近代化に技術は必須だ
彩姫の未来での名前は本田彩だという。それはいいのだが、これが思わぬ拾い物だった。まず近代の軍制についての知識があった。フランス革命を描いた某漫画がきっかけらしいが、個人で独自に調べたらしい。本人の理想はフランス革命時代に転生だったとかなんとか。
ちょっと300年程ずれたが誤差の範囲だ。彼女の知識を絞り出して軍備を整える。火薬の調達はわずかだが増えているので、臼砲を作った。3~4発撃ったら割れたが、尾張国境の廃棄砦に撃ち込んだら板塀が吹っ飛んだ。
ついで兵の編制を整える。寄り親寄り子のピラミッド状の編制から、流民を中心とした常備兵を主力として持ってくる。これは、松平家の旗本として現在2000ほどが動員可能になっていた。
そもそも領民兵が損耗すればそれはそのまま生産力の減少となる。であれば、生産から切り離した、いい方は悪いが死んでも影響の出ない兵が必要である。
「とりあえず白兵戦特化の斬り込み部隊を作りましょう」
彩がそう告げてきた。
「いるぞ?」
「ではなくて、例えばこの時代なら剣豪とかいるじゃないですか」
「ああ、そうだな。徳川剣術指南役として柳生とか」
「そうそう、そういった人たちを抱き込みましょう。いまなら服部党の伝手でそっちから引き抜けないですかね?」
「ふむ、保長、どうか?」
どこからともなく現れた保長が跪いた。ほんとこいつが敵に回ったら俺の首は3日と持つまいな。
「はっ、まずは間者を送り込み尾張と三河の評判を流しましょう」
「伝手を利用するのはその先か」
「左様にございます。して、禄はいかほどご用意されるので?」
「まずは服部党の次位だな。お主らも新参が同じ評価であっては腹立たしかろう?」
「いえ、まずは殿のお役に立つかどうかにござる。彼らが有用であればその働きに応じた禄をお出しください。それが我らよりも高き禄であっても良いかと」
ったく、自分たち以上の者はいないと言いたげだな。まあいいさ。実際保長たちが居なければ俺は耳目を失う。彼らに対する褒美を惜しむことは無い。
「いいだろ。その方針で行ってくれ」
「はは!」
今川と和睦したことで武田とも敵対関係とは言えなくなった。友好関係は築いていないし、仮装敵くらいに置いておこうか。
すでに今川は敵対関係にないと言っていいだろう。現在、織田、松平の同盟に加盟すべく家中の意志をまとめていると元康から連絡があった。
北条から伊豆位は切り取って見せようと意気軒昂である。というか、国力比で行けば織田、松平と今川単独がほぼ匹敵する。伊勢湾からの産物を駿河まで運び交易をおこなうこととした。交易が盛んになれば生産も活発になり、投資が進む。
と言ったあたりで問題が出た。撰銭だ。東海では永楽銭が主要な貨幣だ。しかしそれを上方に持ち込めばビタ銭扱いとなる。西国との取引には宋銭が好まれることもある。そして南蛮、すなわちヨーロッパからの産物は九州の商人が取り仕切っている。
南蛮商人は金銀を対価として求める……あ、灰吹き法を忘れてた。彩殿がその知識を持っていたので、銅塊を買い集め金を取り出す事業を始める。駿河の金山もこの方法で金の純度を上げることができるだろう。ふむ、こうしてみるといろいろと見落としがあったな。
とかなんとか言っていたら、なんと柳生石舟斎がやってきた。と、今は宗厳か。
「柳生の荘は先祖伝来の土地とはいえ、山がちで暮らしにくい土地柄にござる」
開幕これかい。尾張国境付近に開拓した土地があるからな。そこら辺を任せるか。
「貫高は二千貫だ。あとは手柄に応じて加増してつかわす」
「ありがたきことにて」
宗厳は平伏する。事情を聴いたところ、柳生の荘にて食い詰めた次男坊以下を引き連れてやってきたそうである。彼自身は剣客として名声を博す前である。というか、俺の業前は柳生から伝授されたものだからな。ひとまず手合わせするか。
「お主の業前、見てみたいと思うが如何?」
「では、お相手いたしましょう」
子供と侮っていたが、俺が構えた瞬間目つきが変わった。俺の打ち込みをきっちり外していくが、俺もこやつの打ち込みをしっかりと受ける。それこそ事前に決まっていた方をなぞる稽古のように見えただろう。
「殿、その業前は……?」
「前に立ち寄った兵法者に学んだものだ」
口から出まかせである。が、こやつにそれを確かめるすべはない。とりあえずは土地をもらえるから従おう、から、油断ならぬ主程度には認識を改めてもらえたようだ。
「新次郎よ、そなたには兵を鍛えてもらいたい。剣術もそうだが険しき柳生の地にて鍛え抜かれた強者をここ三河で再現するのじゃ」
「……山岳戦を専門とする兵を欲しておられるか?」
「数百の兵で三好、松永、筒井との戦いに勝ち抜いてきたお主らを俺は高く買っておる。そうよな。山に鹿砦を連ね、敵を破る兵法は俺も興味がある」
「そこまで……」
「先ずは家中にそなたらの力を見せるのだ。松平の武の根源となるを期待しておる」
「ははっ!」
柳生衆は奥三河の防備を強化してもらう。あとは早めに武田と通商の約定を交わすか。塩を持ち出せば否やとは言うまい。今川以外に調達先は欲しかろう。あとは飛騨近辺の岩塩か。信濃でも一部あったな。
武田はじわじわと弱らせる。北条とは当面、和を演出する。こうして三河の戦力の底上げをするのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます