Tokyoとワタシ

emi0623

第1話 帰省

私って今まで割と上手く生きてきた方だと思う。


「きゃー久しぶり~!!!」

「元気―!?」

「まじ背高くなったね~!!」

歓声が行き交う中を目標に、篠宮紫(しのみやゆかり)は歩く。

十二月。忘年会シーズン。

そして―――

毎年恒例の地元の飲み会。要は同窓会だ。

紫はお昼の電車で東京から地元の茨城に戻ってきた。

おろしたてのガルニエのショートブーツ、中古だけどそれなりの価格がしたフォクシーのコート。

そして一昨日は帰省前の東京で行きつけの美容院でカラーとトリートメントも抜かりなくやった。

「あっ!!紫じゃん!!!」

「きゃーっ、ほんとだあ!」

「ひっさびさー。毎年来てなかったもんね~!」

懐かしい旧友の顔ぶれ。

「おっ、篠宮じゃん。まじいつぶり?」

「成人式の時見かけて以来じゃん。」

男子だってそう声かける。

「皆、久しぶり!元気にしてた?なかなか参加できなかったけど今日は来れて良かったよ♡」

紫は満面の笑みでそう返す。

ブルガリの時計、4℃のピアス、アガットのネックレス。そして冬のボーナスで買ったばかりのセリーヌのラゲージ。派手すぎないジェルネイル。

地元の商店街の一角。

そしてチェーン店の居酒屋。

「っていうか紫、セレブじゃん!何これ!セリーヌ!?」

「やっばー、私一生かかっても買えないよ~。」

小学校から一緒の夏美と比奈。

ふたりは中学までは一緒だったがあまり成績も良くなかったので地元のほぼ大学へは生徒は進学しないランクの公立高校へ行ってしまったのだ。

高校に入っても時々は会っていたがやはりライフサイクルが違うので徐々に疎遠になってしまった。

「とりあえず中、中~!」

皆がそう言って促す。

「紫元気してたの!?」

「まじめっきり見てなくってさ。」

そういう夏美の膝の上には三歳になる娘がいる。

「東京の大学行ったんでしょ!?」

皆からの質問攻め。

座敷に座って足を組みなおす。

「そうだよ、涼慶ってとこだけど・・・。」

紫が卒業した所は、東京の私立大学でランク的には上から数えて三位以内には入る英語や国際系の科目に力を入れている学校だった。

模試の判定は合格圏とまではいなかったが、何とか一般入試で現役合格した。

「すっごい、さすが紫~!て、どこかよくわかってないけどね。」

「昔から頭良かったもんね~!」

「あたしなんて短大の途中で子供デキて辞めちゃったもん。」

比奈が言う。

「あたしも似たようなもんだよ。二十三の時フリーターしてて、アパレルとかしてたけど、コイツデキて。」

夏美が膝の上ではしゃいでる娘を見下ろして言う。

「初めましてー!こんにちは!ナツに子供いるってフェイスブックで見て知ってけど実物は初めてだよ。」

紫は夏美の娘に話しかける。

一重瞼にサラサラの柔らかい髪。夏美の幼い頃にそっくりだ。

「はい、姫。言いな自分の名前。」

夏美が促すと、

「こんにちは。武田姫花です。」

と幼い声で言う。

「姫ちゃんっていうんだ、可愛い。」

超ドキュンネーム・・・っていう率直な感想は置いといて子供は何の理由もなく可愛かった。

「よお、篠宮じゃん。お前何してたん、まじ死んだかと思ったわ。来なさすぎて。」

ガタイのでかい、元ラグビー部の鮫島裕樹だ。奴が紫の隣に座った。

「サメじゃん!変わってない~!」

紫は思わず笑った。

「だろ。未だに時々ラグビーやってるからな。」

