春に咲くは満開の花

カゲトモ

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「ふしゅー」

 まるで空気が抜けたみたいな長い息を吐いたのは、何処か楽し気に先ほど来店したアンさんだ。カウンターについた両肘、両手で包み込んだ顔は、幸せの花畑へトリップしているようだ。

 めっちゃ浮かれているのが、話しを聞かないまでも分かる。何か良いことがあったんだな?

「なにやら楽しそうですね。そんなに私の作ったカクテルが美味しかったですか?」

「え、ふふふふふ」

 ちょっとしたボケだったのに、肯定の言葉もなく一瞬真顔になって笑われた。うん、くらい言って。

「もちろんそれもありますけど」

「ふ、ありがとうございます。他に何か良いことがあったんですね」

「分かります?」

 分かり易過ぎます。

「ふふふ、実は私、今日誕生日で」

「そうでしたか、それはそれはおめでとうございます」

「ありがとうございます」

 にっこりと笑うアンさんは、多分二十六とか七くらいだった気がする。この年齢くらいになると誕生日を迎えるのを素直に喜ばない人もいるけど、アンさんは違うらしい。俺としてはこんな風に全力で誕生日を喜ぶような人の方が好感を持てる。良いね、アンさん。

「それで、今日、っていうかさっきですけど、お友達が誕生日会を開いてくれて」

「そうでしたか。それは素敵ですね」

「ふふ、はい。そこで沢山プレゼントを貰ったんですけど、ふふふ。実は一つ凄いサプライズがあって」

 アンさんのニヤニヤが最高潮だ。手で押さえた口元から溢れてきそうなくらい。なになに、どんなサプライズだったわけ!? こっちまで早く聞きたくてそわそわしてしまうじゃないか。

「実は」

「実は?」

「・・・きゃぁ~」

 照れるな照れるな! 両手で顔を押さえないで、早く教えて!

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