38話 VSヴァルキュリー

「うああああああああ!!!」

「なっ!?」

「させない」


 ヴァルキュリーは腕に刺さった矢を抜くと何事も無かったかのようにそのまま黒フィルの所へ直進する。しかしそれを白フィルが鎖鎌で力を分散させながら斜め右に受け流しす。後方の黒フィルとそれをカバー白フィルの見事な連携によりヴァルキュリーの一撃を抑制している。これは元々は一人の人間だった二人だからこそ出来る連携であり、他の誰かが持ち合わせていない特技といっても過言ではない。


「助かったわ、白」

「んっ」

「ぼさっとするな! 第二波が来るぞ!」

「わかってるわよ!」

「心配しすぎ」


「うああああああああ!!!」


 白フィルは鎖鎌で剣の力をいなしながらまた避ける。その隙に黒フィルが矢を放つ。

 そして今度は太股に矢が刺さった。

 しかし、ヴァルキュリーの動きは中々鈍らなかった。


「なんて化け物なの!? あれ、一応猛毒を塗ってあるはずなんだけど……」

「相手は神様、これしきのことは想定済み。理性が飛んでるだけありがたい」

「……そうね」


 二人(ダブルフィル)は冷や汗を掻きながらヴァルキュリーの様子を伺う。


「でも、どうするんだ? あれじゃきりがねぇぞ?」

「だね、相手は神様で、それに今じゃ狂神バーサーカーだもんね……。多分、痛覚とか無いんじゃないかな? だとしたら一撃で鎮めた方がいいかもね」

「一撃で鎮めるって言ったってどうすんだ? 俺らに神様相手を一撃で倒せるような魔法なんてあったか?」


「私達なら出来るかもしれない」


「……え?」


 ロドニはリンと対策を考えていると、まさかの白フィルが「出来るかもしれない」と宣言して少し間が抜けた。


「だけど、少しだけ時間がかかる。足止めをして欲しい」

「……分かった」


 ロドニは迫ってくるヴァルキュリーに反応すると、説明も聞かないで白フィルに掛けることにし、そのままヴァルキュリーに突っ込んだ。

 それを迎え撃つかのようにヴァルキュリーはロドニの方に剣を構えた。


「うああああああああ!!!」


 そして二人は剣を交えては避けては受け流しを繰り返した。

 ロドニはあくまでも時間稼ぎのため、ただ守っていればいい。だが――、


「ごろ゛ず!」

「なっ!? ……しまっ!?」


 ヴァルキュリーが呻き声ではなく、分かりにくいが言葉を発した。それによってロドニは驚き、動きが一瞬だけ止まってしまい、刀を弾き飛ばされた。


「させるかよ!」


 するとリンがいつの間にか出した銃でヴァルキュリーに撃ち込む。それに気づいたヴァルキュリーはロドニから距離を取った。


「ごめん、リン。油断したよ……。それよりもアイツ……」

「――ああ、恐らく少しずつ理性を取り戻してるんだろうな」

「不味いよね?」

「不味いな、早く倒さないとこっちの敗けだ」


 二人が危機を感じていると後ろから声をかけられた。


「悪い、待たせたわね」


「「……誰?」」


 二人の声は見事にハモり、後ろには灰色の髪をしたゴスロリがいた。


「誰って、あたしだけど?」

「オレオレならぬあたしあたし詐欺ですか? 警察呼びますよ?」

「分かってるくせにこんなところでボケんな!」

「いてぇ!」


 リンは見事なタイキックを貰うと、痛さの余りに悶える。

 そんなリンを見て見ぬふりをするロドニは話を続ける。


「えっと……その姿はどういうこと? 見た目が白フィル灰色バージョンなのに喋り方が黒フィルって……」

「あー、元々あたし達は一人から分裂した姿なの。まあ、主人格は白フィルの方だけど、戦いに関してはあたしの方が上だから、疑似人格のあたしが今は主導権を握ってるってわけ」