こいつも中学まで同級生だった。確か工業系の高校に行って、成人式の時に会ったのは覚えているがあまり話せなかった。

「つか俺も父親って知ってた?」

「えっ、そだっけ!?」

紫は思わず驚愕する。

「そ~なんだよ~!今年一年であたしの息子と同じ学校行ってんの!」

比奈が横から口を出す。

「まじで!?すっご、もう六歳!?」

「そーだよ、十九の時生んだからね~。」

比奈も笑いながら言う。

「そ。うちの嫁も比奈の幼稚園の時一緒だった奴みたいでさ。」

鮫島が言う。

「あー、わかった!フェイスブックで一回ちらっと見た事あるけどギャルな子でしょ。あれ彼女じゃなかったんだ!」

「おー、ハタチん時もう籍入ってたからな。」

「そだっけ?やるじゃあん、アンタが父親とは!」

紫は思わず肩を叩いた。

そうそう、コイツほんと馬鹿なことばっか発言して先生にしょっちゅう叱られてて、けど人情味のあるいいヤツだったな。

紫は思い出す。

はっきり言ってこの所、SNSなんてめっきり見てない。

「ねえ今日さあ、タニ来るって知ってる!?」

「あー、紫の・・・元彼ってやつですよね。」

比奈と夏美が嬉しそうに言う。

「タニって・・・谷崎祥吾!?え、うっそ。知らなかった。」

紫は驚く。

中学の卒業式で告白されたのだ。三年の時は一年間生徒会で一緒に仕事をしていて、祥吾は生徒会長で紫は内申点欲しさに楽そうな書記を選んだのだ。

ずっと何となくいい感じだったけど、いきなり卒業式の時に呼び出されて・・・。

高校も一緒だったからそのまま一年半くらい付き合ったけど、受験で理系と文系でクラス分けされて、徐々に距離があいて、どちらからということもなく疎遠になってしまった。それに大学入学前に紫に新しい彼氏ができたこともある。大学も確か祥吾は地元の国立大に行ったはずだ。

「おっす、久々~。」

そう言ってる間に祥吾が現れた。

百八十ほどある身長、そこそこスレンダーな体つき、整った顔立ち。

「タニおっそい~!もう皆乾杯してるよ~!」

「ここここ!元カップルはここ座んなってばさ!」

夏美と比奈がきゃあきゃあ囃し立て、紫の横の座敷をバンバン叩く。

「おーっす・・・。紫・・・、久々じゃん。」

「祥吾こそ・・・。」

騒がしい居酒屋の喧騒の中何となく空気がそこだけ止まる。

「えっ、地元で就職したんだっけ?」

「おう・・・、今市役所勤務。」

「やるねえ・・・、ピッタリじゃん。」

堅実なとこが祥吾らしいと思った。

「つーかタニ、聞いたぞ。婚約したんだってな。」

鮫島がにやにやしながら言う。

「おっまえ久々に会ったと思ったら情報はえーじゃん。」

「だって同級生だろ。ほら何つったけ、あの子。」

鮫島が思い出せずにいると、

「佐々木里恵!覚えとけよ。同級生だろ。」

紫は思わず息をのんだ。

さ、佐々木里恵ってあの!?

紫が通っていた高校より進学校ではあったけどワンランク下の高校に行った子だ。

中学から一緒だったがはっきり言って地味で目立たない清楚系の女の子だった。

え、いつから?

「ちょっとサメ~、あんたここに元カノいんのにその話!?」

「紫びっくりしてんじゃん、デリカシーないなあ。」

と夏美と比奈がせめてもの防衛をしてくれる。

「あーわりわり。」

「まあ、いずれわかることだしさ・・・。んと、出会いは四年前。就職先が一緒の市役所で。課は違うかったけど。そんで二年前から付き合うようになって。今日はあいつ来てねーけど。」

