07 正義は尻に敷かれる運命
俺はマリアンヌの瞳に耐えかねていた。どうしても今朝のことがフラッシュバックしてしまう。
「かわいい!」
そんな俺の姿に耐えかねてか俺は彼女に抱き着かれた。彼女からは甘い匂いがした。脳髄にビリビリとした感触が込み上げてくる。
「マリアンヌ、そろそろ時間だから……」
俺は時計を見てそう言ったがマリアンヌは体を放してくれない。
「では、私のことをマリーとお呼びください」
「マ、マリー?これで良い?」
マリアンヌは「はい!」と満面の笑みを浮かべようやく放してくれた。
俺は照れ臭そうに下を向いていつかのことを思い出していた。ひょんなことから谷風が俺の女性の好みについて聞いてきたときの事だ。
「お前絶対ドエムの子だろ!」
そう言う谷風に対し鈴村は何気なく言った。
「意外に正義は尻に敷かれるタイプだと思う」
まさにその言葉は的を射ていた。おそらく俺はこれからマリアンヌに強く言うことができない、そう思う。
「ふ、服に変なところはない?」
俺は鏡を見ることができないのでどうしてもマリアンヌに聞かねばならない。部屋やトイレ、お風呂場にある鏡はマリアンヌが俺の話を聞いて以来全て外してしまった。
「いいえ、ございません」
マリアンヌに言われて一安心するが、俺は黒のラインの入ったTシャツに黒のショートパンツ、そこになぜか黒のタイツを履いている。
正直何というか、恥ずかしい。普通、ショートパンツではなくもっと丈の長い半ズボンを履くのではないだろうか?
マリアンヌ曰く、素足が見えることは下品、すね毛が見えることはさらに下品なのだそうだ。ならば長ズボンの方が良いのではないかと言ったが華やかではないと言われたので却下された、もちろん半ズボンも。
これではただの美脚少年である。
そう思いながらも俺はマリアンヌに眼鏡を預けた。
「あら、よろしいのですか?」
「伊達だから」
そう言うとマリアンヌは小首をかしげた「だて?」伊達メガネが何かわからないらしい。
「この眼鏡、度が入ってないんです」
それと「運動する時は邪魔だから」そう言うとマリアンヌは「まあ」と驚いている。それから俺の渡した伊達メガネを物珍しそうにいじりだして自分に掛けた。
「どうですか?」
普通に知的なお姉さんに見えて、似合っていた。
「似合ってるよ」
そう言うとマリアンヌは頬を染めて初めて年相応の少女に見えた。
「さあ、参りましょう!」
俺はマリアンヌに手を引かれて部屋を出た。しかし案内されている最中ずっと手をつないでいるのはどうなのだろうか?
「マリー?これはちょっと……」
「どうかしました?」
「いや、手をつながなくても……」
俺は手を放そうとしたが、逆にマリアンヌはさらに手を絡めてきた。困り顔の彼女に思わず痺れた。
「別に良いではありませんか。こんな風にできるのも今だけなんですから」
今城には警護を覗いて最低限の人数しか配置されていない。それは俺たちを人目にさらさないためだそうだ。
上機嫌なマリアンヌを見て俺は自然と手を握り返していた。
体力測定は中庭で行われる。そこにはもうずいぶんな人が集まっていた。他の勇者の面々も既にそこにある。しかし見慣れない面々の方が多い。
「あ、くそがきだ」
谷風が俺を見つけて開口一番に言った。それに釣られて鈴村も俺をみて同じことを言う。
さらに俺とマリアンヌの並び立つ姿を見て谷風は言った。
「まるでオネショタだな」
「は?」
俺は良い加減腹が立って谷風に拳骨を入れた。
「くそがき?」
そばにいた清水がそれを聞いて疑問に思ったのか話しかけてきた。
「俺が学校に転入したての頃についたあだ名だよ」
学校に転入した時俺はもっと背が小さかった。それでいて妙に落ち着いた態度をしていたのでこの『くそがき』というあだ名がついた。もっとも当初は俺をからかっていじめる為につけたものらしいが元々人の良い性格が功をなしたのか上級生に可愛がられたせいなのかは後者の方が明確だった。
「くそがき!遊ぼうぜ!」
ある日何気なく俺を誘った同級生を見たその上級生の目が忘れられない。その日以来俺を『くそがき』とは誰も呼ばれなくなった。
「懐かしいな」
俺が一人懐かしんでいると清水は言う。
「ひどいあだ名だな」
「そうか?……」
清水は不思議そうな顔をしていた。
「それより扇、お前眼鏡良いのかよ」
マリアンヌを見て清水は言う。
「いや、あれ伊達だから」
「マジか」
清水は瞬間噴き出した。
「なんで?」
「いや、俺って眼鏡かけてないとガキっぽいだろ?」
清水はそれを聞いて納得した。
「あ、扇君だ!」
高千穂が俺を見つけたのか「やっほー!」と手を振って駆け寄ってくる。その隣には篠原と桜がいた。どうやら立花学園の女子は三人で固まっているらしい。
「あれ?眼鏡は?」
変化に気付いた高千穂は不思議そうにしていたので清水に同じことを言ってやる。それを聞いた高千穂は急ににやけだした。
「仲良いんだね、もしかしてもう付き合ってるの?」
「ちょっと、玲奈」
篠原がいさめるも高千穂はいたずらにくすくすと笑う。しかし何だかそう言われると照れ臭かった。
「え?まじで?」
清水が俺の様子に驚いている、高千穂に篠原、桜も同様にだ。その声に谷風と鈴村、加藤、白田が反応し南までもこちらを見ていた。
いや、そんなに反応しなくても……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます