初クエスト 現実の陰キャがここでは最強チート!

放課後、授業が終わると速攻で帰宅した孝則は、自室に入るとさっそくからだファンタジアを起動させる。

 ホーム画面が表示された途端、

「おかえり孝則っち、さっそく初クエストしに行こう」

 マッチョが飛び出して出迎えてくれた。

「うわっと!」

 孝則は昨日ほどではなかったがちょっぴり驚く。

 昨夜と同じように、マッチョの怪力によってスマホ画面に引きずり込まれ、エロワリアに連れて来られると、

「おかえりなさいませ、孝則様。お待ちしておりました」

 ゲップが温かく出迎えてくれた。

「ただいま」

 やっぱこの世界の女の子は良い子ばかりだな。

 孝則は学校にいる時とは打って変わって朗らかな気分へ。

 もう一人、ブラウンヘアーの少女もいた。

「えっと、はじめまして。私、からだです」

「きみがからだちゃんか。イラストそっくりだ」

 からだは怪我をしているわけではないが、大きな松葉杖を持っていた。

「からだは『えっと』が口癖なんだ」

 マッチョは微笑み顔で伝える。

「もう、マッチョ。恥ずかしいよぉ」

 からだは困惑顔をして、ほんのり頬を赤らめる。

「俺の高校にも力丸っていうめっちゃ鬱陶しくて怖い体育教師がいるんだけど、生徒指導部長も兼任してて全校集会で会話の初めに『えー』ってよく付けるよ」

「孝則様の高校には、面白そうな先生がいるんですね」

 からだは楽しそうに微笑む。

「俺は苦手なんだけどね」

 からだちゃんも純情そうな子だな。

 孝則はますます幸せ気分に。

「えっと、これからのクエストに向けて、からだスキルを装備しますね。クエストを進めることによって、使用出来るスキルが増えていきます」

 そう告げて、からだは孝則の目の前で松葉杖をブンッと振った。

「そんなのもあるのか」

「はい。各職業に嘔吐があり、例えばせんしの嘔吐なら『味方全体の物理攻撃が一定ターン中アップ』、そうりょの嘔吐なら『味方単体を大回復』など、1クエストにつき1回限り使用することが出来ます。これを身に付けておけば、高難度クエストでも有利に進められますよ」

「それは助かるな。パーティは、誰を連れて行こうかな」

「からだランクの低いうちは、便5三人はコストオーバーで連れていけないよ。便5一体でコスト15、からだランク1の時は、コスト上限30だから、便5二体でいっぱいなんだ。ちなみに便4は10、便3は5だよ」

 マッチョは伝える。

「そうなのか。八重歯ちゃんも珠金ちゃんも痔矢ちゃんも連れていきたいんだけどな」

「一章は土踏まず属性の敵がメインだから、八重歯ちゃんがおススメだよ」

「じゃあ、そうするか」

「あと、便3土踏まずナイトの八重歯ちゃんと、便5風邪魔の八重歯ちゃんのように、便と属性職業違いの同一名キャラも編成は不可だよ」

「そういうシステムか」

 孝則は八重歯とパーティを組むことに。スマホをエア操作して、パーティ編成の所で便5風邪魔法使いの八重歯を選択すると、お目当てのキャラが孝則の側に現れた。

「八重歯ちゃん、よろしくね」

 孝則が挨拶すると、

「頑張る臓器」

 八重歯は鼻水を垂らしながらも笑顔でこんな言葉をかけてくれた。

「クエストで最初に戦うこのゲーム最弱の敵はHP500のクソモンだよ。アプリを起動させた時に最初に出てくるやつなんだ」

「あのスカンクみたいなやつか。臭い攻撃して来そうだから、戦いたくないな」

 マッチョからの情報を聞き、孝則は不愉快そうな表情を浮かべた。

「動物タイプの敵は突進、噛みつき、踏み付けがメインだから、心配しなくても大丈夫だよ」

「ごく普通の攻撃か。それは良かった」

「このゲームに登場する敵は、体や模様の色で属性が分かるよ。月のものは紫、炎症は赤、水疱は青、風邪は緑、土踏まずは茶色、陽性は黄色か白だよ」

「イメージ通りだな。それじゃ、ちょっと戦ってくるよ」

「わたしも見守ってますね」

 からだはそう伝えて温かく見送る。

孝則と八重歯は、商店街からルームに向かうちょうど真ん中付近にあるクエストゲートを潜り抜ける。

すると、プロローグと書かれた標識のような物体が目の前に。

「これに触れたらいいのかな?」

 孝則は実行してみる。

 すると、サポート画面が空間上に現れ、GESTの表示と共に、クリ〇〇スアリスなどのキャライコンがいくつか。

「戦闘で負けそうな時はこのキャラも借りれるってことだな」

 孝則は悩まずレベル80のクリ〇〇スアリスを借りることに。

 いよいよ出撃!