祥吾が冷静に説明する。

「えー、でもさ。大人になってから見かけた時佐々木さん綺麗になってたよね。」

「そうそう。中学ん時は人見知り感半端なかったけど。」

「ねえ!」

と夏美と比奈が会話する。

「え、写真とか見せて。」

紫は思わず催促してしまった。

「おー・・・、こんな感じだけど。」

祥吾がスマホの画面を見せる。

「上品系だね!可愛いじゃん。」

紫はせめて何とか褒めないとと思いすぐ出た言葉だった。

確かに色白で、肌なんて綺麗だけど・・・。何ていうかオーラ―がない、どこにでもいるちょっと小綺麗な人って印象だ。

なんて・・・。本音なんて言えないけど。

「紫は?付き合ってる奴いんの?」

祥吾に聞かれる。

「え・・・。」

咄嗟の質問に答えられなかった。

「紫ならいるでしょ!」

「中学ン時先輩からも告られてたじゃあん。モテモテだったもんね。」

夏美と比奈がさっきからうるさい。

「え、何紫が今彼氏いないんだって~?」

「うっそー。」

と他の女子たちも話に交わってきた。

「だってさ、頭いいしスタイルいいし美人だし。更に磨きがかかったよね!」

「しかもさ、陸上でも成績も良かったし!」

「生徒会だったしなー。」

「今しかもアレでしょ?あそこなんだっけ・・・。あー度忘れ!」

「キハラでしょ!ビールで有名な!キハラに勤めてんだよね。」

「あ、それそれ!」

「うん・・・。」

紫は皆の質問攻めに何とか返事する。

紫は新卒で、汐留に位置する上場企業のビールが代表格であるキハラに勤めてもうすぐ五年だ。

「でも今は・・・。そういうのはいないかな。」

紫はやっとそう答える。

「えーっ、嘘だあ。紫があ!?」

「東京にいるんなら男なんてやばいくらい沢山いるじゃんかっ。」

「お前選びすぎじゃね?」

と鮫島からも言われる。

「違うし!今はほんとそういうのいいの・・・。」

・・・・彼氏・・・。なんていい響きのものじゃない。

「まーさ、男も近寄り難いんじゃねーの。気いつえーしさ、コイツ。」

祥吾がタバコを吸って笑いながら言う。

「ちょっと!自分が幸せだからってそういうのやめてよね!」

紫が膨れた。

「へえ、篠宮さんに彼氏がいないなんて意外。」

急にそう話しかけてきたのは森沢佳代だった。

「えっと、森沢さん・・・だよね?久々。」

当時から雰囲気は変わっていないのですぐわかった。

垢ぬけないお洒落やメイクに関心がないタイプだ。今日もほぼノーメイクだ。

高校まで一緒だった。確か地方の理系の大学に行ったはずだ。

「私今研究職してるの。大学院出て去年から働いてるんだけど。」

「えっ、そうなの!?凄いね。」

紫はお世辞抜きに褒めた。

「化学繊維とかを顕微鏡使って検査するような地味な仕事なんだけどね・・・。」

「え、どこで働いてるの?」

「道和化学ってとこ。わかる?」

「知ってるよ!そっちの業界じゃ有名なトコじゃん。」

紫は感嘆した。

確かボーナスランキングでもランクインしているかなり初任給がいい所だ。理系の院卒。軽くこの年齢で一千万近くの年収があるかと思う。

「うふ、それであたし院の時に知り合った彼と来年結婚するんだ。」

森沢は聞いてもいないのに嬉しそうに報告する。

「え、森ちん結婚すんの!?」

「まじビッグニュース!!!」

夏美たちも驚いている。

「実は初彼なんだけどね。彼がプロポーズしてきて。」

尚も森沢が嬉しそうに皆に報告。

・・・うっざ。

紫ははっきりそう思った。

「写真あるの!?見せてー!」

比奈たちが催促する。

「これ・・・。」

森沢はあからさまに照れてスマホを差し出す。見るとそこには予想通りの眼鏡をかけて真面目だけが取り柄の青年が映っていた。

「わー、真面目そう。」

「優しそうじゃあん。」

夏美たちは自分の旦那とは正反対のタイプをそう称える。比奈はバツイチだが絶対に好きにならないタイプだ。

「・・・。」

紫は複雑な気持ちで森沢を見ていた。

会合も開いて居酒屋の前で、

「じゃまたなー!俺明日早いから今日は抜けるわ。」