 黒フィルは状況判断が追い付かないロドニ軽く説明をする。


「なるほど? ……だけどこっからどうすんだ? みたところ特に能力的に変わってるところが見当たらないんだけど……」


 半ば理解してないリンは、髪色と顔つき以外は特になにも変わったように見えない黒フィルに聞く。


「見てれば分かるわよ。それと今からするのはあたしの最大出力を一点に集中して撃ち込む大技なの。でも、その代わり反動がかなりあるから撃ち込んだ後は身動き一つも取れないからその時はよろしくね」

「お、おう。わかった」


 リンがワンテンポ遅れて反応するのを確認すると、黒フィルは今までに無いほどのスピードでヴァルキュリーに突っ込んで行く。それによって遅れてくる大量の砂埃と余波。恐らく今のリン達が追い付くのが無理速さだろう。

 気づけば懐に潜んでヴァルキュリーの下から顔を覗き込める位置にいた。


「まずは一撃!」

「ぐはっ!?」


 すると黒フィルはヴァルキュリーが反応するより先に強烈な回し蹴りをかまし、ヴァルキュリーは民家の壁をぶち破りながら飛んで行く。見たところ普通の人間なら戦闘不能になるような一撃だろう。


「キサマァ……!」


 ヴァルキュリーは呻きながら脇腹を押さえていた。よく見てみると少し脇腹が抉れている。

 どうやら相当なダメージを負ったらしい。先程のスピードも考えれば、黒フィルは普段の数倍の身体強化状態になっているだろう。

 だが、ヴァルキュリーの脇腹は予想以上に早く回復して行き、あっという間に完治した。


「なんて化け物よ、全く……あたし達でさえチートそのものなのにそれを上回ってどするのよ……」


 黒フィルは目の前の脅威に冷や汗を垂らしながら声を漏らす。


「キサマァ……コロス……!」

「やれるものならやってみなさい!」


 そう言いながら二人は激突した。

 黒フィルは異空間から鎖鎌を取り出し、そのまま受け流さずにヴァルキュリーの剣を正面から受ける。すると、二人を中心に吹き飛ばされそうになる勢いで余波を周囲に撒き散らす。


(おいおい、マジかよ……。受け流すのでさえ精一杯な一撃を簡単に防ぐとか……)


 リンは二人の戦闘を見て呆然とした。


「そろそろ終いにしようかしら……!」


 黒フィルはそう言うとヴァルキュリーの剣を弾き飛ばすと一気に距離を取る。すると、異空間を展開し、鎖鎌を放り込んで無気味そうなドス黒い弓矢を取り出した。

 そしてヴァルキュリーが怯んでいるうちに矢を構えて詠唱をし始める。


「我が名はフィル! 孤独に寄り添う我が弓よ! 我が命を削りて全てを匍匐ほふる力に変えよ! 一撃必殺! 【大爆発矢エクスプローション・アロー】!」


 詠唱を終えると矢先に膨大な魔力が集まる。元々はそこまでの威力では無いのだろうが、詠唱することにより更に威力を増していた。


「「『防御魔法プロテクト』」」


 リン達はそれを察して巻き添えを食らわないように『防御魔法プロテクト』を展開した。――が、リンはあることが脳裏をよぎる。

 それは黒フィルの最後の言葉だ。

『撃ち込んだら身動きが一つも取れないからよろしくね』と、黒フィルは最後に残した。

 それはつまり撃ち込んだ後は身動きがとれないということはまともに自分の撃った技の余波を無防備状態で受けることになる。

 それを悟ると、自分のを解除して急いで黒フィルの前に展開した。


「え? ちょっ、リン!?」


 それに反応したロドニが驚いて『防御魔法プロテクト』が乱れる。

 するとリンは急いで黒フィル程ではないが、ロドニに簡素な『防御魔法プロテクト』展開する。


「うあああああああ!!!」


 そして黒フィルは自身の技の反動で悲痛の叫びを上げる。それと同時に来る余波。リンは二人に『防御魔法プロテクト』展開したいたせいで自身を守れずに、余波で壁岸まで吹き飛ばされた。


「ぐはっ!」


 リンは呻き声上げるとそのまま意識を手離した。


 そして今に至るのであった。

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