散文集
青葉 千歳
テスト
指先にかかった全人生が、その力に耐え切れずに折れ曲がった。この鉛筆の芯の様に真っ直ぐな人生じゃなかったから、私は救えないって。
鉛筆は今も私たちの未来を黒く塗り潰す。並び居座る私たちに個性はなく、それは、無機質な番号の羅列だ。自分の未来を正しく塗り潰せた者だけが、その番号を拾われる。込めた指先の力に関わらず、努力と才能と運が、僅かに人生を左右した。右に行っても左に行っても、そこにあるものは変わらないかもしれないけれど。
不安にさせるのは分からない言葉で、知らない言葉だ。ひとつ、その言葉が増える度、心は秒針を加速させる。一秒たりとも反旗を翻さない針は、きっと神様よりも無慈悲で。多分、誰よりも正しかった。昨日の今頃も同じように机にしがみついていたことを思うと、私たちは何かを間違ってやしないか、心が折れそうになる。果たして本当に針は進んで、私たちは、進めているのだろうか。
目が痛い。
印字された文字が、目に染みるから。
耳が痛い。
紙を擦る音が、鼓膜を破るから。
指が痛い。
こんな細くて頼りない腕に、全てが懸かっているなんて。
思いたくない。
信じたくない。
これまでの努力が報われないことが、怖かった。私だけが取り残されることが、その次に怖かった。今日という日を永遠に後悔し続けることになるのが、その次に怖かった。抱えきれない恐怖を抱えていることが、その次に怖かった。
みんなの期待を裏切ることが、何よりも怖かった。
頭が痛い。
考えすぎたみたいだ。
多分、ありもしない未来を。
考えすぎたんだ。
疲れたと、悲鳴をあげた頃。
指先が重圧から解放された。
誰かが一言。
「休憩は10分です」
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