第13話 授与式
「あー頭がくらくらする……キリカ先生の説教食らってからの始末書は真面目に死ぬかと思った、怒られてる途中から意識飛んでたわ……」
ふらふらしながら学校の敷地を出ると、直ぐ横で寄っ掛かっている人物がいた。
「遅かったね」
「他人事みたいに言わないでくれよ、ロドニさんよお? お陰さまでこってりしごかれたからな? こっちはもうフラフラだ」
「それはそれは御愁傷様なことで」
事の発端を作り出した本人に他人事のように流されたリンはジト目で睨み付けた。
それを見たロドニは、「ごめんごめん」と言いながら、腹を抱えて笑っていた。
(くぅ、この正直者め……。でも、何だかこの感じ、懐かしい気がするのは何故だろう、昔にもこんなことがあった気がする。全く思い出せない……)
そんな事を考えていると、
「どうしたのそんなに難しい顔して?」
気がつけばロドニが顔を覗かせていた。
「うわぁ、近いって!?」
思い出すのに必死で気づけなかった。
「相変わらず、リンはオーバーリアクションが過ぎるよ? まあ、それはそれで弄り甲斐があって、私的には面白いんだけどね」
「泣きたくなってきた……」
「リンは打たれ弱いね」
「それに比べてロドニは性格が陛下に似てきたんじゃないか?」
「あはは、中々面白いこと言うね」
そういいながら、ロドニは笑っていた。
そして、釣られるかのようにリンも笑っていた。気づけば、さっきの疲労が忘れられるくらいに軽くなった。
「そういえば、授与式そろそろだけど、平気?」
「あ……」
「まさか忘れてるとか言わないよね?」
「ひゅーひゅー!」
リンは視線を反らして口笛であからさまに誤魔化した。
「忘れてたのね……」
ロドニは頭を抱えて「やれやれ……」と言いながら呆れていた。
「すまん」
「別に気にしてないよ? それに、適当にお誂えな言葉を言えば何とかなるよ」
「一ヶ月前までは離れの町に住んでた平民の俺には荷が重いですけど?」
「んーそうだねぇ……、なら今日帰ってお父さんに色々聞いて段取りを整えて、事前に練習しておけば、少なくとも恥は掻かなくて済むんじゃ無いかな?」
(その手があったか、さすがロドニだ。頭が冴えてる)
「でも、ただで言うと私にはメリットが無いんだよね?」
チラッと見てみると、ニヤニヤしながら顎に指を添えて、まるで悪代官のように見えた。
(前言撤回! 何て現金なやつなんだ! 俺の感動を返せ!)
「それで用件は?」
「授与式が終わってからでいいんだけど、その時にする質問には嘘偽りなく答えて欲しいんだ」
「……それだけ?」
「うん、それだけ」
(あれれ? 意外とあっさりとした交換条件な気がするんだけど? これ絶対裏がありそうな気がする)
疑り深く考えていると、
「そんな大した質問じゃないから今は気にしないで」
「うーん、わかった」
気にはなったものの、ここで突っ込んだら更に条件が増えそうな気がしたので、やめた。
「素直でよろしい! じゃ、私こっちから帰るからまたね!」
「お、おう!また明日」
そう言って二人は別れた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
授与式当日
「やあやあ、少年よ、今の気持ちは如何かね?」
「緊張してる決まってるだろう? 帰れるならさっさと帰りたい気分だよ。てか、ロドニ、なにその煽りみたいな喋り方は?」
「いやー、こうした方が緊張が解れるかなって思ってさ」
そう言いながら年寄りみたいに後ろに手を組んで身を翻すと、朗らかに笑いかけてきた。
(こういうところは本当に可愛いのに……)
リンは心のなかでそう思った。
「今、失礼なこと考えなかった?」
「し、してないよ?」
「なんかわざとらしいけど、まあいいや」
(こういう時に限って女の勘が働くとは……。この先侮れないなぁ……。尻に強かれるのは勘弁だ)
「それで、練習の方はどう? 恥を掻かない程度には様になった?」
「正直、微妙だよ。今まで礼儀とかほぼ無頓着だったし」
