第9話 VS侵入者

「おいおい、随分意気いい嬢ちゃんがいるぜ! これはあれか? 貴族としてのプライドってやつ? 笑えるなぁ?」


 侵入者達はレーナを嘲笑った。


「好きなだけいえばいいわ! アンタ達雑魚なんて私一人で十分よ!」


 レーナは勢いよく啖呵を切った。

 すると、侵入者達からは笑いが消え、その代わりに殺気を放っていた。


「おいおい、たかが初級魔法が使えるからって調子のってんじゃねぇぞ!? このくそガキ! こっちは暗殺者だぜ? お前らごときで、俺達を止められと思うなよ?」


 (やべぇ、怖い……)


「そう思うなら、かかってきなさい! それとも、怖くてそこから動けないのかしら?」


「ほんと、貴族は威勢だけは達者だな、なら、お望み通り殺ってやるよ!」


 暗殺者の一人がレーナに向けて一直線に突っ込んできた。


「“閃光フラッシュ”!」

「なっ、目が!?」

「“岩石砲ストーンキャノン”!」


 レーナは初級魔法の“閃光”で相手を怯ませその隙に『土魔法』で岩の塊を作り相手の急所を貫いた。


「ぐはっ、な、何故……無詠唱を……」


 そのまま暗殺者の一人は絶命した。


(まあ、こんな小さい子が無詠唱なんて使えるなんて思わないか。それに、この様子だと俺、別に手を出さなくてもよくないか?)


 そんな事を思っていると、


「ほう? まさかいきなりやられるとはな、全く、警戒心が足らんな。だがしかし、その年で無詠唱とは長々の才能だな。それはそうと、さっきの“岩石砲”っと言ったが、あれは本当に“岩石砲”か? あれはあそこまでの威力のはずがないのだが?」


「アンタ達に教える義理はないわ!」

「だろうな」


(まあ、実を言うと一番最初に教えた魔力制御が理由なんだけどね)


 魔力制御で形を自在に出来るよにさせておいたのは、どの階級の魔法でも、本質を理解し、加減を変えれば、中級クラスの岩石砲でも上級以上にもなるのだ。


 ちなみにさっきのレーナの場合、岩を鋭利するだでなく、魔力で圧縮し、回転力を加え発射したのだ。

 これは魔力制御がままならないと、ただの脆い岩が完成するだけで、威力は骨折程度になり、致命傷には至らない。

 こんなこと普通はとっさに出来る者は少ない。恐らくレーナは挑発してる間に策を練っていたのだろう。流石は天才。


「それで、次は誰が相手をするのかしら? どんどん掛かってきなさい!」


「くっ!」


 何人かはレーナを見て一歩引いていた。

どうやらさっきの暗殺者はあの中ではそこそこ強かったらしい。


「ならば、俺が相手をしてやろう、小娘」


 その者は余りにも暗殺者とは言えない位に体がゴツい男だった。


「アンタが暗殺者こいつらのリーダー?」

「そうだが?」

「つまり、アンタさえ殺してしまえばチェックメイトってことね!」

「殺れるのもならな」


 男はニヤリと笑っていた。

 なんか嫌な予感がする。

 この男とレーナは何か戦わせてはいけない気がした。


「とっととくたばりなさい! 岩石ほ……」

「遅い!」

「ぐはっ!」


 気づけば、レーナは男に首根っこを捕まれていた。リンが手助けに行く暇もないくらいの勢いで。

 そして、そのまま地面に叩きつけられた気絶した。


(なんだ? 今何があった? あの男とレーナにはかなりの距離があったはずだ。なのに発動される前に一瞬でレーナをやるなんて……。まさかこんなに強いやつが居るとかマジかよ……)


