かつて僕は白の天使と呼ばれていた

みるくてぃー

第1話 思い出は時の中に

 『ごめんなさい、私はもうあなたの側には居てあげられない。だからアリス、あなただけは生きて』


 いつからだろう、彼女の夢を見なくなったのは。

 いつ頃からだろう、あの日の事を思い出さなくなったのは。


 今日の空は青く澄み切っている。そういえば彼女と出会ったのもこんな雲一つない空だった。



「何ぼさっと立ってるのよ、行くわよアリス」

「って、セリスだって言ってるだろうがミリィ」

「私はアリスちゃんの方が好きですよ」

「ほら、リリーだってそう言ってるじゃない、いっその事名前変えちゃえばいいのに」

「そんな事できるわけないだろうが」

 やれやれ、一体同じ問答を何度繰り返しただろう。だけど存外悪い気分がしないのはそれだけ前にすすんでいるんだという事にしておこう。


「置いてくわよセリス」

 遠くの方からミリィが立ち止まり僕の事呼んでいる。

「待っているなら先に一人で行くなよな」

「そこがミリィちゃんのいいとこですよ」

 僕の肩に乗ったリリーが、ご丁寧に独り言に付きあってくれる。

「そうだな」


 コーネリア、君にもらったこの命、今日も僕は元気だよ。

 





 魔法都市メルキア、この世に魔法が実用化されるようになってから約1000年。魔法による事件や犯罪に加え、魔獣と呼ばれる魔法生物に対抗するために設立された魔法騎士団。

 このメルキアはそんな魔法騎士を育成するために作られた街で、毎年多くの若い騎士達をこの世に送り出している。




「おいセリス、いい加減にしろ。こんな簡単なサポートも出来ないのかよ」

 僕に怒鳴ってきたのは暫定パートナーであるギルバード。

 ここ魔法騎士育成学園では二人一組のパートナーを組み、訓練から私生活まで共に過ごし一流の魔法騎士を目指す。その為自身のパートナーとなる相手はお互いの意思疎通が出来、共に助け共に学んで行かなければならない。


 先ほどギルバードの事を暫定パートナーと言ったのは、僕たちがこの学園で学ぶようになってからまだ一ヶ月程度しか経っておらず、最初は学園のシステムが弾き出したパートナーと組み、授業を受ける仕組みなっているため。いずれこのお試し期間が過ぎれば別のパートナーを探す事になっている。


「たく、何で俺様が魔法ランクDのヤツと組まされるんだよ」

 パートナーであるギルバードは、僕の目から見ても新入生の中では頭一つ分飛び抜けている。

 その目安となるのが学園の入学の際に個々に付けられる魔法ランク、これは魔法量・魔力・戦闘力・魔法のバリエーションなどによって定められており、アルファベットのE〜A、S、SSという順番で上がっていく。


 この僕達が通う学園は、魔法騎士育成学園の中でもエリート中のエリートと言われており、入学するにも最低Cランクは必要とされている。

 そんな僕が何故ランクAと言われているギルバードの暫定パートナーに選ばれたのか、そもそも何故入学試験がすんなり通ってしまったのか。全く思い当たる節が無いわけでなないが、その可能性としてはかなり低いだろう。



 ピィーーー!

「今日はここまで!」

 終了を知らせる警笛と教官の声が高らかに響き渡る、どうやら今日の訓練はこれで終了のようだ。

「くそっ、結局今日も何も出来なかったじゃねぇかよ、とっととパートナーを変えて欲しいぜ」

 ギルバードはそう言うと、疲れ切って膝を付く僕の横を素通りして校舎の方へと向かっていった。


「よう、大丈夫か? 今日もまた随分苦労していたみたいだが」

「まぁ、彼も戦闘力自体はありますからね。もう少しパートナーを頼ればとは思いますけど」

 話しかけて来たのはこの学園で知り合ったアルベルトとジルベール、二人とも学園のシステムが弾き出した暫定パートナーだが、この一ヶ月で共に有効な関係を築き上げ、立派なパートナーへと成長している。


「まぁ、実際僕が彼の足を引っ張っている事には違いないからね」

 息を整え二人に並ぶように立ち上がる。

「そうか? 仮にも学園のシステムが選んだ暫定パートナーだ、Aランクのギルバードに相応しいと判断されたんだからもっと自身を持ってもいいと思うぞ」

「そうですね、私もアルベルトと同じ意見です。暫定パートナーは入学当初に受けた能力テストから判断されているそうですから、セリスの力はAランクの彼にも匹敵するのだと思いますよ」

「ま、まさかぁ……僕の魔法ランクはDなんだ、実力が違いすぎるよ」

 一瞬驚いたように心臓の音が高鳴るが、気持ちを落ち付かせるよう自分の魔力を否定する。


「そもそもセリスの魔法って支援型魔法だろ? 仲間の武器を強化したり防壁を貼ったりする。接近戦を武器とするギルバードにはピッタリだと思うんだけどなぁ」

 アルベリクの言う通り僕の魔法は支援型が多い。もちろん攻撃に転用できる魔法も使えるが、魔力が弱い為にそれほどダメージを与えられるものではない。だけど支援型の魔法のバリエーションだけは自信があるが、いかんせん、魔力と魔法量がそれに伴っていないのが現状だ。


「私もそう思います、彼がセリスの魔法を活用しないのですから宝の持ち腐れというものですよ」

 ジルベールがアルベリクの言葉に付け加えてくれる。

「二人ともありがとう、でもどうせ明後日のパートナーチェンジで見限られるだろうから、これを機に新しいパートナーでも探してみるよ」

 入学一ヶ月はあくまでも暫定、その後二人の関係を続けるもよし、それまでに新しいパートナーを見つけるもよし。もし見つからなければ一週間後に再び学園のシステムがパートナーを選定する仕組みになっている。

 アルベリクとジルベールはこのままパートナーを続けていくそうだから、僕はそれまでに新しいパートナーを見つけられればいけないのだけれど、今のところ彼ら以外に友達がいないので今回は望みはが薄いだろう。

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