4.最初に出会った少女

 俺は一瞬何が起こったのかわからなかった。

 正直ここにきてからずっとそんな感じであったが、今度はいきなり現れた女の子が、手に持ってる剣で狼の怪物をぶった切る、だ。


 少女は長い金髪をしていた。

 それは染髪や脱色などといったものではなく、天然を思わせた。

 それじゃあここは外国なのか? と俺は考えた。

 ともあれ、第一村人もとい、第一人類発見だ。

 だが、俺は少女に声をかけようとして、少し思いとどまった。

 金髪ってことは外国人だよな……? 日本語通じるのか……?

 せっかく人と出会えても意思疎通が出来ないのでは、あまり意味がない。

 どうしようかと悩んでいると、少女が俺のほうに振り向いた。

 少女の顔を見た瞬間、そこでも俺は驚きを上げた。

 可愛い、というか美しい。

 こんな美女は今まで見た事がない――否、そこまで女性と付き合いあるわけでもなかったが。

 そして、顔の下、胸部に俺の視線が自然とスライドした。

 仕方が無いよね、僕も男だもの。というかあれを見るなって言う方が無理だよ。

 ジャケットを着ていても隠しきれていないと言うか主張が激しい。


 ――でかい、最早説明不要だ。


 だが、そんな俺とは裏腹に少女はこちらを警戒していた。

 そしてあろうことか、彼女は狼の血で濡れた剣をこちらに向けてきた。

 すみませんすみません何も悪いことはしてません! 否、その御立派なものは拝ませていただきましたすみません!


「……あなた、見ない顔ですね。名前と所属を名乗ってください」


 ――所属? 普通、人に身分を訊く時に『所属』って聞くか……?

 日本語で問いかけてきた事も驚きだが、珍しい内容の問いだ。


「俺は清堂せいどう 純一じゅんいち。所属は……えーと、株式会社ローラインの営業部――ではもうないけど、まぁもうそれでいいか……」


 後半、うやむやにしながらも、俺は聞かれたことに素直に返答した。

 こういうのは変に隠したり、嘘を言ったりすると後が恐いってね。若干嘘言ったようなもんだけど。


「セイドー・ジュンイチ? カブシキガイシャ……エーギョーブ? 何を言っているんです」


 あれ? 通じてない? 何で?

 普通、今のである程度は通じるはずだ。

 何かおかしい。

 おかしいと言えば少女の服装だ。剣を持っているという時点で銃刀法的にあれだが、服装も現代と言うよりは漫画やアニメで見る中近世ファンタジーっぽい感じだ。

 ……やっぱり、日本じゃないのか……?

 俺の中の疑問が、徐々に確信へと変わっていくのを自分で感じた。

 とはいえ、未だ日本であると言う可能性も捨てきれない。

 その時、ふと、俺はある可能性を思いついた。それは、

 ――もしかして秋田の山奥に外国の秘密研究所があって、あの狼はそこから逃げだしたキメラか何かで、この女の子は研究情報を外部に漏らさないために派遣された特殊工作員か何かでつまりそれを目撃した俺やばくない?

 その場合、この後の流れとしては研究所に連れて行かれて記憶を消されるか、目撃者は消すかのどちらかだ。

 俺としてはどちらもノーサンキュー。

 狼から俺を助けてくれたことには感謝するが、刃物も向けられているし、危ない状況は変わらないのだ。

 よし、隙を見て逃げよう。せっかく出会った訳でしかも超美人だが、雲行きも怪しいし、人は探せば他にもいるだろう。

 幸い、少女は俺の言葉の意味を理解しようと若干上の空だ。

 俺はじりじりと気づかれないように後ずさりした。

 狼から逃げていたあの速度を出せれば逃げ切れるはずだ。

 ――今だ!

 刹那、俺は走り出した。

 突然の俺の行動に少女は若干動揺したようで、動きが遅れる。


「あっ! 待ちなさい! このっ――」


 今更気づいても遅い。そう俺は思った。

 しかし次の瞬間。

 ……え?

 腕を掴まれていた。

 陸上選手並みの走りをしていたはずなのに、少女は俺に追いついてきたのだ。

 そのまま俺は右腕を背の後ろに持っていかれ、身体も地面に倒される形で拘束される。

 構図としては少女が俺に覆いかぶさる形だ。

 ……あっー! 痛いけど腕に服越しでもわかるほど育ったメロンがっいだだだだだっ!

 その時、少女の顔を間近に見た俺は気づいた。

 今の今まで少女の長い髪で気がつかなかったが、耳が普通の人間のそれではないと。


 それは、俗に言うエルフの耳だと。

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