「そこまでだ!」


 気づけば教師陣営が男を包囲していた。


 騎士学校の教師が男に向かって突っ込んだ。

 だが、男を一瞬で避けて、回し蹴りで教師を壁まで蹴り飛ばした。


 その瞬間に魔法学校の教師陣営が魔法を放ったがそれも避けられ強烈な拳を貰い、宙を舞った。


 そのまま残りの教師達の陣営は崩れ見事にやられてしまった。


「さて、戦えるのは奴はこれで最後か? 呆気ないな」


 男は不適切な顔をしながら笑っていた。

そして、ふっと思い出したかのように喋りだした。


「そういえばここにいるって話だったっけか? ロドニ殿下は?」


 どうやらコイツらの目的はロドニ殿下らしい。

 恐らくロドニ殿下を捕まえ、人質として交渉材料にでもするつもりなんだろう。


「お? いたいた。もう少し早く出てきてくれてら、被害が少なくてよかったのになぁ?」

「生憎、そんなこと一言も聞いてなかったものでね」

「そういえば、そうだったな」

「ちっ、このゲスが」

「おいおい、口には気を付けな? なんなら今ここでお仲間一人ずつ殺していったっていいんだぜ?」

「それで、用件はなんだ」


 ロドニ殿下は男を睨みながら低い声で言った。


「雇い主がお前を連れてこいって言っててな、それ以上は言えないが」

「なら、さっさと連れ行くがいい。その代わりここにいる連中は解放しろ」


「たく……王族といい、貴族といい、相変わらずだな、そういう言葉を聞くとヘドが出るぜ。でもまぁ、解放してやるよ。俺等の依頼はお前の誘拐だからな」


 どうする? このままだとロドニ殿下はただでは済まないだろう。殿下のことだ。自分のせいで国家が不安定になったら自ら命を絶とうするだろう。

 そんなことがあっていいのか? 否、もしここで見過ごしたらきっと後悔するのでは無いだろう。 また同じ運命を辿るかもしれない。

 そんなことは決して合ってはならない。なりより、せっかくここに来て仲良くなった仲間じゃないか! なら、やることは一つしかない。


 殿下を助けよう。


「おい、待て! くそ野郎!」

「あ? 誰がくそ野郎だ? 小僧」


 殺気の混じった目線をこちらに向けてきた。


 怖い。逃げたい。死にたくない。

 頭の中はそんな言葉がぐるぐる巡っていた。


「止めろ、リン! お前じゃコイツは無理だ!」


 ロドニは必死の形相で言った。


「リン? あーお前か? 英雄の息子ってのは?」


 男はニヤリとしながら顎に指を添えた。


「予定変更だ! 少しばかりあの小僧と相手してくる。お前らは殿下を見張ってろ」

「はっ!」


 部下に見張りを任せ、リンの前に出た。


「英雄の息子がどれくらいかは知らねぇが、精々楽しませてくれ……なっ!?」


「“瞬歩”! “爆散”!」


「ぐはっ!?」


 男は爆風で壁まで吹っ飛んだ。

 そして、ゆっくり体勢を整えて、此方を睨んできた。


「てめぇ、何しやがった!」

「教える義理はない」


 リンは『ユニーク魔法』で“身体強化”をし、更に『風魔法』で速度を上げて、男に突っ込みつつ、蹴り飛ばし、飛んだ方向に予め魔力操作して、空気中の酸素を集め、男がその位置に来た瞬間にその位置に『火魔法』を加え、強力な爆発を起こさせた。

 普通なら死んでもおかしくないのだが、男は難なく立ち上がった。

これではせっかくの不意打ちが台無しだ。


(思った以上の化け物じゃないか……)


「なら、今度はこっちの番だ!」


 と、言って男は一瞬でリンの前に来た。


「死ねぇ!」


「“身代わり”!」


 リンは瞬間に『土魔法』で自分の盾を作り出しそれを防ぐ。


「ちっ、姑息な!」


 そう言いながら男はまた殴りかかってきた。


「“瞬歩”!」


 そしてリンは殴られる瞬間に瞬歩で避けた。


「逃げるのは達者だな? もう一回来いよ? まさか無理なのか? ならお前に勝ち目はねぇ!」


 そう言いながらリンの懐に近づいて顎目掛けて拳を降り振り上げた。

 男は取ったと確信した。

 しかし、振り上げたはいいが、あり得ないという顔をしていた。

 何故なら、目の前にいたリンの顔がぐにゃっと歪んでいったからだ。それだけではなく、殴った感触も無かったのだ。


 男は悟った。


「くそ! 『幻惑魔法』か!」


「ご名答、お前は今、俺の『幻惑魔法』の中にいる」

「因みに体の一部を損傷させて、痛覚で目を覚まそうとしても無駄だからね? 俺の『幻惑魔法』は痛覚さえ左右させる。だから、お前はもうなす術はない。そしてこれで終わりだ」


 男は怒りと焦りで我を忘れ、手当たり次第拳を降り下ろした。


「くっそ! 舐めやがって!」


「うるさい。散れ! “鎌鼬(ソニックブーム)”!」


「ぐはっ!」


 男は無数の風の刃にズタズタにされ、体の至るところから血渋きが上がった。そして男は絶命した。


「勝った……」


 そして、一拍置いて、周りから歓声が響き渡った。


「リーダーがやられただと……」

「ヤバい、撤退だ!」


 侵入者達はロドニ殿下を放り投げて、一目散に逃げ出した。

 そして、捕まってた殿下が上から落ちてきた。


 親方! 空から男の子が!


 リンは風邪魔法で一瞬で殿下の下に回り、受け止めた。


 むにょ!


 (あれ? 今柔らかいものが当たった気がするんだが?)


 視線を落としたら殿下が顔を真っ赤にしていた。

 そして、


「うわあああああああ!!!」


 バシン!


 リンは強烈なビンタを食らった。


 そして、理不尽だと思いながらリンは意識を手放した。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る