DEADLOCK

Habicht

第1話 SURVIVE

『わあぁぁぁぁ!!』


 大観衆の歓声が小さな会場を包み込む。


「また勝ったぞ!あいつら」

「何者だ?!」

「可愛いな」

「しかし、一人はあの"一匹狼"だろ?!」

「この大会、面白くなってきたな!!」


 ……

 大陸の東の果て、小さな国「オーデ」

 世界が終焉へと向かう中、これを阻止しようと、列強の国々は次々と"能力者"を送り出した。


 オーデも国王の勇気ある判断により、"選抜大会"と銘打って能力者を募った。


 当初は王国騎士団達の圧勝と思われた大会だったが、急遽出場を許可された一組が、そのセオリーを打ち崩していた。


 その3人は一見するとチームワークは皆無、能力もバラバラで共通点も無い。


 勝ち進むうちにいつしか3人は

 "three-way DEADLOCK"

(3すくみ)

 と呼ばれた。


 ……

『わあぁぁぁぁ!!』

「これで2回戦突破!」

「すげー!」

「俺、ファンになろ!」

「見ろよ、また勝ったぜ"DEADLOCK"が!」


 歓声に包まれた会場の中心で、勝利者として立っていた3人。


「フン…」

 勝って当然という顔をする男。

 男の名は"ルプス"


「またぁルプス、もうちょっと愛想笑いしなよぉ」

 不貞腐れた男を注意する小柄な少女。

 少女の名は"アイズ"


「また勝てた…次があるんだ…」

 呟きながら空を見上げる黒髪の女性。

 その名は"エルス"


「うん!この調子で優勝しちゃお!」

 エルスに向かってガッツポーズを取るアイズ。


「次の試合は午後からです。控え室でお待ち下さい」

 審判兼司会に促されて会場をあとにする3人。


「次も頼むぞー!DEADLOCK!」

「期待してるぜー!」

 花道でも歓声が止むことはない、照れ臭そうにアイズは軽く手を振って応えていた。


 ルプスは眉間にシワを寄せて、うつ向いて歩く。


 その後ろをただ前だけを見つめて、凛々しく歩くエルス。


「3回戦目はとうとう騎士団の連中と当たるみたいだよ」

 控え室でアイズが不安そうに二人に話しかけた。


「関係ねぇ」

 ルプスは一言で吐き捨てた。


「そいつらは…強い?」

 エルスは物知らぬ乙女のような瞳でアイズに問いかけた。


「そりゃ、この国の筆頭だもん。優勝候補のチームじゃないみたいだけど、強いよ!」


「楽しみだね…」

 無表情で返すエルス。


「エルス、どう?何か思い出せた??」

 心配そうにエルスを見つめるアイズ。

「いや…まだ何も…」

 エルスは切なくうつむいた…


 1ヶ月ほど前にアイズに拾われたエルスには記憶が無かった。


 軽装の鎧と片手剣のスタイルだったことで、アイズはこの選抜大会に出場すれば、何か思い出せるのではないか?と考え、エントリーを決意した。


 あるいはエルスを知る人物に会えるのではないか?と考えての事だったが、未だに何の手懸かりも無かった。


 ……

「これより3回戦を始める!

 "騎士団Bチーム"対"DEADLOCK"!!」

 エントリー時にはチーム名が無かったが、観衆が言い始めた"three-way DEADLOCK"(3すくみ)から引用されて、いつの間にか正式名になっていた。


 騎士団Bチームは優勝候補の一角、甲冑を身に纏い、槍・両手剣・片手剣と盾の、バランスの取れたメンバー、いかにも強そうだ。


 一方、DEADLOCKは"一匹狼"と呼ばれていたルプスが前衛で相変わらずの不貞腐れ顔で突っ立っている。

 一歩下がって、片手剣のエルス、後衛にアイズの陣形。


 即席だが、各々の能力からアイズが決めた布陣だった。


「はじめ!」

 審判が大きな声で開始を宣言して!


「さっさと終わらせる」

 ルプスはそう吐き捨てると、一気に能力を解放した!


「狼牙!!」

 牙と化した腕で相手に飛び付き、切り裂くルプスの大技!


「ちょ!いきなり?!」

 アイズは焦って右目を瞑り、左目だけで相手チームを凝視した。

 エルスは剣を構えてルプスのあとに続いた。


 ガギン!

 相手の盾で防がれた鈍い金属音が鳴り響く!


「隙あり!」

 槍の騎士がルプスを突きに来る!


 ギィン!

 これをエルスが駆けつけ、凪ぎ払った!


「チッ!」

 ルプスの舌打ち。

 後方に飛び退き、再び距離を取る3人。


「ルプス!まだ相手の能力も"見えてない"んだから!」

 アイズの忠告にルプスは無反応。


 ルプスの能力は"一匹狼"、体の一部を狼のように獣化させて戦う完全攻撃型のスタイル。


 アイズの能力は"千里眼"、左目で相手の能力を見抜く。


 そして、エルスには能力が無い。

 正確には解っていない、記憶が無いからだった。

 ただ片手剣の扱いだけは群を抜いていた。


 観衆から"3すくみ"などと言われるのも無理はない。

 ルプスは能力同様、性格も単独行動ばかりの、まさに一匹狼。


「あの盾は能力で相当硬そう!基本が素手のルプスじゃ傷も付かないよ!エルス!」

 アイズが解析を進めながら指示を出す。


「判った…」

 小さく頷いたエルスは剣を振りかざしてダッシュをかけた!


「はぁぁっ!」

 走り込んだエルスが、剣盾を相手に剣撃を放つ!


