第11話 ボクラノ オモイデ 

 俺は、幼い頃から、ゆーとと仲がよかった。

 半ば、腐れ縁みたいなものだったけどな。


「ふふーん、どーだっ、速いだろっ!!」


「あいっかわらずキノボリ好きだな……、ゆーとは」


 ほんと、ゆーとは、落ち着きなくてさあ。


「な、何だよ。つまんない反応だなあ!」


「って、おい、はしゃぐと危な……」「……ふあっ?!」「だーっ?!」


 どさあっ!


「……あたた」「こっちのほうが痛てーよっ」「ご、ごめんっ」


 登れば落ちる、走ればコケるで、放っておけなかったっけ。

 うん、でも面白かった。お互い、馬が合ったんだろう。


 そういや、本当に危ないことも一度あったっけか。


 小学5年の頃、かな。ゆーとの田舎に遊びに行ったんだけどさ。

 ゆーとに誘われて、山の沢に遊びに行ったんだよ。


 それが、まさか、あんなことになるなんて、なあ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ゆーとが、自分も怪我してるのに、こっちのこと泣きそうな顔して見下ろしてる。


「先生、こっちです! 早く……!!」

「な、何があったんじゃこりゃあ?!」

「……ですよっ!」

「……あ?」


 お医者さんとおじさんが何か、必死に何かしてるけど、ダメだ。

 痺れて、意識が薄れて、よくわかんね。


「……持ったか?」「……はどうした?」「それが蹴られて逃げ出したとか」

「……?」「とにかく早く見つけるぞ!」


 おっちゃんらの慌ただしい会話が聞こえる。

 けど、これもよくわかんね。見えるのは、泣きそうなゆーとだけでさ。


「何で、森に……」「ボクが……ボクが行こうって……」


 ずっとこっち見て、今にも死にそうな顔して泣いてんのよ。


「ごめん……、ごめん、けーご、ボクのせーで……」

「馬鹿いうな……よ。お前のお陰で、……助かったん、だぞ」


 そう、ゆーとがあれを蹴ってくれたから、俺、助かったわけで。

 って、あだっ、あだだだだだだだっ?


「うぐぐぐぐぐっ!」「すぐ縫い終わるで、もう少し我慢せえよ!!」


 お医者さんが何かしてる。すげえ、いてえ。でも、痺れてるから、か。

 泣かずに済んでる。いてーけど。あたっ、更に痛くなってら。いたた。

 まあ、よかったよ。俺まで泣いたりしたら、ゆーと更に泣くからさ。

 めんどうじゃん、そんなの。


「……けーごぉ」

 

 だから、そんな泣きそうな顔で見んなっての。バーカ。大丈夫だっての。

 それより、お前の頭のほうが……。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ふとそこで目が覚めた。 ゆーとの頭が間近に見える。

 素っ裸、うん、エロい。 ああ、やっちまったんだなあ。

 アノ頃の俺に教えたら、殴られるかもしんねーな。馬鹿かテメーって。


 そういや。


「……、……、……」(ごそごそ)


 お、……髪の毛の奥に、あの時のキズ発見。

 まあ、小さいじゃん。よかったよかった。

 ……女にとって、こういうキズって気になるらしいしな。


 そっと頭にキスをする。 うん、こいつは俺のもんだぞ、と。


 ふあ……、それにしても眠ぃ……、寝るか。



























◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ボクは、幼い頃から、けーごとずっと仲良く過ごしてきた

 半ば、ボクが引きずり回してた感じだったけど。


「ふふーん、どーだっ、速いだろっ!!」


「あいっかわらずキノボリ好きだな……、ゆーとは」


 ほんと、けーごは、どっか達観したような男の子でさ。


「な、何だよ。つまんない反応だなあ!」


「って、おい、はしゃぐと危な……」「……ふあっ?!」「だーっ?!」


 どさあっ!


「……あたた」「こっちのほうが痛てーよっ」「ご、ごめんっ」


 ボクははしゃぐ係、けーごは見守る係、みたいな感じで随分と迷惑かけたっけ。

 でも、ボクは、すっごく楽しかったんだよ?


 うん、迷惑を掛けたどころじゃないこともあった。


 小学5年の頃、かな。母さんの田舎に遊びに行ったときのこと。

 けーごを誘って山に遊びに出かけてさ。サワガニ取りだっけ?


 それが、まさか、あんなことになるなんて、思わなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ボクは、頭から滴る血を押さえながら、けーごを見下ろしてた。


「先生、こっちです! 早く……!!」

「な、何があったんじゃこりゃあ?!」

「熊ですよっ!」

「熊あ?」


 血まみれのけーごをお医者さんが診てる。

 けど、ボクは、何もできなくて。


「猟銃持ったか?」「熊はどうした?」「それが蹴られて逃げ出したとか」

「はあ?」「とにかく早く見つけるぞ!」


 猟銃を持ったおじさんたちが慌ただしく会話してる。

 でも、ボクは、何もできなくて。


「何で、森に……」「ボクが……ボクが行こうって……」


 ボクは、何もできなくて、泣いてばかりで。


「ごめん……、ごめん、けーご、ボクのせーで……」

「馬鹿いうな……よ。お前のお陰で、……助かったん、だぞ」


 けーご、すごく痛かったと思うのに、ボクを気遣ってくれて。


「うぐぐぐぐぐっ!」「すぐ縫い終わるで、もう少し我慢せえよ!!」


 お医者さんに縫われてるときも、……声、必死に抑えてて。


「……けーごぉ」

 

 ボクは、けーごには敵わないなって、そう思ったんだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 何だか、頭に違和感を感じて、ふと目が覚めた。 けーごの胸板が間近に見える。

 素っ裸、うん、逞しい。 ああ、やっちゃたん、だよね。

 アノ頃のボクに教えたら、蹴られると思う。変態って。


 そういえば。


「……、……、……」(ぼー……)


 ゆーとの胸板や、腰に残る……縫い傷の跡。

 塞がってるけど、痛々しい。

 ……けど、ちょっとかっこいいな、って思っちゃっ……た。


 つい傷口にキスをしてしまう。


 ……けーご、……ありがとね。

 ……そして、ごめん。……"また、助けて"もらって。

 お陰で、……今日は、"あの夢"を見なくて、済みそう……。

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