔法を覚えるのはいいが、お主は母様の言葉が分かるのか?


 エルフの金髪美女が、俺の顔を見て楽しそうに話している。


「······-----·····----····。」

「··········----♪」

「·····----···········?」


 ウーン···。何言ってるのか分からない。


 なら、言葉を覚えるのが先じゃな。




 2ヶ月が経過した頃、まだウーウー唸る事しか出来ないが、相手の話す事が少し分かる様になってきた。

 おはよう。とか、おやすみ。

 それから自分の名前も分かった。


 俺の名前はアレンと言うらしい。まだ呼ばれてもピンとこない。


 俺の名前がアレンならば、同じ身体の紅龍もアレンなのだが、同じ名前だと分かりにくいと、だだをこねるので名前を付ける事にした。


 そのまま紅龍でいいんじゃないの。

 と言ったのだが、紅龍は種族名で名前では無いらしい。一応女の子なのでアリスと名付けてやった。初めて名前を付けてもらったらしく、とても喜んでいる様だった。


 3ヶ月が過ぎた。母親の名前がエリスと言う事が解った。たまたまだが、紅龍に付けたアリスと言う名前は、俺の名前のアレンと母の名前のエリスを合体させた感じの名前だったので、上手く親子っぽい名前が付けられたと満足した。


 そして遂に嬉しい発見があった。この世界には、やはり魔法があるのだ。エリスがランプに火を着ける時に、何やら呪文の様な言葉を唱えて火を着けたのだ。


 俺の母親は、魔法使いだったのだ!


 早く言葉を覚えて、魔法を使える様に

 ならなければ!

 幼少期に魔法を覚えるのは、異世界転生の基本中の基本なのだ。


 なのだが、俺は既に魔法が使えるらしい。アリスが俺の寝ている間に試したらしいのだ。


 この身体は俺が起きている内は俺の制御下なのだが、寝てる時など俺の意識が無くなってる時はアリスの制御下になるらしい。


 しかも、アリスは俺が起きてる時も意識があり、俺と話す事もできる。


 そして、この身体で龍族の魔法は使えないのだと思っていたのだが、どうも、元いた世界の人の体とは、構造が違ってたみたいなのだ。


 元の世界の人間は、体の中で生成した魔素しか使え無かったのに対し、今の体は、大気中の魔素も取り込んで使えるみたいなのだ。こちらの人間がみんなそうなのか、エルフの血が混ざっている事に関係しているのかは解らないが。


 とにかく、龍族の魔法が使えるらしい。勿論、炎を吐くとか、暴風を吐くとかの強靭な龍の体でないと出来ない魔法は使えないが、大気中の魔素を使う天候を操作する魔法や、空中浮遊などができるみたいだ。


 元の世界でも、そうした魔法が使えたのは神獣と言われる高等な種族や、大妖怪しか使えなかったらしい。大気の魔素を自由に操作するのは、滅茶苦茶難しいらしいのだ。


 勿論もちろん、人間は、大気中の魔素を取り込んだり、操作する事ができないので絶対できないらしい。確かに、元いた世界で飛んでいた人は一人もいなかった。


 そして、この世界は大気中の魔素が元いた世界より桁違いに多いらしい。元の世界も昔は大気中の魔素はある程度はあったのだが、アリスが封印から目覚めた時は、ほとんど大気中に魔素は無かったみたいだ。


 それで、たまたま目覚めた時に、目の前にいた体内の魔素総量が多い俺に取り憑いて、完全復活を目指したという訳だ。


 ちなみに、封印から復活後の元いた世界では、魔力が強い妖怪の類は感知しなかったらしい。あれだけ大気に魔素がなければ、生きていけないだろうとの事だ。


 という訳でアリスは、俺が寝て意識がなくなってる間に、龍魔法を試したらしい。とりあえず雨を降らせたり、空中浮遊は難なくできた様だ。大気中の魔素量が多いので元いた世界より簡単に大気中の魔素を操れると言っていた。


