ルームで過ごす、楽しい夜
朝、七時ちょうど。孝則は目を覚ました。
「起きたと思ったら部屋に移動してたし」
この状況にちょっとびっくり。
他のメンバーも全員、目を覚ましてルームに集まっていた。
ちょっと、触ってみるか。
孝則はさっそくその行為に及んでみる。
「今日も一日頑張る臓器」
茶熊の着ぐるみ越しに頭頂部に触れた瞬間、発せられた言葉を聞き、
「八重歯ちゃん、しんどいのならあまり無理しないでね」
孝則は優しく気遣ってあげる。
彼の視界に一瞬、デイリーミッション。ルームでキャラクターをタップと表示された。
「珠金ちゃん、金魚に餌やりしてるね。かわいいな」
金魚鉢の前にいた珠金の髪の毛もなでてしまう。
「今度作るゲームは、登場人物全員おじさまなんてどうでしょう」
こんな言葉が発せられ、真夜中のことは何も覚えてないような反応だった。
「収録された台詞しか話さないのは当然だし、あれはやっぱ夢だったのかな?」
孝則は苦笑い。ルームから外に出ると、昨夜ルームから外した睫毛本先生を入居者に再設置してあげた。
それからほどなくして、
「おはよう孝則っち、メンスは六時五〇分頃に終わったみたいだよ」
マッチョが彼のもとへやって来た。
「孝則様、おはようございまぁす。オェェェップ、いっしょに、頑張りましょうね」
直後にゲップもやってくる。
これにて、ログインボーナス二日目のアイテム、風邪のゲロと胆石十個をGET。
「ゲップちゃん、しんどそうだけど、大丈夫?」
孝則が体調を気遣ってあげると、
「はい。今日はまだマシな方です」
ゲップは嬉しそうに、えへっと微笑んでくれた。
「孝則っち、メンスのお詫びで月のもののゲロ四個と、胆石四〇〇個も配布してくれたよ。まだキャラも少ないことだし、一回ガチャ回しに行こう」
「詫びアイテムと詫び石か。ありがたいな」
孝則はこのあと、マッチョといっしょにわくわく気分で召喚の館へ。
「朝は、浣腸の手入れをして、あとは……えっと……」
足を踏み入れると、クソレアちゃんはこんな言葉を交えて出迎えてくれた。
「おはよう、クソレアちゃん」
「おはようございます、孝則さん。初回は胆石三〇〇個で十連出来ますよ。週に一回程度で召喚ピックアップキャラが更新されるのですが、その場合も初回のみ胆石三〇〇個で十連出来るようになってます」
「それはちょっとお得だな。とりあえず、十連してみるよ」
「ありがとうございます。では、イキますよーっ」
例によって、浣腸器が尻の穴っぽい所にプチューッと突っ込まれ、ぐりぐり回され、召喚されたキャラ達が孝則の目の前に数秒間ずつ表示された。
「次回も頑張ります。また、いつでも来て下さいね」
クソレアは召喚後のお決まりのセリフを呟く。
「今回は外れだな。七体も僧侶だし。唯一の便4も僧侶だし、孝則っち、もう十連回してみたら?」
マッチョは残念そうに告げる。
「けっこうかわいいと思ったんだけどな。まあ、石にはまだ余裕あるし。もう十連だけ回してみるよ」
「ありがとうございます。では、胆石四〇〇個消費しますね」
クソレアはぴょんぴょん跳ねながらそう告げて、再び浣腸器が尻の穴っぽい所に。
ここで召喚されたキャラ達を見て、
「今回はいい出来だよ。便4の瘤さんと眉香ちゃんが出たから」
マッチョは絶賛する。
「当たりキャラか。じゃあ、まだ二回分あるけど、ここでとりあえずやめておくよ。じゃあ、クソレアちゃん、俺、これから学校だから」
孝則も満足げに召喚の館をあとにした。
「孝則さん、いってらっしゃいませ。課金もお待ちしてます」
クソレアちゃんは爽やか笑顔で見送ってくれた。
孝則はトレードショップも訪れてみる。
「早起きは肛門の特。何にする?」
こんな言葉で出迎えてくれた。
「時間帯によって台詞違うんだな」
孝則は感心気味に呟き、交換錠剤一粒と陽性の鼻くそをトレードしておいた。
「後遺症、生理痛。股恋」
お決まりの台詞で見送られ、孝則は彼のいる世界に通じるライオンのゲートへ向かう途中、
