どういう理屈なの!?

紀之介

どちらでしょう?

「箱が…2つ?」


 部屋に足を踏み入れた如月さんは、テーブルに近づきました。


 後に続いた霜月さんが、ドアを閉じます。


「じいちゃんの秘蔵品は、その中」


「ふーん」


「どっちから見る?」


「同じ大きさの箱かぁ…」


 右手の人差し指で、自分の鼻の頭を軽く突付く如月さん。


「大小の箱なら、小さい方を選ぶのが正解なんだろうけど」


「─ 舌切雀?」


「それが様式美だし」


 霜月さんが、如月さんに体を寄せます。


「でも あれって…大きな葛籠を選んだのがお婆さんだったから、外れだったと思う」


「もしお爺さんが選んでたら、中身はお宝だったって事?」


「そう。」


「…まあ雀の目的は、あくまでもお爺さんへの恩返しだしねぇ」


 如月さんの腕に、霜月さんは腕を絡めました。


「つまり、お婆さん小さい葛籠を選んでいても…中は化物」


「理屈では、そうなるよね」


「じゃあ…私にとっての如月は、どちらでしょう?」


 予期しない問い掛けに、如月さんが固まります。


 正面を向いたままの霜月さんは、目だけで様子を伺いました。


「化物なんか入ってないから、大丈夫。」


「…」


「そんな事したら…私にも被害が及ぶしねぇ」


「ちょっと霜月…」


 自分に組まれた腕を、如月さんが邪険に振り解きます。


「─ 私が、意地悪婆さん認定されてる様に、聞こえたんだけど?」


「被害妄想は、いけないねぇ。。。」


----------


「この虫眼鏡みたいなの…」


 最初に選んだ箱に入って物を取り出した如月さん。


 レンズ越しに近くのものを透かして見ます。


「大きくも、小さくもならないんだけど」


 霜月さんは、どこからか10円玉を取り出し、手の平に載せました。


「これを見てみて」


「え? 硬貨が…1000円札に見えるんだけど?!」


「それ、何故かお金が、100倍に見える拡大鏡なんだって」


「…」


「100円玉なら、1万円札に見える」


「な、何で?!」


「そう言うアイテムだから?」


「一体、どういう理屈なの!?」


「この手のアイテムに、そう言う事を求めるのは、無粋ってものだよ。」


----------


「…ボタンが多い大型電卓?」


 もう一つの箱の中を見て、首を捻る如月さん。


 手を伸ばした霜月さんが、機器を取り出します。


「これはねぇ、色々入力すると…真実の年齢が判る計算機」


「真実の年齢って…」


「実年齢から、無駄に過ごした年月を引いた年齢」


 手にした計算機のボタンを、霜月さんは指で適当に叩きました。


「例えば…実年齢が20才でも、有意義に過ごした年月が10年しか無ければ、その人の真実の年は10才なんだって」


「…」


「自分の今までの人生の日々の大半が無駄だと判断されるのは…中々の非情だよねぇ」


 沈黙する如月さんに、霜月さんが意味ありげに微笑みます。


「確か、如月の生年月日は…」


「え? 何をするつもり?!」


「ちょっと、如月のデータを、入れてみようかと」


「そんな事、しなくて良いから!」


「まあまあ。どうせインチキだし♡」


「しーもーづーきー!!」


 霜月さんの手から、如月さんは乱暴に計算機を奪いました。


「─ あんたの方が私より、よっぽど意地悪婆さんに相応しいから!」

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どういう理屈なの!? 紀之介 @otnknsk

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