画面の向こう側

熊井 緋丹座

画面の向こう側

画面の向こう側にいる君は、きっと僕の顔を知らないだろう。僕も見た目以外の君を知らない。何か発言していても隠れた本心までは見抜けない。見抜こうとしても良いのだが、見たくない物で見てしまいそうで踏み留めている。そうして君と僕の関係は保たれている。ここまで来れたのもネットのおかげ。良い事も嫌な事もあったネットだけど君と出逢えた事も見たくない部分を見れそうになる事も全てネットのおかげ。感情が出る顔を僕は楽しみにして画面の向こうで楽しんでいる。どんなに距離を近づけても君との距離は一定で止まる。物理的にも精神的にも限界はある。ネットというシステムで結ばれていて僕らは自由になる事は無い。永遠に同じ事を繰り返すだけだから。一期一会の出逢いを何度でも出来てしまう恐ろしい世界で出逢ってしまったのが僕らに取ってデメリットと感じる。このシステムのおかげなのだが、それを悪い理由の一つにしてしまう。挨拶しても挨拶しないし、お礼を言ってもお礼をしてくれないのは当たり前。僕らの期待と君達の期待は交差するだけ。それが醍醐味という人もいればつまらないという人もいる。実際そこまでして会話する意味など無いのだが、人間は残酷なくらい期待してしまう。それが、人をむやみに蝕む事とは知らず。


都会に住んでいない僕は、都会に憧れたり恐れたり、様々な感情を抱いている。面白い場所もあればクレイジーな人間もいる。行って体験してみたいと思うが、暮らすには困難な場所でしかない。荒れ果てた都会に住む家などあるのか不思議なくらい。しかし、そういう場所に僕の憧れの人がいる。一体何処に住んでいるのか、詳しいプロフィールを見てみたい。公式で書いてある事とプライバシーの関係で隠している情報だって沢山あるはず。てか、ある。実際にお会いして根掘り葉掘り聞いてみたいが、そんな勇気は何処にも無いし、会ってくれるかどうかも怪しい。そんな関係でも憧れてしまう。ゼロよりもマイナスのスタートから始まってしまう。一生プラスになる事は無いのだが、プラスになろうと他の人間は頑張っている。見た目も年齢もレースに出場出来ない奴らが、必死になっている所を見ていると冷めてしまう。僕と同じ人に興味を抱いている人が存在している。仲間は沢山いた方が嬉しいが、仲間の質が以上に酷い。そんな奴と一緒と思うと人生諦めてしまいそうになる。きっとこいつらは都会に行って金費やして応援しているのだろうと思っている。僕の事もそんな奴だと思っているのだろう。類は友を呼ぶという所の友にはなりたくないのだが、他人からはそう思われているのだろう。そんな事を気にしないのが大人なのだが、まだまだ若いと思い込んでいる僕には周りの目を気にしてしまう。憧れの人もこんな人を相手にしていると思うと憧れるのを止めようなんて時も思う。都会にはこういう人しかいないと考えてしまうと夢が無い。ぶっ壊された気分。都会から離れた場所、都会の人間からしてみれば田舎と言われる場所に住んでいる僕は、そんな汚い人間を尻目に画面の君を見続ける。どうしようもない田舎ではこんな事しか僕が出来る事は無い。昨日も今日も明日も色褪せない君を見続ける。いつまでも見ていると信じたいのだが、悉く趣味を止めた僕には自信が無い。熱中していたアイドルの応援すら飽きたのだから。飽きる事を前提にハマる訳は無いから貫いていきたいけれど時間という残酷さを何度も知っている僕には抵抗出来ないでいる。飽きるまで楽しめば良いのだと、数十年生きてきて自分の操縦を知らない人間など存在しないはず無いのだから。何が起きても良い様に画面に映る綺麗な君を今は眺めていたい。


四つの四季があるのかという程、崩れた季節は僕の記憶を忘れさせる。学校で覚えた単語も公式も大切にしようと思った友人まで忘れさせてしまった。しかし、いつか見た君だけは忘れていない。名前は忘れていても脳裏に過る綺麗な顔を思い出して名前がそれと共に浮かんでくる。どんどん期間が長くなり長い時は一年に一回しか君を思い出せなくなる。マイペースな君は、どんどん僕らから離れようとしている様にも思える。僕らの事が嫌いなのか、何か思いがけない事が身の周りで起きたのか。それでも君は原因を言わすに美しい顔を披露している。自分だって人の事言えない。周りの人間に陰口言われても顔色変えずに過ごさないといけない。そんな事、他人に言える訳も無いし、どうしようも出来ない。ただただ耐えるだけの毎日。もし、君が僕と同じ立場ならとても強いメンタルなんだとさらに応援したくなる。まるで弱い自分を重ねる様に「頑張れ」と。弱った人間でも輝いている姿を見ると思わず感嘆が零れてしまう。僕も強くならないと。勝手に相手を弱者と見立て己を鼓舞しようとする負け犬の遠吠えを僕は毎日してしまう。僕自信弱者では無いという事を証明しないと。同じ者と一緒にされたくないと。今の自分と君を比較してしまうこの儚さ。競争も出来ないのに何故か頑張ろうと虚構の勇気が湧く。エネルギーはストレスと代償にして。昔の君も今の君も、そして未来の君も並行に歩んでいく。並行かは定かでは無いが、足元さえ見なければ何もへこたれない。そう信じて進む。事実を知るのが辛いから。一歩前へ進んでいる感覚が安心感を感じてしまっている。変化などしていないのに変化していると錯覚してしまっている自分を見れないでいた。このまま時が止まれば良いのに。何も変わらなければ良いのに。独断と偏見が詰まりに詰まった人間に選択権は一つも無い。強制的に動くを時を虚しくも受け止めざるを得ないのだから。


