灰色の死にたがり男
ピィちゃんは、台風の日に庭に迷いこんできたんだ。
そういえば、昔はピィちゃんを取り返しにどこかの組織の黒服押しかけてくるんじゃないかとか、妄想してたりしてたっけ。
ピィちゃんがかけがえのない存在になってから、そんな妄想することなくなったけど、やっぱり飼い主がいたのかもしれない。
灰色のマントの男――
「クラガリ、お前、どうして……」
「おわぁああああああああ!!
熱烈なファンの叫びに、
ただひと言。
「失せろ」
「……俺、ぁあああああ!」
ダルの悲鳴に驚いて振り返ったけど、いない。赤い
まさか、
最強の
さっきも、ゴリラもどきの
ゴクリ。
結構やばい奴かもしれない。
おそるおそる振り返ると、
「あーーーーーーーーーーーーーっ!!」
思わず指差して叫んでしまった。
「失せ……」
「待て待て待て待ちたまえ! いきなり、転送
「知るか」
転送
「だからね、吾輩のテリトリーで勝手な行動は謹んでくれたまえ。
「ふん。貴様と友達になったつもりはない。まぁ、うるさくなければいい」
あらためて見ると、不機嫌だけど王子さま系ハリウッドスターオーラがすごい。
どんよりとした灰色の瞳がまた気だるそうでいいし、今さらだけど変態のハイテンションな声のトーンをおさえれば、セクシー感マシマシで神イケボだ。
もしかして、もしかして、彼が、今まで
「ピィ」
ピィちゃんが短く鳴くと、
「さぁ、クラガリ! 俺を殺してくれ」
「…………」
一瞬でもまともだと思ったわたしを、全力で殴りたい。
「今のお前ならできるはずだ。さぁ、ひと思いに
さぁって満面の笑顔で殺してくれとか、こいつ頭おかしい。
「ビィ」
不機嫌そうに短く鳴いたピィちゃんは、
「よしよし、ピィちゃん。いい子だねぇ」
「……クラガリ?」
所在なさげに腕をおろした
当たり前だ。こんな可愛い癒やしなピィちゃんに、殺してくれとか馬鹿じゃないの。
「アハハハハ! すっかり嫌われてしまったねぇ、
「アルゴ、貴様、そもそもどうやってクラガリをどうやって連れ去った? 俺がどんなに説得しても、
モフりながら、わたしも気になってたことだし、アルゴの返事に耳をすませる。
「アハハハハ!
「ピィピィ」
ピィちゃんが、もっとモフモフしてっておねだりしてくる。
「そっかぁ、ピィちゃんもわたしに会いたかったんだねぇ」
「ピピィ」
なんだか、嬉しくなってきた。
こうなったら、もっと全力でモフらねばだ。
モフモフ……
「ふざけるな!」
「やっと、やっと、クラガリを見つけたというのに、なんだこの小娘は! クラガリが俺を嫌うのも、全部、小娘のせいだというのなら……」
「ひぃ」
細い剣の輝きが物騒すぎて、腰が抜けた。
「ビィ」
ピィちゃんが低い声で鳴くと、ブルブル震えながら輪郭を解いていく。
もしかして、変身するんだろうか。
けど――
「だから、吾輩のテリトリーで勝手な行動は謹んでくれたまえと、言っただろう」
「ピィィィ」
どこか嬉しそうなアルゴの声が降ってきて、ピィちゃんは元のモップ姿に戻る。
「うわっ」
そして、忽然と現れた無数の紫色のピンポン玉が周囲に浮かんでいた。
「ハァハァ、久しぶり迎撃システムを起動して、吾輩はとても興奮している。君は
グルグル回る周囲のピンポン玉たちを、
「珍しいな、貴様が嘘をつくなど。貴様には俺は殺せない。わかりきったことだ」
「……だが、俺が消耗しているのは事実だ。今日は手を引いてやる。……また来るよ、クラガリ。その時は俺に、死を与えておくれ」
「ビッ」
短く不機嫌なピィちゃんの鳴き声を聞いた
「おい小娘。貴様がまたクラガリを連れ去るというな……」
「ビィイイイ」
またブルブルとピィちゃんが震え始めた。
「……クラガリ」
マントのフードを被り直した彼は、またため息をついた。
「This is th
「ふぅ」
これで、安心なんだろうか。
あれだけあったピンポン玉も消えている。ただし、全部というわけじゃなくて、一つだけわたしの右肩の上に浮かんでいた。たぶん、995号だ。
「行っちゃいましたね。それにしても、ダルさんを一瞬で転送させるとか、怖すぎですよぉ」
「みたいだね」
わからないことが多すぎるけど、995号の言うとおり安心していいはずだ。
わたしは、
たぶん、ピィちゃんをクラガリって呼んでいた
なんだか、ちょっと理不尽じゃないか。理不尽すぎないか。
「ハロー、ワールド。わたし、もっと怒っていいんじゃないかな?」
「リン、
「何でもないから、気にしないで」
ラッキーワードの説明なんかしたくない。
理不尽な怒りが削がれている間に、ピィちゃんがズルズルと離れていってしまった。
「ピィ」
「あ、ピィちゃん……」
ピィちゃんは、
やっぱり、ピィちゃんのことちゃんと知っておかないといけない気がする。
「あ、あの、アルゴさん、ピィちゃんとか
「もちろんだとも、田村凜子くん!」
待ってましたと言わんばかりのアルゴの返事に、なんだか面白くない。なんだかアルゴの手の中で踊らされているような気がして、面白くない。
でも――
「ピィ、ピィ、ピィピ」
ピィちゃんは、まだ
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