『ゆるキャン△』と『りゅうおうのおしごと!』にみるSNSのあり方

 さて2018年の1月からはじまったアニメも次々と終了し、次のアニメが待ち遠しくなってきた時期ではありますが……


 あくまでも私の観測範囲、という条件がつきますが……Twitter上で大きく話題になったアニメを今回は3つ取り上げてみます。



 まずは過去作のパロディやそれに沿った大御所声優の起用、前半パートは女性声優が演じ、後半はほぼ全く同じ内容を男性声優が演じるといった型破りな手法などで盛り上がりを見せたのが『ポプテピピック』。


 こちらに関してはもともとのマンガがSNSで話題になるということを重視した作風なので、アニメでも、多くのレパートリーがあるおみくじの画像など、そのような工夫が随所に見られます。

 おふざけを全力でやる、という野心的な試みを感じましたね。

 


 しかし、『ポプテピ』は私が語らずとも多くの人がその「現象」を分析しているところでしょうから……


 ここでは主にあとふたつ。

 いわゆる「きらら枠」と呼ばれる芳文社コミックスが原作の『ゆるキャン△』と、ラノベ原作のアニメである『りゅうおうのおしごと!』について取り上げてみたいと思います。



 『ゆるキャン△』は最初の時点では「おいしそうにカップラーメンをすする女の子が出てる」といったことで話題となった作品ですが……


 キャラクターのひとりが二次創作で盛り上がったことが契機となったのでしょうか、徐々に話題に火がつき、最終的には大好評のうちに締めくくられたアニメとなりました。


 『ゆるキャン△』は女子高生が数人組で冬場にまったりキャンプする、という内容です。ここでフォロワーの方がおっしゃってて、また私も同様に興味を抱いたのは、主人公のひとりである志摩リンの存在です。


 キャンプといえばある程度の人数でワイワイと集まってやるもの、というイメージがありますが、彼女はスクーターと軽めの荷物でソロキャン――ひとりキャンプをするほうが好きな少女として描かれます。


 ソロキャンプ、つまり見た目上物理的には独り旅なのですが……

 スマートフォンを片手に、風景を写真に撮って友達(主人公のひとり・各務原なでしこetc)に見せたり、短文のメッセージを送り合ったり――とゆるやかにやり取りするシーンが何度も見られることに、『ゆるキャン△』の大きな特徴があるように思えるのです。


 孤独でもないしくっつきすぎでもない、という距離感。

 それを「SNSでのやり取り」で表現している。


 志摩リンは途中なでしこなどの友達とのキャンプも体験しますが、一方でソロキャンを主体するという自分の楽しみ方もしっかり持ち続けています。


 みんなとやるキャンプの楽しさを否定せず、それでいてソロキャンというあり方もまた肯定してみせるという、絶妙なバランス感覚のもとに成り立っている。


 また、なでしこたちの所属する「野クル」メンバーたちがリンにいっしょにキャンプしたいという勧誘を何度か持ちかけるのですが、彼女の主体性を尊重して強要はしていないのです。


 友達の絆、離れていてもつながっている、という主題を強調する際にどうしても「強引に輪の中に誘導する」という展開が見られがちな中で、真摯かつ丁寧に人間関係を描いていることに『ゆるキャン△』ヒットの理由を感じました。

 

 SNSを利用した現代的な友情のあり方が、多くの人に受け入られたからこそなのでしょうね。




 さて、『ゆるキャン△』では作中でのSNS利用、という点を軸に語りましたが、次に語る『りゅうおうのおしごと!』に関しては作中の外におけるSNS運用の例です。


 『りゅうおうのおしごと!』は、史上最年少の「竜王」という称号の保持者である主人公・九頭竜八一が天才的な素養を持つ女子小学生・雛鶴あいを弟子にとったことからはじまる、将棋を題材にしたライトノベル……といってもすでにご存知の方が多いですよね。


 女子小学生がたくさん出てくることからロリコンさん御用達のアニメ、と侮るなかれ、日本将棋連盟の関西支部の若手グループなどの監修を受けており、かわいらしい雰囲気がまとう見た目からは想像もつかないほど硬派な作品でもあります。


 藤井聡太六段や羽生善治永世七冠、加藤一二三九段など、実際の将棋界の盛り上がりという風を受けて『りゅうおう~』自体も大きな注目を集めたのですが、ここで主導的な役割を果たしていたのは原作者である白鳥士郎氏です。


 これまた私のフォロワーさんの意見としてあったのは、氏が将棋そのものを盛り上げる旗振り役に徹していることが成功につながっている、という点。私もこの意見に深く同意するところです。


 同氏はTwitter上で将棋界の重大トピックスを広く紹介することに努めています。

 その結果、将棋という競技、ジャンルそのものの盛り上がりを底上げされ、氏の作品の注目度も自然と高まっていったのです。



 またスクリーンショットを使うなどして面白おかしくアニメを紹介する手腕にも長け、SNS上での視聴者と積極的に話題を共有していたことも特筆されます。


 おかげで『りゅうおうのおしごと!』は、ニコニコ動画でのコメントがアニメに実際に使われる「逆輸入」が起こるなど、視聴者と共に盛り上がりを作ることに成功した好例となったのではないでしょうか。


 もっともそれは結果的にそうなったということであり、氏としてみれば自作がアニメ化されるということは作家冥利につきる喜びであり、純粋にいち視聴者としてその場を楽しまれていた、というところが実際のところであるのでしょう。


 なお、過去原作者さんや公式のTwitterなどでリアルタイム視聴に参加していた事例でいくつか思い出されるのは……

『Fate/stay night[Unlimited Blade Works]』の公式さんによる、奈須きのこ氏の解説つき実況や、『俺ガイル』の渡航氏による実況、などですね。



 以上、『ポプテピピック』『ゆるキャン△』『りゅうおうのおしごと!』の3作が、今後のアニメとSNSが生み出す効果を考えるうえで参考となりうる事例を生み出したのではないかな、と個人的に見ています。



 3月が終わり、4月がはじまる。

 それにともない、新しいアニメの出会いも訪れます。

 さて、次はどのような作品がSNS上で盛り上がるのでしょうか。楽しみです。

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