永遠を求めた日、君は僕達の前から消えていった。理由も不確かで疑問に残る形で居なくなった。僕らのせいでは無いと思っているが、世間は厳しく僕らのせいだと思われている。純粋に応援していただけなのに不純だと世間からは誹謗してくる。人を応援してはいけないと遠回しに言われているみたいだ。君と僕の時は一緒で同じ年数分進んでいる。だから、取る歳も一緒。そこまでの差は無いと思っていたが、見た目には大きな差が出来ていた様だ。まるで同年代とは思えないぐらいに。現実を突きつけられた気分。もう無茶出来ない歳になると何もかも責任を他人のせいにしたくなる。君が消えていった理由も。二度と君に会えないのだから寂しさの感情がある。それまでは薄くなりつつも関係はあったはずなのに。初めて君と出会う為に貯めたお金で都会へ行ったあの頃を思い出す。君の為に行ったはずなのに君との差を知ってしまって会う事を躊躇ってしまった。披露する応援する関係だけを意識していたのに何故か他の感情もある。数ヵ月前までは気にしていなかったのに数日前には気にする様になった身だしなみ。君に不快な思いをさせたくない為に色々なサイトで清潔にしようと努力してみた。それと同じぐらいで鏡を覗いてみた。久しぶりに見る自分の顔。昔の顔が思い出せないぐらい顔が変わってしまった。鏡で見た自分は、到底に外出するには向いていないと思うぐらいの荒れ模様。このままでは君に会えない。でも、素の自分を見て欲しいからそのまま行こうかな?いや、嫌われるだけだから止めておこう。自分と向き合える唯一の時間に大切な事を知った感じがした。時間の残酷さは昔から知っていたはずなのにそれを知らないフリしていた。分かっているけれど今まで送ってきた人生が無意味だという事に気付きたくないから。君に会う前と後で影響したくないから。本当は、君の存在などを知らなければ良いのに本能が君を求めてしまった。僕の心はもう止めれなかった。君と会うまでは。


都会のとある建物で行われた催し物。そこで僕と君は出会ってしまった。様々は心情を経て会う事を決意した。誰に責任をぶつければ良いのか悩んでいる間に時間は過ぎてしまい当日になった事は助かったと思う。答えが出る前に会えた事は、僕の心を救ってくれた様だ。君は画面越しで見るよりも綺麗で妖しい雰囲気に包まれていて僕のハートを射止めれた気分に浸った。実際に会ってみて自分の目で見た時は、あまりの美しさに言葉で表せなかった。秀麗過ぎる君を何かで表現するのが失礼過ぎたから。他人が一生懸命言葉で表すのが腹立つぐらい、言葉にしなくても伝わる綺麗さに死んだ目が輝いた気がした。画面で見た綺麗さは嘘では無かった。惑わされていると途中から疑いだしたが、それでも会ってみて本当だという確信を得た。今までの努力が報われた、そんな気分に酔い浸った。吹き出しそうな思いは有ったけれど顔からは笑みが零れそうになった。数年間君を追い続けた結果が、実証として出たのだからやりきれない事など無くなったのだ。それからは、君の心配などしなくなった。一度出会えた事で、安堵感が募ったのか近況などを知ろうともしなかった。死んでいないのならそれで良い。君の笑顔には裏がありそうな事だけは、表として言わなかったけれどそれでも僕に向けられた笑顔は確かだと言う事。それが、知れたのだから充分。もう疑問も浮かばない。こうして僕と君の関係性は続くのならば。


年月が経ち、お互いがお互いを忘れてしまいそれぞれの道を歩いているのだろう。名前はともかく顔すら思い出せなくなっていた。あの時会った君はどんな顔をしていただろう。薄暗い部屋の中、ふとそんな事を考えてしまう。あの頃の僕はどうかしていたんだろう。部屋の中にいた自分以外の人間が僕を呼んでいる。その表情は、人間らしい含みを持った顔をしている。まさに自分に似た顔だった。上っ面な会話が苦手になってきた僕には嬉しい顔だ。無謀にも頑張っていた自分が恥ずかしいぐらい僕には大切な物が増えてしまった。君との関係性も契約した者によってなし崩し的に終わってしまったが、それで良いと思う。これ以上なあなあで続いていたら人生を狂わされる恐れが有ったから。感謝ばかりで頭が上がらない。そんな暖かい家になりそうな時、君はどんな風に過ごしているだろうか?まだ同じ道を歩んでいるのか、それとも違う道に変えたのか?こんな僕でも幸せになれるチャンスがあるのだから君も幸せになって欲しい。その願いはしておくが、届くと思ってはいない。ただあの日会った時の君が笑顔とは思えなかったから。


慌ただしくなる部屋の中、僕のメールには一件のお知らせが来た。

「春のオススメ・・・」

ねえ、君はどうして頑張っているの?

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