物語共有論 ソーシャルメディアがつなぐ時間と物語のシェア

コミナトケイ

2017年終盤から2018年はじめのトピックを軸に読み解く

ストーリー消費、という価値観の「再生」

 ストーリー消費、という言葉を最近少しずつ目にする機会が増えました。


 ソーシャルメディアのひとつ『Instagram』に投稿する写真に「ストーリー性」を感じさせるものが流行している、という新しいムーブメントを指しているそうです。そのような写真を「ストーリージェニック」と呼ぶのだそうです。



 たとえば、これはForbesさんの記事で紹介されてた内容ですが……

 漁師さんなどのある特定の職業の方々が履いたジーンズの写真が注目され、驚愕すべき値段がついたのだそうです。



 なんで人様が履いたものが高額で売れるんだ、と思うかもしれません。

 ですがそのジーンズは、その職業の人たちが履いたことで生まれた再現しようのない、世界でただ一つのジーンズという「個性」があり、そこにその職業に携わる人々の働く姿や苦労の貴さなど――「物語」に対する想像力がかき立てられるがゆえに価値あるものであるとみなされるのです。



 このような「ストーリージェニック」という価値観のうえでは、一枚の写真に、感情を揺さぶるようなさまざまな想像力を働かせることができるものがよいとされるというわけであり、漁師さんのジーンズという「ストーリー」を消費している、ということがいえると思います。



 実のところこの「ストーリー消費」、古くは1980年代に類似のものがすでに唱えられていたことを、多くの小説などの物書き志望者様方はご存知かもしれませんね。


 私は同時代の当事者ではないので書物や映像でしかかつてのバブルであったりを映像でしか知らないのですが――かつて1980年代の日本は空前の好況に沸いていたのであり、そのような「大量消費時代」を説明する理論などが広く読まれていたようなのです。



 ニューアカデミズム(ニューアカ)ブームなどと呼ばれていたそうですが……

 そのような時代の流れの中発表された象徴的な論考が『物語消費論』だったようです(現在は『物語消費論改』としてアスキー新書で出ています)


 著者は大塚英志氏。現在もKADOKAWAさんから数多く書籍を出し、ノベライズからコミカライズまで幅広く手がける作家です。『魍魎戦記MADARA』や、『多重人格探偵サイコ』『木島日記』などの原作者でもあります。 



 実のところ私が投稿サイト最大手「小説家になろう」さんではなくここカクヨムさんないしKADOKAWAさんに拘泥しているのはひとえに氏の存在があるからなのですが――そのような私個人のことはともかく、物語消費、という80年代から90年代にかけて唱えられたものが現代になって再生産されつつあるのではないか?



 論考――というレベルのものでもなくせいぜいエッセイの延長線上に位置づけられるべき内容ではあるとは思いますが――私なりに感じていることを書き留めつつ、少しでも現代における「物語」の実像を浮かび上がらせることができましたらこの上ない幸いです。



 ――もっとも21世紀に入ってからの物語は、大塚氏にとってはおそらく不本意な形で発展していったとは思うのですが……


 現代のソーシャルメディアの利用によって生まれた新しい形の「物語」の流行を、ひとつひとつ順を追って見ていきたいと思います。

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