ハロワールド 歓楽の島
にぎやかな食卓
どこをどう歩いてるのか、すぐにわからなくなった。方向感覚ある方だと思っているし、地図もちゃんと読める。だけど、
いつの間にか、さっきまで歩いていた道を壁にして歩いていたりする。
そうして連れてきてもらったのが、ダルいわく、歓楽の島でうまい飯を食うならここって食堂だった。ちょっとしたゴシックホラーの教会ぽい外観で、びっくりした。
「うわぁ」
外見はいかにもホラーな感じだったのに、中は陽気な酒場って感じ。
ギャップがひどい。
「おっ、あそこ空いているな」
床も壁もほぼ満席の明るい店内から、ダルが目ざとく空席を見つけてくれた。
明るい食堂には、赤いスライムみたいなのから、茶色の翼の天使みたいなの、紫色の肌の肩から角が生えた小人みたいなのとか、なんて言ったらいいのかわからないのまで、本当にいろんな種族の人たちが楽しそうに飲み食いしている。
もちろん、様々な高さのテーブルに並んでいるモノも、実に様々。ほとんど食べ物に見えないものばかり。
みんな楽しそうだ。
ふよっと正面に
『リン。あわわ……わたくしもリンって呼んじゃったです。……ゴホン、
最初の方で小声で言ったことは、聞かなかったことにする。でないと、萌え死にそうだ。声フェチにショタコンなどなど、どんどん性癖が開花されていきそうで、怖い。
脳内のあどけない少年に悶ていると、ダルがさっき見つけたテーブルを叩いた。
「おーい。早く来いよ」
「あ、うん」
足元の
ダルの肩に座っていたラッセも黒いテーブルの上に立っていた。体がないウノは、金色に光るウォーターボールのまま浮かんでいる。
わたしの前を飛ぶ赤い
『欲しいものがありましたら、すぐに
「じゃあ、椅子がほしいかな」
『かしこまりましたぁ』
ダルは立ったままテーブルの上の鳥の丸焼きによく似たものを手づかみで食べているけど、わたしはやっぱり座りたい。
黒いテーブルの上には、白く光る魔法陣みたいなのがあった。ちょうど両手で囲えるギリギリの大きさ。
コツコツを足音を立てて、テーブルの上を歩いてきたラッセがその魔法陣を指差す。
「これ、生成
『あわわわ……わたくしが説明しなくてはいけなかったのにぃ』
青くなった
「うわっ」
魔法陣の強くなった光に驚いて、思わず手を離してしまった。
「カレー、ライス?」
光が消えると、おなじみのカレーライスがあった。
どうして、カレーライスだったのかと首を傾げていると、向かいに座っていたダルが四本指の手を伸ばしてきた。
「なんか、美味そうな匂いするじゃん。俺のぶんも、生成してくれよ」
「えっとぉ」
スプーンを持った手が止まる。
他人のぶんまで生成して大丈夫なんだろうか。わたしは
戸惑っていると、
『調子に乗るな、脳筋。貴様が食べることと、
「脳筋じゃねぇって。俺も言わせてもらうけどな……」
話しだしたら面倒くさい
足を投げ出してテーブルに座ったラッセが鼻で笑う。
「いつものことだから、ほっといていいわよ。あたしたちも、食べなきゃ。それから、あの
「うん。いただきます」
真っ白いカレー皿にこんもりと盛り付けられたカレーライス。
匂いも見た目も覚えがあったけど、ひとくち食べて確信した。
「んっ! これ、小学校の給食のカレー」
転校してきたばかりの頃、ひと月に一度の楽しみだった給食のカレーライス。
スパイシーではないけど優しい味を、舌がちゃんと覚えていた。
「ごちそうさま」
カレーは飲み物というのは、本当のことだと思う。
ペロリと食べてしまったけど、ラッセとダルはまだ食事中だった。
「ふぁから、ふぁるせぇって」
『何を言っているのか、意味不明だ。我は、謝罪を要求する』
すごい。
ダルは次から次へと生成される鳥の丸焼きを食べ続けながら、ウノと会話していた。
そのダルの手前では、ラッセがあのサメみたいな口で綺麗な宝石をバリバリと食べていた。
「すご……」
「ん?」
ラッセは抱えるほどの赤い石を抱えて首を傾げる。
「あ、いや、すごい食べるなぁって」
本当は、可愛い顔してバリバリゴリゴリ石を食べているのに、思わずすごいって言ってしまったんだけど。
でもたしかに、ラッセはすごい食べている。
肩乗りサイズの小ささなのに、その何倍もの石を食べている。いったい、どういう胃袋をしているんだろう。そもそも、胃袋があるのかどうか怪しいけど。
「リンこそ、それだけでいいの? 生成
「ありがとう。わたしはもうお腹いっぱいだから」
そもそも、お金とかいらないのだろうか。
ちらちらと他のテーブルの様子をうかがうと、みんなワイワイ楽しく食べている感じだったけど、店員らしき人がいない。
なんだか、不安になってきた。
テーブルの上でおとなしく転がっている
「ねぇ、995号。お金とか大丈夫なの?」
『お金というのは、対価と認識させていただきます。
「ごめん、よくわかんない」
『あわわわ……ふぎゃ!』
青くなりかけた
「そういう風にできているんだよ、この世界は」
ダルの頭の上で、
『
ガリガリ食べていたラッセがまた手を止めて、見上げてくる。
「争ったりしたら、
「
ダルの手の中から脱出した
『
「じゃあ、これ、全部タダなの?」
『それこそ、この世界の意思と言わざるをえないのですが、多種多様な種族が平和に過ごせるために必要なものは、すべて生成
「へ、へぇ」
世界の意思とか漠然としてよくわからないけど、周りの見ればよくわかる。
とてもにぎやかで楽しそう。
そういえば、誰かと一緒に食事をするなんて、久しぶりのような気がする。
なんだか、ちょっと寂しいような切ないようなよくわからない気分になる。
「どうかしたのか? リン」
「ううん。ちょっと……なんでもないよ、ダル」
ペロペロ三つ又の舌で四本の指を舐めているダルたちは人間じゃないのに、まだ馴染めていない高校のクラスメートよりも、どうして仲良くなれているんだろう。
突然、
「え? なになに?」
まるで火災報知器のような音に、
「まじかよ、
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