「そんなんでよくその年で高等魔法使えるよね……礼儀覚える方がずっと楽のはずなんだけど……」
と、言いつつ、リンをジト目で見た。
「単純に好きなことは率先して出来ても、強要されてやるのはちょっと抵抗があるんだよ。本能的に」
「ふーん」
(早く終わらないかなぁ……)
なんて思っていると、後ろから両手で目隠しをされた。
「だーれだ?」
「なに? 母さん」
目隠しを外して後ろを向くと母さんとついでのように父さんと姉二人がいた。
「もう、少しくらい可愛げに反応してくれてもいいのに」
「生憎、さっきまでからかわれていたものでね。それと、なんで母さん達がここに?」
「それは授与式前の息子が心配で心配で……」
と、言いながら泣いた振りをした。
(なんて白々しいんだろう……)
「でもまあ、別の用件もあるのよ。ちょっと仕えてた元主を粛清にね」
ニッコリしながら言っているが目が笑っていない。
(グッナイ陛下、いい悪夢(ゆめ)を)
「リン様、そろそろお時間でございます。私共についてきて下さい。扉前まで案内します」
と、従者の二人組が言った。
「はい、分かりました」
そしてリンは、謁見の間の前まで来た。
「では、お進み下さい」
そう言いながら従者二人は謁見の間の扉を開いた。
リンは真っ直ぐに陛下の前まで続くバージンロードを歩いた。
周りからは拍手が鳴り響いた。
といっても、リンは恥を掻かないを何回も自分に言い聞かせて周りの音が耳に入ってない。
そして、陛下の前まで来て膝間着いた。
「頭をあげよ」
「はっ」
陛下は初めて会ったときと威厳が違った、まるで初めて会ったロドニに近い雰囲気を感じた。
「此度は見事襲撃してきた暗殺者を撃退し、更に余のロドニを身を呈してよくぞ守ってくれた。余は感服した。よってリンよ、お主に貴族の地位とそれに相応しい家と財産を贈呈しよう」
「はい、有り難き幸せ」
「それと、もう一つ。余はリン・ウォルコットとロドニ・レオンハートの婚約をここに認めよう。リンよ、お主にその覚悟はあるか?」
「はい、私はいかなるときもロドニ・レオンハートを守り、友に添い遂げる事を誓います。この命に代えても」
「うむ、では、三日後に婚約披露宴を行うことをここに宣言する! これにて、授与式を終了する」
こうして、授与式が終わった。
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「つ、疲れたあ……」
「お疲れ、アナタ?」
「帰って寝たい」
「私の大胆発言をスルー!?」
リンはようやく緊張から解放されてぐったりしており、ボケに構っていられるほどの体力は残っていなかった。
「なんか不思議だね、この年で婚約者って、私まだ十歳なんだけどなぁ……」
「そんなこと言ったら俺は七歳だけど? しかも財産と家まで貰って、どうしたものか……」
そんな会話をしていると、先程までの威厳が抜けた陛下が入ってきた。
「随分とぐったりしているではないか、余程緊張していたのか、まだまだ若いな」
「そうですね、あと陛下、背中には気を付けた方がいいですよ?」
「む?」
陛下はリンに言われ、後ろを振り向くと、そこにはニコニコとしたアルシャがいた。
「この前リンから手紙が届いてね、うちの子を弄んだんですって?」
「なっ!?」
「まさか、あれほど調教したのにまだ足りないなんて、Mなんですか?」
「いや、それは……」
「私と陛下はこれから少しお話があるので失礼しますね」
アルシャは陛下の襟を掴んで別室に行った。
少しして陛下の悲鳴が聞こえたが何も聞かなかったことにしようと、心の中で思った。
「俺、そろそろ帰るよ」
「そう?」
「流石に疲れた」
「本当は少し付き合ってもらおうかと思ったけど、披露宴の時に回すかぁ」
「何かはわからないけど、その時でお願い。じゃあね」
「うん、また明日」
リンはアパートに帰ってそのまま泥のように眠りに落ちた。
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