「今度は夏バーベキューしよーぜ!」

「いいじゃんそれー。」

「二次会行く人~!」

そう言って別の居酒屋を提案された。

しかしそれには乗らずに二次会で紫は夏美と比奈とで三人で飲みなおすことになった。

夏美は一旦娘の姫花を家に送ってから合流した。

商店街から外れた一軒家でやっているバーに立ち寄る。

「つうか、森沢のヤツなんなの!超ウザかったんですけど。」

薄暗い照明の中、比奈がキレる。

「だよねえー。うっぜえ。何の惚気よ。中学の時超陰だったくせにね。」

「あーあ、高給取りの自慢が一番うぜーよね。まあいいんじゃん?彼氏も何か童貞みたいなやつだったし。」

「つかよく森沢とデキるよね!?」

「あはは。まあ穴さえあればいーんじゃん?」

ふたりは悪態をつく。

「もういいじゃん。森ちんの話は。」

紫はふたりを制する。

「仕事頑張ってるみたいだし。」

何となくもう思い出したくなかった。

「だあね。けどさ、タニもさー、女のランク下がったよね!」

そこで一番グサッとくる話題を比奈が振ってきた。

「だよね!だってさ、大学ん時とか知らないけど紫から、あの佐々木里恵だよ!?どー考えたって紫の方がいい女なのにね。」

夏美がフォローする。

「・・・まー祥吾が選んだんだしさ・・・。」

紫が言葉少なめに呟くと、

「けどさ、あれなんでしょ。佐々木さんが超アプローチしたらしいよ!他の女子から聞いたけど。」

胸がズキンとした。

そっか押しに負けたんだ・・・アイツ。

「うっそー。タニもそれに押されちゃったんだあ。よっぽど周りにいい女いなかったんだねえ。つか飢えてたんかな?」

「そうなんじゃないの?毎日市役所で働いててさ、おばさんとおじさんばっかだし。確か隣の市でしょ?でも知らなかったなあ。まさかふたり付き合ってるとかさ。」

「ねえ~。」

ふたりの悪評を聞きながら紫はぼんやりしていた。

「つか紫合コンしまくりでしょ、東京なら!」

「選びたい放題じゃあん。」

ふたりは目を輝かせて言う。

「そんなことないよ・・・。」

「まったまたあ~。」

「ねえ最近はどんな男と知り合ったの?」

「・・・そーだね。会社の子に誘われていったやつはテレビ局の人とか・・・。」

「まっじ!?やばあ。」

「テレビ局!!??」

ふたりは興奮する。

「どこの局!?」

「テレ南・・・。」

「すげえ!」

ふたりはオーバーリアクションでなく純粋に驚いていた。

「やべーな東京~!」

「いーなあー、あたしも上京したかったなーガキさえできなきゃ。」

「でも金ねえよ!きゃはは。」

「確かに!」

ふたりが笑う。

「けど成績さえ良ければ奨学金貰えるよ?」

紫がひとつ案を出す。何故なら紫も奨学金を受けた身だからだ。

「したら生活費だけでいいし。」

「まーそもそもそんなアタマねーし、うちら!」

二人は半ば嘲笑気味に言う。

「けどさ社内とかいい奴いないの?」

「いくらでもいるでしょ、天下のキハラだもん。」

二人は軽く言う。

「あーまあね。まあ皆でも仕事に忙しいからさ・・・。」

「そんなことゆってさあ。」

「紫の事好きなやついるかもだよ~?」

・・・彼氏とか好きな人とかそんな代名詞似合わない。


「ただいま~・・・。」

紫はほろ酔いの状態で十二時前インターホンを押す。久々の実家に帰ってきた。

「お姉ちゃんお帰りーっ。」

引き戸がガラッと開き、四歳下の妹の緑(みどり)だ。緑とは何か月かに一回会っているがここ最近お互い忙しくて会えていなかった。派手な髪色と耳には複数のピアスの穴。軟骨につけているものもある。

「どーだった?地元飲み。」

緑の腕の中にうちで長年飼っているミックスの猫の琥太郎がいる。

「かなり久々の参加だったわ。皆、変わってない。」

紫の実家は平凡な一軒家で母の父、つまり紫の祖父世代からずっと住んでいる家だ。何度か改修はしているがそれでも結構あちこちガタが来ている。縁側に引き戸がある昔ながらの一軒家だ。ここに母の両親である七十六歳の祖父の耕三、その二歳下の祖母の小百合、母の茜と妹の緑とで現在四人暮らしだ。