 ちなみに、元いた世界では空中浮遊が出来るかどうかで、格の違いを表す指標になっていたらしい。アリスはそれをわざわざ説明してから、


「ワッハハハハ!妾は最強、最悪の厄災龍アリス様じゃ!これ位は、できて当然なのじゃ!」


 と、叫んでいた。


 ただ、初めてもらった自分の名前で、いつもの登場のセリフを言ってみたかっただけだろう。


 しかし、こんな中二病の奴でも実力は伴っている。生後3ヶ月で天候を操れて、しかも空中浮遊できるなんて、どんだけ凄いチート野郎なんだよ!


 生後4ヶ月目、若さと日々の特訓の成果か、日常会話程度なら喋れる様になった。これも早く魔法を覚えたいという欲求のなせる技かもしれない。

 しかし、舌足らずのせいか片言でしか喋れない。乳児が生後4ヶ月で、ペラペラに喋れたら逆に気味が悪いので、これはこれで良しとしよう。


 それから、話して置かなければならない異世界転生で避ける事の出来ない最大のイベント『授乳』なのだか、それはこちらの世界で産まれた後、間もなく始まった。


 いきなり、目の前の金髪美女が、胸元をまさぐり出したのだ!


 突然の事で驚いたのだが、すぐに何が

 起こっているのか理解した。


『授乳』だ。


 金髪美女は、形の良い小振りの乳房をあらわにして俺の顔の面前に突き出してくる。


 初めての経験で固まっていると、アリスが

「何をしておるのじゃ早く吸うのじゃ!」

 と急かしてくる。


 俺は呪いで引きこもっていたせいで、女性は疎か男性とも、それ程関わりあってなかったのに、いきなり金髪美女の乳を吸うというのは…


 暫く、乳首を見つめて固まっていると、金髪美女は、痺れを切らしたのか乳房を押し付けてきた。


  「ペロッ」


 俺は反射的に舐めてしまった。


「ア~ン!」


 金髪美女は、艶めかしく喘いだ。


 俺は自分の母親を感じさせてしまったのだ…


 何で俺は吸わずに舐めてしまったのか?

 何とも言えない罪悪感と焦燥感がどっと襲ってきた。


「何をしておるのじゃ!舐めるんじゃない!吸うのじゃ!」


 そう…解っているのだ…乳首は吸わないと乳が出ないことぐらい…でもできなかった…そして、思わず舐めてしまった…それで実の母親を感じさせるという…最悪の結果をもたらしてしまったのだ…



 最終的にはアリスの指導のもと無事、乳を吸う事に成功した。


 とても美人で魅力的な女性なのに全く性的興奮はしなかったのは、まだ実感がないが母親だからなのだろう。


 授乳イベントはさておき、俺はやっと言葉を喋れる様になったのだが、アリスはもっと先に行っている。


 空中浮遊ができるのをいい事に、皆が寝静まるのを確認すると、家を探索しているのだ。そして、ある部屋で魔術の本を発見したらしい。それを見て夜な夜な魔法の勉強をしているのだ。


 無詠唱の龍魔法は既に使えるが、人間が使う魔法にも興味があるらしい。


 アリスによると、ここの世界の魔法は詠唱による魔法と、魔方陣による魔法の二種類あるらしい。これは元の世界とだいたい同じだという事だ。


 詠唱の原理はほとんど同じで、ただ言葉が違うだけみたいだ。元の世界の御札による陰陽師の術も、こちらの魔法陣も、紙に術式を書くか、適当な所に書くかの違いで、こちらも言葉が違うだけらしい。


 俺はまだハイハイもできないので、天井のシミしか見る事ができないのに…


 取り敢えずの目標は、ハイハイが出来るようになる事だ!


 俺は誰かさんの呪いのせいでずっと歩けなかった。


 俺の中では無詠唱の空中浮遊よりハイハイは凄い事なのだ!


 と、自分に言い聞かせた…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る