 ギギィン!

 エルスの渾身の連撃も盾で完全に防がれている!


 槍と両手剣の騎士が同時に前進する!エルスを一網打尽にするつもりだ!


「ウラァ!」

 ドガッ!

 何処からともなく飛び出したルプスが、狼牙で剣盾の騎士を横から叩き潰した!


「なっ?!」

 槍と両手剣の騎士達が一瞬怯んだ。


 次の瞬間!


 キィン!

 エルスが槍の手元を狙い武器を落とさせた!


 ドゴッ!

 ルプスが剣盾を潰した勢いのままま残る両手剣の騎士の顔面を殴り倒した!!


「勝負あり!!」

 審判の声が会場に響く!


『わおぁぁぁぁ!!』

 再び会場はDEADLOCKを讃えて歓声をあげた!


 単に飛び入りのチームが珍しいだけではない。

 観衆が沸き立つのには理由があった。

 王国では長年騎士団が最強であり、その戦い方は王道。

 DEADLOCKの、特にルプスの破天荒な動きと、予想できない戦闘スタイルが斬新だったのだ。


 そこに小柄な少女と、能力不明の黒髪で片手剣の女性。


 こんなにも観るものを魅了するチームなど他に無かった。


 小休憩の後、ついに決勝戦まで駒を進めたDEADLOCK。


 相手は騎士団Aチーム。

 ここにも剣盾がいた。

 やはり王道。

 そして、双剣と槍の構成。


「盾がまた同じような能力とは限らないから解析待ってよね!」

 アイズがルプスに釘を指す。


「フン…」

 相変わらず無愛想なルプス。


「私が先行する」

 エルスが前進して構えた。


「これより決勝戦を始める!騎士団Aチーム対DEADLOCK!」


『うおぉぉぉぉぉ!』

 観衆は最高潮に達していた!


「はじめ!」


「ハッ!」

 エルスが息を吐き前に出た!


 しかし、それを相手は読んでいた、双剣の騎士がこれを迎え撃つ!


 エルスと双剣の激しい攻防!

 エルスの剣の腕は確かだったが、相手が悪い。

 Aチームの双剣は流石の手練れで、エルスの剣を受け流し、二刀流を生かしたスピードで完封している!


 ルプスが横からこれを撃破しようとしたが、剣盾の騎士が立ちふさがった!


「チッ…」

 ルプスの能力が盾と相性が悪いのは既にバレていたのだ!


 完全に二人は足止めを食らった!


 すかさずそこに槍の騎士が走り込んでくる!

 狙いは


「アイズ!!」

 エルスが後方に向かって叫んだ!


 戦闘タイプではないと見抜かれていたアイズを狙った布陣。


 鋭い槍が小柄なアイズに突き出される!!


 ヒュン!

 磨きあげられた突きの空を切る音が、会場を刹那の静寂に変える!


 アイズは"千里眼"で突きの軌道を読んで、間一髪でこれを避けた!


 ボコ!

 避けた回転を使って、アイズが槍騎士の鎧を蹴り飛ばした!


 非力なアイズでは騎士の勢いを一瞬止める程度しか出来なかった。


 だが、それで十分だった!


 ガン!

 即座に双剣から身を引き、アイズの元へ駆け寄ったエルスが槍騎士の後頭部に延髄蹴りをお見舞した!


 気絶した槍騎士がドッと倒れる。


 一方ルプスもその軽い身のこなしで、一旦エルスとアイズの近くに飛び退いてきた。


「なんて無茶苦茶な戦法だ…」

 普段から王道の戦闘訓練ばかりしてきた剣盾騎士がぼやくのが聞こえた。


「王道戦法やってたきゃ選抜大会なんかに出てくんじゃねぇよ」

 ルプスが冷たく言い放った。


『そこまでじゃ!!』

 大歓声が一瞬で静まり返るほどの、太く鋭い通った声が会場を貫いた!


「国王!」

 誰かが言った。


『DEADLOCK見事なり、そなたらの優勝じゃ!』


『わあぁぁぁぁ!!』

 再び会場に歓声があがる!


「ひゃ~!勝っちゃったよー!」

 アイズが飛び上がって叫んだ。


 そのまま3人は会場に残され、表彰式となり、国王が自ら降りてきた…


「我が王国で騎士団以外にこれほどの逸材がいたことを誇りに思おうぞ!

 これよりそなた達がオーデ王国の代表として、終焉へと向かう世界を救う旅に出てもらいたい!」

 国王が高らかに3人を讃えた。


「世界を…救う…」

 状況を把握し切れていないエルス。


「…フン…」

 国王を前にしても不貞腐れるルプス。


「私達が国の代表…」

 あまりのことに言葉を失っているアイズ。


「我らはそなた達を全力でサポートしていこう!そしてこの終焉の世を救ってくれ、生き延びるのだ!」


 "生き延びろ"


 その言葉がエルスの脳裏に、何かを一瞬浮かび上がらせた。

 が、すぐに消えてしまった…


 …

 その夜、エルスは一人星空を見上げていた…


(エルス…それが今の私の名前…)

 この名前は記憶を無くした彼女を拾ったアイズが付けた名前だった。


 "別人"


 という意味を持つ名前。


 優勝で有名人となったが、エルスを知るものは現れなかった。


「だったら世界を廻って探すしかないね!」

 とアイズがエルスの背中を押した。


 "一匹狼"のルプス


 "千里眼"のアイズ


 "無能力"のエルス



 DEADLOCKの旅は始まったばかり…

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DEADLOCK Habicht @snowy0207

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