「あら、紫ちゃん。寒かったでしょ、こたつ入んなさい。」

そこで祖母の小百合が優しく迎えてくれた。

「おばあちゃんまだ起きてたの?・・・うん。その前にお参り。」

紫は和室に行き、線香をあげ仏壇の前に手をあてた。

遺影には父がいた。紫が小学一年の時、肺がんで亡くなった。

「ママは?」

「明日早いからってもう寝たよ。おじいちゃんも。」

緑が琥太郎を抱っこしたまま答え、そして、

「お鍋の残りあるよ。食べる?」

「あーじゃあ少しもらおうかな。」

妹の緑は二十一で茨城の美容専門学校を卒業して去年の春から地元の美容室で働いている。

「まっじ足腰いてーよ。ムカつく先輩がいてさあ、まじあたしのがセンスあるっつうの。」

なんて愚痴をこぼしていた。

緑は紫とは真逆のタイプで、成績こそあまり良くなかったが体育や美術などの技術的な科目が得意で、そこそこ先生や目上の人に気に入られるタイプだ。

紫たちはこたつに入り、紫は鍋の残りを少し貰って食べながら話す。

「雄輝くんとはどうなの?」

緑が専門学生時代から付き合っている彼氏について聞く。

「相変わらず何とか続いてる。まー来年あたり籍いれたいけどさ。」

「はやっ。来年ってアンタ次で二十三でしょ?」

「けどさ結構長いもん。だって十八からだよ?そろそろ籍入れたいなーって話にはなってんだけどさ。」

緑は学生時代から美容セミナーでお互い生徒として参加していた男と知り合い、長年付き合っていた。現在はお互いここ茨城で美容師だ。年齢は紫よりひとつ下の二十五歳。センスはいいがチャラチャラもしていない緑の我儘にも付き合ってくれる中々の優男だ。

母の茜は五十一歳。父の正一とはMRとして働いていた父の営業先の調剤薬局に母が薬剤師として勤務しており、それが出会いでそのまま父が二十七、母が二十五の時に結婚した。薬剤師の資格を持っているので、緑が小学二年になった時から正社員で職場復帰している。

母は中々手際よく、他人にも自分にも厳しいタイプだ。

久々の実家はやっぱり落ち着いた。

「お姉ちゃんそんで彼氏まだいないの?」

緑からお決まりの質問だ。

「別にいないってこともないけど・・・。」

「たくお姉ちゃん理想高すぎ!社会人なって浮いた話殆ど聞かないもん。」

「彼氏ならいたことはいたじゃん!」

「けどさ全然続かなかったじゃん?何だっけ銀行マンだっけ?」

「そうそう。大手のね。まあ堅すぎて肩凝ったしね~。」

二年ほど前に浅い関係の彼氏はいた。合コンで出会った三歳上の男だった。

「お姉ちゃんが堅いって思うってどんだけなんだよ。もっとさあ色んなヤツと付き合ってみればいいのにさ。」

「私だって人並みにあるよ。」

「ふうん。けどさ~、お姉ちゃんって何か高嶺の花って感じなんだもん。凡人の男からしたら近寄り難いんじゃないの?合コンでツンツンとかしてないよね?」

「あーそれはしてるかもね。」

「キハラの男はだめなの?エリート揃いじゃん!」

「社内はやだよ。ややこしいじゃん、別れた時とか。」

「あーもう条件厳しい。そんなんじゃ婚期逃すよ。間違いなくあたしよりは後だね!」

「多分ね。アンタこそ雄輝くん大事にしなよ。」

「はいはい~。お姉ちゃんにもいい人現れたらいいけどさ。」

こんなこと言えるはずがない。

何故なら紫は職場不倫しているから。

そんなこと世界で紫とあの男しか知らない。

二十六歳の冬の暮れ。

私って上手く生きてきた方だと思う・・・東京に来るまでは。

紫はしみじみ思う。

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