 そのさい、

「行ってきまーす♪」

 八重歯はこの冒険を楽しみにしているかのような出撃ボイスを呟いた。

 

 Wave1

 緑豊かな平原の中に、陽性、風邪、月のもの属性のクソモンが各一体の計三体現れた。

「それっ!」

 孝則はさっそく通常攻撃の剣で陽性属性のクソモンを叩きつけた。

 一撃で消滅し、茶色いプレゼント箱を落としていく。

与えたダメージ量も一瞬、表示された。

 その直後、

「いたぁぁぁ~」

 八重歯の悲鳴。

 月のもの属性のクソモンから攻撃されたのだ。

「魔法使いはスピード遅いから、先攻されちゃったか」

 孝則はちょっぴり心配する。

「しょっと!」

 八重歯の攻撃、クラススキルの敵全体に風邪属性の特大ダメージ。

 これにて全滅し、Wave2へ。今度は炎症、水疱、土踏まず属性のクソモンが一体ずつの計三体。

「俺も全体攻撃出来るスキル欲しかったけど、戦士の攻撃は全部単体のみらしいからな」

 孝則はクラススキルの一つ、

【やりたくないことは無理してやる必要はない。】

効果 敵単体に月のもの属性の大ダメージ

を土踏まず属性のクソモンに使ってみた。

 クリティカルに千以上のダメージが決まり、茶色の宝箱を残していく。

 次の瞬間、

「いでっ!」

 八重歯はまたも先攻されてしまう。

 今回は炎症属性のクソモンからやや大きなダメージを食らわされてしまったようだ。

「八重歯ちゃん、俺が敵を討つよ」

 孝則がそう伝えた直後には、

「しょっと」

 八重歯は、今度は通常攻撃で炎症属性のクソモンを撤退させた。

「あとは任せて」

 孝則は通常攻撃を残った水疱属性に食らわす。

 これにて全滅、余裕の金冠クリアだ。

「勝利のポーズ、ってこうかな?」

 八重歯は嬉しそうにガッツポーズ。

「あれ? 俺、無意識のうちに」

 孝則も同じようなポーズをとった。

 二人ともすでにある程度は強化されているため、ここで得られたキャラクター獲得経験値ではレベルは一つも上がらなかったものの、からだ経験値も得られ、八重歯のなかよし度もアップした。

 続いて、サポートで選んだキャラについてフレンド申請をしますか? という表記に切り替わり、孝則は迷わず、はい。を選択した。

武器素材もいくつか手に入り、次の一章一節の標識が解放される。

「これも進めてみようかな?」

 孝則が悩んでいると、

「孝則様、初クエストどうでしたか?」

 ゲップに背後から質問された。

「ゲップちゃんも、ついて来てたんだ」

「はい、シナリオパートに出演するので。私とからだはバトルには参加しませんが、わりと近くから見守ってますよ」

「そっか。初クエスト、めっちゃ楽しかったよ。Wave2でWarningって赤い文字が流れて来てやばいのかなって思ったけど楽勝だったし。なろう系の最強チートキャラになれたみたい気分だよ」

 孝則は大満足げな表情で答えた。

「それは良かったです。クエスト後はHPも状態異常も全回復しますよ。一日に三回クエストをクリアすると、スタミナ上限の一〇%回復するスタミナ回復栄養ドリンク小、五回クリアで五〇%回復の中が一本ずつ貰え、里とルームのタップと合わせて全てのデイリーミッションを達成することになり、胆石が十個貰えますよ」

「そういうシステムか。じゃあ、今日中にあと四回はクエストしなきゃな」

「今の孝則様と八重歯様の実力なら、まだまだ楽勝ですよ」

「それじゃ、行ってくるね」

 孝則と八重歯は、次の節(一章一節)もその次も、さらに二つの節を進めて敵がやや手強くなってもゲップの言う通り、全く問題なく楽勝した。

 とはいえ、

「一章四節Wave3の炎症属性の亀型の敵に舐めてかかってたらめっちゃ臭い息かけられたんだけど。八重歯ちゃん気持ち悪い状態にされてゲロ吐いてたし。ああなると攻撃する度にダメージ受けちゃうんだな」

 こんな嫌な思いも。

「敵のチャージが満タンになって、強力な攻撃されちゃったんだね。このゲームの敵は、必殺技で臭い攻撃してくるのが多いよ。防ぐには早めに倒すのがおススメだよ」

 マッチョはこうアドバイスして微笑む。

「次の章からは油断せず本気でやるよ」

 孝則は苦笑いで宣言する。

「状態異常にされた時には、ハズレキャラに扱われている僧侶も役に立つかもです。チャージダウンスキル持ちのアルケミストも重宝しますよ。孝則様はこれにてデイリーミッション全て達成です。クエストお疲れ様でした。孝則様、よかったら、このあとレストランで夕飯を食べませんか?」

「そうだな、この世界の食事もどんなのか気になるし。八重歯ちゃんも連れて行こう。あれ? いないぞ。消えた?」

「召喚されたキャラとは、決まった場所でしか絡めないので」

 ゲップは微笑み顔で言う。

「あらら。それは残念なシステムだなぁ」

孝則はゲップに案内され、商店街の中にある赤レンガ造りの洋風なレストランへ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る