たった2人の叛逆者《トレーター》
名乗らずの木
第1話
「この刻印を、使い魔にしたいモノに張るのじゃ。すると、無機物ならゴーレム、生物なら使い魔になるのじゃ。」
そういって、今時珍しい魔女の格好をした老婆は、トライプサイズの刻印のの札を、近くの瓶に入れておいたトカゲを取り出し、背中にくっつける。
すると、札は、青白く光をあげ燃え上がる。カードが燃えてなくなるな連れ、トカゲの背中に黒い模様が写されていく。描かれていくに連れ、煙があがり、室内に焦げ臭い匂いが広がる。私は、その匂いが嫌いで、つい鼻をつまんでしまった
「刻印は、主人の魔血管刻印の一部のものじゃから、命令にはほとんどの場合、絶対に従うのじゃ。」
「ほとんど?」
「あぁ、何事には例外はある。例外、それはね…」
魔女の次の言葉が紡がれることはなかった。場面は一気に変わり、辺り一面が火の海に変わる。
私はあの熱さをはっきりと思い出せる。
「あついよ…」「くるしいよ」「たすけて…」
そういった類の言葉が四方八方から聞こえてくる。
そして、目の前にいた魔女は、炎に飲まれ溶けていった。蝋人形のようにドロドロと崩れていき、形を失っていくのを私は、呆然と見ることしか出来なかった。
炎の夜を私は決して忘れない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「はっ!……はぁ、はぁ。」
私は、恐ろしいほどの喉の渇きに襲われ飛び起きる。握りしめてた札を横に投げるように離し、転がるようにしてベットから降りて、食いつくようにキッチンの蛇口に口を突っ込んだ。
冷たい水道水が喉を通り抜けて、気持ち悪さを拭う。
「………また、あの夢を見れた。私の復讐の炎は消えてない。」
臥薪嘗胆という言葉は、私のことをいう言葉だろう。ステンレスの食器に自分の顔が映りこみ、冷や汗がびっしりと首筋から額にかけてついた自分の顔を見て苦笑する。自分でいうのは可笑しな話だが、ひどい顔をしている。
プルルルルル…
突然、鳴り出した携帯の音に私は、驚く。その復讐の相手からの電話だったからだ。私は、枕元の携帯の前まで走って行き、ゆっくりと取り上げ、耳に当てる。
『任務だ。
「はい。なんなりと、
私は、歯軋りしてしまいそう自分を抑え、服の裾を強く握りしめながら、復讐の火を燃やし、ボイスチェンジャーの声主を心の中で10回は殺した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『4時30分だ。気持ちのいい朝だ!早起きは三文の得!今日も元気に行くぞ!』
『トルネード・ライダーキック!』
「トルネード・ライダーキック!」
小さい頃から、ヒーローに憧れていた。テレビで見る、彼らの勇姿に心惹かれぬ少年は居ないだろう。ヒーローショーにもよく連れて行ってもらっていて、大ファンであった。将来の夢が、ヒーローになることになるのも当然だった。
高校1年生になっても、その夢を諦めず、努力していた…
朝起きて、最初にするのは、習った武術の型の素振り。空手、柔道、剣道、銃剣道、合気道、ジークンドー、太極拳、ect….