「孝則様、昨日里に設置したキャラクターがお土産に持って帰ってくれた分と、詫び分のアイテムで強化しましょう」
ゲップはバケツに詰められた土踏まずのうんこ一個と、月のもののゲロ四個を持って近寄って来た。
「それ、本当に大丈夫なのか?」
孝則の表情が引き攣る。
「大丈夫ですよ。えーい」
ゲップは容赦なくぶっかけてくる。
「うわわっ」
孝則にぶっかかった瞬間、まばゆい光が解き放たれた。
「確かに、嫌な臭いは全然しなかったな。それに俺、強くなれた気がする」
「孝則様は今、レベル23まで上がってますよ。一章なら楽に攻略出来ると思います」
「そうなのか」
「ただ、ここで得た強さは、孝則様の住んでいる世界では全く反映されないので、お気を付け下さい」
「そっか。それは残念だ」
「あくまでもゲームはゲーム、現実は現実ですから。孝則様、お時間がありましたら、ぜひ里の方へも足をお運び下さい。里の生産アイコン、またはキャラクターを二回タップするというデイリーミッションも達成出来ますので。その場所へなら、ここから往復十分程度ですよ」
ゲップからこんな伝言を聞き、
「じゃあ、まだ三〇分くらいは大丈夫だから、ちょっと行ってくるよ」
孝則はルームの東側にある葉っぱで覆われたアーチゲートを抜けた。
「すごくいい眺めだな。行ったことないけど、スイスのアルプスみたいな風景だ」
周囲に広がる山々や湖の雄大な景色に、孝則は心を奪われる。
コイン生産所と、隣接する武器素材生産所には、MAXと記された漫画のふきだしのような物体が。
「タップするようにこうすればいいのかな?」
孝則がコイン生産所の方に恐る恐る手をかざすと、チャリンと効果音が鳴り物体は消えた。
「これでゲット出来たみたいだな」
武器素材生産所の方も同じようにしてみると、物体が消えたのちデイリーミッション、里の生産アイコン、またはキャラクターアイコンを二回タップすると彼の視界に一瞬表示された。
その数秒後、時刻は午前八時に。
「うわっ、睫毛本先生!」
武器素材生産所の、先ほどMAX表示が出ていた箇所付近に、いきなりそのお方のアイコンが現れ、孝則はちょっぴり驚く。
「里に出る時間なのか」
エアスマホ操作をしてスケジュールを確かめ、睫毛本先生アイコンの鼻に触れてみると、からだポイント150、スタミナ1、なかよし度10と表示された。
「これが出たあとにもう一回触ると里画面会話が聞けるってマッチョは言ってたな」
睫毛本先生アイコンの鼻に触れてみる。
「生徒がイケないことをすると、先生に叱られるのよ」
寄り目でこんな注意をされてしまい、
「本当にすみません」
孝則はハハッと笑ってここをあとにした。
八時十分頃、孝則は例のゲートを抜けていったん元の世界へと戻っていく。
そして現実世界の学校へ。
二時間目。
「足原よ、やる気あるのか? 試合中いっつもぼけーっと突っ立ってボール奪いに行きよらんし」
「……」
孝則は体育のバスケの授業中、力丸という名の男性体育教師から厳つい表情、どすの利いた声でくどくど説教されていた。年齢は四〇代後半。角刈り、彫りの深い顔つき、上背一九〇センチを越え筋骨隆々、日焼けした褐色の肌が特徴的で、まさに体育教師らしい風貌である。
授業終了後。
やっと終わったか。早く大学生になって体育から解放されたい。今十時半か。からポ回収しとかないと。
制服に着替え終えると孝則はスマホを持ってトイレへ駆け込み、からだファンタジアを起動させた。
そして里画面へ。
『体育なんて科目、この世から無くなればいいんだわ』
あせちゃん、その気持ち、俺にはよぉーく分かるよ。
お気に入りの便3キャラをタップして発された言葉に、孝則は深く共感した。
彼はその後も休み時間になる度に一人でトイレに駆け込み、からだポイントを余さず回収したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます