からだファンタジア~体に良い日常と遥かな冒険と~

明石竜 

プロローグ

 それは、ある真冬の日の夜。

陰キャな男子高校生、足原孝則が自室で風呂上りにベッドに寝転がりつつ、アニメ声優写真集の水着グラビアページをにんまりと眺めている最中だった。

「きみ、女の子の体に興味があるみたいだね」

どこからか、聞きなれぬ声が聞こえて来たのだ。

少年っぽい声ではあったが、女性が発しているようであった。

「何だ? 今の声」

 孝則は不思議に思い、周囲をきょろきょろ見渡す。

耳元で聞こえた気がするんだけど、誰もいないよな?

 少しドキッとしながらそう思った直後、

「うっ、うわわわわわぁ!」

 孝則はあっと驚き、口を縦に大きく開けて絶叫した。

傍らに置いていたスマホの画面から、奇妙奇天烈な小動物が飛び出して来たのだ。

猫なのか、はたまたハムスターなのか? 

腕なのか足なのかの部分は、やけに筋肉モリモリだった。

色は白。頭頂部と尻尾の先だけは灰色である。

体長は、三〇センチほど。宙に浮かんでいた。

「だっ、だっ、誰だよ? おまえ」

「ぼくの名前はマッチョ。エロワリアに住んでる妖精だよ」

「そっ、そんな国、実在しないよな?」

 孝則は震えた声で問いかける。

「そっちの世界ではそうだね。ぼくが登場するソシャゲ『からだファンタジア』、略して“からファン”の架空の国だもん」

「からだファンタジア?」

「『まんがタイムからだ』っていうマンガ雑誌の掲載作品に登場する、かわいい女の子達とファンタジー世界を舞台に、RPG形式で体の神秘を体感出来るソシャゲなんだ」

「そんな雑誌、聞いたことないな」

「Web版配信のみの超マイナーマンガ誌だからね。深夜アニメをよく見る層でもほとんど知られてないみたいだから、きみが知らなくても無理はないさ。けど、からファンは

何十万も課金したくなるほどめちゃくちゃ面白いから、ぜひやってみて。もうきみのスマホにインストール済みだけど」

「おいおい、勝手にするなよ」

「基本プレイは無料だから全然問題ないよ。さあ、やってみて」

「……」

 一体、どんなゲームなんだろ?

孝則は気になってしまい、ゲップと名乗るこいつに言われるがまま、アプリを起動させてみた。

すると、Loadingという文字と、その横にスカンクっぽい動物のイラストが画面に表示されたのち、

『発疹社』

『屁がプ~ッレックス』

『バリウム』

『ご案内です。からだファンタジア、始まるよーっ♪』

 女の子(女性声優)の明るいボイスが流れて来て、スタート画面が現れた。

 壮大なファンタジー作品を彷彿とさせるBGMも流れてくる。

「なんか、ものすごぉく下品なゲームのような……」

「いやいや、とってもお上品なゲームだよ」

「そうかぁ?」

 孝則は眉を顰めながら、Touch Screenと書かれた文字の部分をタップしてみる。

 すると、Downloadingと書かれた文字と進行度を示すバーと共に、登場人物紹介が現れた。矢印の部分をタップすると、他のキャラクターが表示されるようだ。

 

からだ


このゲームの主人公。両親がいないため、辺境の村の人々に育てられた少女。「人の体調」を感じ取れる不思議な力を持っている。ゲップとマッチョと出会ったことで、伝説の召喚魔法「コレラ」を使用出来るようになった伝説の召喚士。


ゲップ


女神・ソラミミが治める神殿を抜け出し、マッチョと共に召喚士を探す旅に出た女の子。からだと出会ったことで、共に世界を救うための旅路を進むことになる。ソラミミが記した「性典」の内容に詳しい。


マッチョ


ゲップの保護者を自称する生き物。ゲップと共に神殿を出て、旅に同行する。股間にぶら下がっている男の象徴の大きさは、さつまいも級らしい。


「これがぼくのことだよ」

 ゲップは得意げに伝える。

「そっくりだな。本当にこのゲームから飛び出して来たわけか。きみ以外のキャラは確かにかわいいけど、やっぱこれ、下品なソシャゲだろ。容量食うし、アンインストールしよっ」

「まあまあ待ちたまえ。きみなら絶対嵌るから」

「いや、消すぞ」

「それは困る。ぼく帰れなくなっちゃうし」

「そっ、そうか。それは俺も困るな」

 そうしているうちにダウンロードが100%まで進み、OPムービーが流れる。

「マッチョも映ってるね。最初に出て来たのが、からだちゃんとゲップちゃんか。これを見ると、壮大なファンタジーものっぽくてすごく面白そうな感じがする」

 幻想的な衣装を纏った、かわいい女の子達が剣を振り回したり魔法を駆使したりして戦っている映像を、孝則は食い入るように見つめる。

「そうでしょう。実際面白いよ。プロローグは、今は見ない方が物語を楽しめるから、飛ばしても問題ないよ」 


【僕らの足は~ いつだって水虫♪】

 この歌詞が流れてOPが終わると、プロローグ冒頭が流れ始めたが、マッチョはスキップに対応する矢印をタップした。

「そこも気になるんだけど、飛ばした方がいいのなら、まあいいか」

五秒ほどのLoadingののち、ソシャゲでお馴染みのガチャ画面が出て来た。

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