1時間半かけて体を動かした後、シャワーを浴びて、用意した鞄を持ち、学校へ走って赴く。距離としては自転車で15分ほどのあたりだが、その途中で、彼は人助けを必ずすることにしていた。
「お、優希ぃ、すまねぇな、いつも。シャッターと看板立てるの手伝ってくれ。」「おっけー!」
「うちも頼むよ」「任せて、おばちゃん」
「野菜並べんのお前のセンスに任せる」
「あぁ、売り切れ確実なものにしてやるぜ!」
迷子や落し物やお使い、交番への挨拶までをこなして、遅刻寸前の8時18分に全力疾走で教室に駆け込む。だが、息は上がっていない。
雛澤 優希は、ほとんど全てにおいて満遍なくこなす男だった。そのうえ、ヒーローに憧れて熱血漢で、街の人からも頼られる人望もある。
たが、そんな優希が1つ持っていなかったものがあった。
それは、
「おはよう!」
入ると、優希は大きな声でクラスメイトたちに挨拶する。ちゃんと礼も45度ほど深々とやっている。
しかし、
誰一人として、優希の方をみて挨拶を返してくれはしなかった。だが、優希は諦めずに自分の席に着くまでの道のりのクラスメイトたち、一人一人に挨拶をしながら歩く。
「おはよう。いい朝だね」
「………」
話しかけられた人の全てが嫌な顔をして、優希を睨んだ。俺たちに関わらないでくれ。と無言の圧力をかけられるも、優希はそれに屈せず挨拶をする。
そして、窓際に列から外されておいてある自分の机を、右から二列目の最後尾に戻すと席につく。
右隣や前の人にも声をかけるが、こちらを見ることさえしない。
そう、雛澤 優希には、”友達”が居なかっく、いじめにあっているのだ。
席に着いてから、最初の授業の用意をしていると、教室に端から噂が聞こえてきた。
「知ってるか〜?明日、転校生くるらしいぞ。」
「マジか!どこのクラスだ?」
「噂じゃ、ウチって話だ。しかも、聞いて驚け。かなりの美少女らしいぞ。」
「マジで!うれし、狙っちゃおうかな」
「お前、一昨日、夏美ちゃんに振られたばっかりだろ」
「うるせーな、当たって砕け…うわ、ゴミがこっちみてるぞ。」
「ほんとだ。マジ気持ち悪いわ。目つきヤバいし。」
「なんか、あいつ来てから教室臭くない?」
「わかる、くっさいわ〜くさいくさい。あははは。」
わざわざボリュームで喋る彼らは、優希をいじめる一派である。優希は、彼らの声を無視して用意を続ける。嫌がらせで、油性ペンで落書きされた教科書をバックから引っこ抜き机に置く。
(怒っちゃダメだ。いずれ、僕のことを必ず受け入れてくれる。夢のことをバカにされてるのは仕方ない。)
ちょっとして、担任が入って来てSHR(ショートホームルーム)が始まる。
「……だな。今日の連絡は以上」
「せんせー!おはようございまーす!ふぅ…セーフセーフ。」
担任の声を遮って、入って来たのはクラスの中心人物、谷口良平であった。その体格の良さやお茶目さや、爽やかイケメンなどと、男女ともに人気がある。
「セーフじゃ、ねぇ。」
「あ、いたっ。」
担任が、頭を出席簿で弱く叩く。とクラスから笑い声が起きた。
「今回は許してやるから、ちゃんと明日からこいよ。」
「はーい。」
と、おちゃらけた声で返事する谷口は、自分の席へ向かう。向かう途中で、あえて最短距離を使わず、回り道して優希の目の前に来た。
「おはよ、雛澤。」
「お、おはよう。谷口君。」
わざわざ挨拶に来た谷口は、そのまま屈み、優希の耳元で囁く。
「今日も、朝からご苦労様。ヒーローはやっぱ違うねぇ…」
と、馬鹿にした表情で見下した表情になる。優希は、少し苦しそうな顔をしたが、なんとか耐え
「ありがとう。谷口君。」
と、返したのであった。谷口は、何事もなかったようにその場を離れて、自分の席へと座った。
そう、この陰湿イケメン谷口良平こそ、イジメの中核人物であった。
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その後は、いつものように嫌がらせを受けた。提出したはずのプリントがなくなっていたり、教科書が破かれたり、宿題を押し付けられたり、食券を捨てられたり…
様々なイジメが、毎授業襲い掛かり、一派たちは、さらにエスカレートしていく。周りのクラスメイトや教師らは関わりたくない故に、無視を決め込んでいる。
優希は、他のクラスメイトたちが、巻き困るのが危険なことだとわかっていたので、助けを求めたことは一回もない。
(別にいい、ヒーローへの道は長く厳しい。この程度のこそ耐えられなくて、何がヒーローだ。これでいい。いずれ、いずれわかってくれる。分かり合える。)
そうずっと思い続けて、過ごして来た。そう、今日もそんな日常の一日にすぎなかったはずだったのたが。その日常、この日を持って終わるのだった。
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彼女の髪は、赤かった。赤より赤く紅色に近い。炎を思わせるその炎髪は、風にたなびく。同じく赤みがかかったその瞳は、広い町並みを見下ろすのであった。
「お婆ちゃん…待ってて。」
電柱の上に座り込んでいた彼女は、握り決めた札を大切に胸ポケットに閉まった後、猫のように飛び降りて街に消えていった。
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