第100話 神殿跡

「・・燃えちゃったんですねぇ」


 サナエが、"神殿"だった場所を眺めながら言った。


 神殿とは言っても、規模は普通の一軒家だった。基礎部を残して屋根が焼け落ち、石壁は突き崩されている。


「なるほどな・・」


 これを見れば全てに納得がいく。


 カリーナ神殿の報復を怖れているのだ。おそらく、ここに居た神官か巫女は殺されたか、囚われるかしている。それをカリーナ神殿が知れば、本殿から神官騎士団が報復に来るに違いない・・と、何者かが怖れており、町全体が戦々恐々として事の始末を見守っているといった状況か。


「ちょっと、ここに居てくれ」


 リコとサナエに言い置いて、俺は形ばかりの垣根を跨いで敷地の外へと出た。

 そろそろ暗くなり始めた路上を、松明を手にした武装した男達が近付いて来ている。鎧はまちまちで不揃い。明らかに、寄せ集められた連中ばかり、ざっと200人近いだろうか。

 真っ直ぐに伸びる町の通りを走ってくるので、全員は見渡せないが・・。


 俺は通りの中央に立って、我先にと走ってくる男達を眺めた。



 ガチンッ・・・



 準備完了を知らせる金属音が脳裏に聞こえるなり、俺は、細剣技:Rheinmetall 120 mm L/44:M830HEAT-MP-T を打ち放った。


 通りの上に死を撒き散らしながら貫き徹した挙げ句に炸裂して轟音を鳴り響かせた。

 

 続いて、細剣技:7.62*51mm を倒れた男達めがけて打ち込み続ける。ゆっくりと歩きながら端から端まで、念入りに打ち込んでいった。


 途中、細剣技:5.56*45mm に切り替えて、建物の窓から弩弓を構えようとした男を狙い打つ。身軽く跳んで、屋根の上に潜んでいた人影も打ち斃す。

 文字通りに鏖殺していった。



「待たせた」


 ざっと掃討を終わらせてから神殿跡地に戻ってきた。


「先生、あれ打つ時は教えてぇ。もう耳がぐわんぐわん・・って揺れちゃってますぅ」


「悪かった。ちまちまシラミを潰すのが面倒だったから」


「・・連れて来ました」


 エリカとヨーコが笑顔で床に転がした男達を指さした。小太りの大柄な中年男、ひょろりと背丈のあるニキビ痕の消えてない少年、初老の小柄な男、そして娼婦まがいの薄物を羽織っただけの二十歳そこそこの女。全部で4人。いずれも逃げられないように、両足首が砕いてあった。


 実に手際が良い、的確な処置だったが・・。


(・・この子達の旦那になる奴、浮気なんかしたら悲惨だな)


 俺は苦笑しつつ、気絶した男達を見回した。


 すでに、北街区は固唾を呑むようにして静まりかえっているが・・。


「ラース、全周警戒だ。鳥も蟲も近づけるな」


 透明化している魔獣に命じると、俺はおもむろに細剣を大柄な男の股間へと向けた。


「わざと音を響かせる」


 見守る少女達に断って、耳朶を殴りつけるような炸裂音を響かせて、細剣技:9*19mm で男の股間を打ち抜いた。


 アギィアァァァァ・・・・


 この世の終わりのような絶叫をあげて男が跳ねた。気絶のフリをしていただけだった。


「カリーナ神殿で何があった?」


 俺は細剣の先を男の右足・・その爪先へ向けた。


「ひ・・ひぎっ・・いだ・・」


 男の右足から爪先が無くなった。


「カリーナ神殿で何があった?」


 俺の細剣が男の左足の爪先へ向いた。


「だめ・・やめ・・」


 男の左足から爪先が無くなった。


「カリーナ神殿で何があった?」


「や、やめ・・」


 男の右膝は爆ぜた。

 再び、男の悲鳴が響き渡った。


「カリーナ神殿で何があった?」

 

「嫌だ・・や、やめっ・・」


 男の左膝が爆ぜた。

 ここで、とうとう気絶してしまった。


 しかし、


「カリーナ神殿で何があった?」


 俺の細剣が男の右手へ向けられた。

 

