永久の刹那

ぜろ

第1話

 問い掛けよう。

 僕が人間であるのかどうか。



 僕は人間なのだろうか? 形を見れば確かに、僕は人間と呼ばれる存在なのかもしれない。身体は地面に対して垂直に立つし、指も長い。舌の形だって哺乳類らしく広いし、頭部も脳が詰まっているから少しアンバランスに大きい。五体は満足にあって、足を地面につけて歩く姿と言うのは、人間に見える。いや、人間以外のものには見えない。サルにしては少し大き過ぎるし、カンガルーには絶対に見えない。



 だけどそれは外観だけの問題で論じた場合であって、実際はどうなのかなんて分からないものなのではないかと思う。

 人間を人間であると定義付けるためのものとは一体何なのか。それは形か? 答えは否、だろう。



 人間の脳というのは、獣の脳を包括している。だから人間には獣が入っていて、そしてそれを包んでいるのが人間の脳なのだと僕はいつだったか教えられた。それがもう随分昔のような気がするのも、この脳に入っている記憶の所為。

 記憶し、順序だって再生をし、言葉を発して自我を持つ。それが人間の脳というものだ。内なる世界を持つのが人間の特徴。獣のように生存のための最低限の思考のみを持つものではない。

 人間の定義はこの、獣の脳を包む人間の脳の有無なのだろうか。でもそれも少し違う気がする。何か、こう、据わりの悪いものを感じてしまう。



 原点に返ろう。

 僕は人間なのか?



 僕は果たして人間なのだろうか。形は人間だし、見たことは無いけれど人間の脳というものもきっと持っているのだろう。その部分は何にも代用が効かないからと残されたはずだから、僕はそれを持っている。獣の脳に包まれた人間の脳を、この頭の中に収めている。

 人の脳を持って、その脳に従って、理性で野生を押さえつけて。

 僕はそうして生きている、人間のように生きている。

 だけど僕は自分が人間ではないと思う。

 僕はそう思う。



 だって僕は肉と骨とこの形の身体と脳とを持っているけれど。

 それ以外のものを、沢山持ち過ぎている。

 余分なものを沢山持ち過ぎているのだ、僕は。



「人間の定義って何なんだろうね……」

《そんなものがあるとは知らなかったが》

「君はそれで良いだろうけれどね、ゴウ

《お前もそれで構わないだろう、刹那セツナ



 それは永遠の長さを持つ拷問のような試験。

 僕は人間なのか、機械なのか、それを判定する。

 だけど年を取れない生き続ける身体には刹那なのだろう。



 会話の終わりに訪れた沈黙、僕は街の中へと足を踏み込んだ。

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