「先生、また来たみたい」


 ヨーコが外を指さした・・と言っても、壁が無いので中も外も無いのだが。


「掃討してくれ」


 俺は細剣を男の左手へ向けながら言った。


「はいっ!」


 リコ、サナエ、ヨーコ、エリカと武器を手に飛び出して行く。


「あ、貴女達、神殿の方ね?私は関係無いのっ!止めようとしたんだけど、その人が・・」


 何やら言いかける女の額へ細剣を向けた。


「カリーナ神殿で何があった?」


「こっちの、マッカスが神官の娘に手を出しちゃって・・それで、神官が怒鳴り込んできて、うちの人とマッカスで閉じ込めて・・それで・・その、死んじゃって」


「娘はどうした?」


「それは・・その・・」


 直後、女の眉間に穴が穿たれ、後頭部が爆ぜて飛び散った。


「神官の娘はどうした?」


 俺の細剣が、マッカスという少年へ向けられた。


「し、しん・・死んだ」


 少年の右足が膝から千切れ跳んだ。ひとしきり甲高い悲鳴があがる。


「神官の娘はどうした?」


「死んだっ・・舌噛んで・・だから捨てた」


 少年の左足が無くなった。


「神官には奥方が居ただろう?」


「そ、そいつは・・親父が」


「そうか」


 俺は細剣を大柄な男へ向け、頭を粉砕した。


「神官の奥方はどうした?」


 残る1人の前に立った。


「くくく・・おかしな技を使うが、足を折った程度で儂を抑えたつもりか?」


 じっと黙っていた初老の男が低く笑い声をたてた。その両手両足を打ち抜いた。

 短く苦鳴をあげ、それでも笑みを絶やさずに俺を見上げようとする。


「それで?何か出来るつもりか?」


 俺は冷え冷えとした双眸で見下ろした。


「ふん・・我等に、この程度の傷など・・」


「その傷は塞がらない」


「・・・むっ!?」


「魔人だろうと、天空人だろうと・・な」


「ば、馬鹿な・・貴様は」


 眼を剥く初老の男の股間を打ち抜いた。

 

 正真正銘の苦鳴があがった。


「俺の与えた傷は治らない。傷口は再生しない・・そして、もう二度とお前が蘇ることも無い。俺がいくつの血魂石を砕いてきたと思っている?」


「き、貴様・・」


「まだ力の差が分からないのか?」


 俺の左手が男の頭を掴んだ。


「おのれっ・・」


 叫びながら何かをしようと力み返るが・・。


「魔力は喰った。もう、お前はただの肉の塊だ」


 俺の左手は相手の魔力を喰らう。そのまま、左手で男の頭を握り潰した。

 砂状に崩れ去っていった男の中から血魂石が出て来た。たいした大きさじゃない。即座に細剣で貫くと、もうお馴染みの絶叫のような音を鳴らして血魂石が砕けて消えていった。


「さて・・起きろ」


 俺は、細剣技でマッカスという少年の股間を打ち抜いた。

 物悲しい絶叫と共に気絶していた少年が眼を覚ました。


「神官の奥方はどうした?」


「死んだ・・たぶん」


「たぶん?」


「親父に逆らって暴れたから・・その・・首を絞めるんだ・・親父」


「そうか」


 俺は、マッカスの眉間を打ち抜いた。


(他にも、色々やっていそうだな)


 静かになった町の通りへと出た俺の元へ、仕事を完遂した4人が駆け寄ってきた。

 そのまま通りを歩きながら、尋問で喋らせた内容を話して聴かせる。

 聴く内に、4人の眼が据わっていた。


「リコ、エリカと協力して、神官と奥方、その娘を捜してくれ。死骸でも遺品でも何でも良い。カリーナ神殿へ送ってやらないといけない」


「はいっ!」


 リコとエリカが頷き合って手を繋いで姿を消す。


「ヨーコ、サナエは俺とドブさらいだ」


 俺は地面の下を指さした。


「はい!」


「かしこまりましたぁ!」


 2人が怒りで青ざめた顔のまま返事をした。

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