最強で、完全な、つまらない勇者。

八木山蒼

稚拙な世界

「ばっかみたい!」


 私のその一言で、パーティ会場は凍り付いた。


 集められた王侯貴族たちがざわつき、揃って私へ視線を向ける。信じられない、という驚きに満ちた目が一番多い。次に多いのは怒り、次は呆れ。だが信じられなくて怒っていて呆れているのはこっちだ。


 そしてこのパーティの中心人物である男、トレック・アリー。私のすぐ前にいる、最高級の礼服を着て、一本で数十万ゴルドもするワインの入ったグラスを持った、その男もまた、目を丸くして私を見ていた。


 そう、この男だ。トレック・アリー、こいつが問題なのだ。


 見た目はただの中年だ。体はひょろひょろだし、顔もどうひいき目に見ても中の下。だが誰もその容姿を咎める者はいなかった、なぜならば……


 ここは広大な領地を持つエノビー王国、その中心エノビー城。ちょっとした農村なら10個は入る巨大な王城を貸し切ったパーティの内容は、このトレックが邪悪なドラゴンを討伐したことだった。


 こういったパーティはすでに何十回と催されていた。全てはトレックを礼讃するために。


 トレック・アリーは王国で特別な扱いを受けていた。いやこの王国だけではない、そいつは世界中で持て囃され、褒められ、尊敬されている。


 こいつの肩書はいくつもある。王国特別待遇勇者、次期国王……全属性魔術賢者オールマスタリー、真武闘王、天啓の使者、そして竜殺しの英雄……他たくさん。


 それに見合うだけの活躍をこいつはしてきた。


 大陸を支配しようとした魔王を倒し、古代魔術の全てを解き明かし、大陸中の腕自慢が集まる武闘大会を三連覇し、枯れた村に湧水を呼び、大飢饉の決定的解決策となる農作を編み出し、致死率9割以上の疫病の特効薬を生み出した。


 それだけではなく、彼の周りにいる人間は皆、彼のおかげで救われた経験があるという。魔物から守られたことや、人間関係を改善したこと、あるいはコンプレックスを解消したとか……


 トレックの周囲には常に大勢の美少女がいる。トレックの幼馴染はもちろん、王国の姫、寝返った魔王の娘、竜族の巫女、天使、女神……その全員がトレックを愛しているらしい。理由を尋ねれば、それぞれがそれぞれのエピソードを語り始める。だが内容は一緒だ、『トレックに救われた』『トレックは素晴らしい』。


 美少女だけではない、大勢の人間がトレックを慕い、トレックを褒め、トレックに憧れている。少なくともこの王国の国民は全員トレックと聞けばそれだけで喜び、子供が生まれればこぞってトレックと名付けようとするので、王国内のトレックと言う名前をこの英雄1人にするための法が作られたほどだ。


 だがもちろんトレックを嫌う者もいた。だがそれには理由があり、たとえば王国にかつていた大臣はトレックを疎み排斥しようとしていたが、それは大臣が裏で麻薬の密売を行い巨万の富を得ており、いつかそれをトレックに暴かれやしないかと恐れていたからだった。そして見事にトレックは大臣の悪行を暴き、王国に潜む悪は除かれ、トレックの偉業に新たなページが綴られた。


 トレックは素晴らしい。全てにおいて素晴らしい人間だ。誰もが口を揃えてそう言った。


 だが。


 だが、私には。


「ばっかじゃないの、揃いも揃ってこんな奴を持て囃して!」


 目の前で見て、話して……改めてこいつが、そんな上等な人間じゃないと、そう思ったのだ。


 腕力もない。魔力もない。こんな奴が、ずらずら並べられた偉業なんかをできたはずがない。きっと何か裏があるに違いない、みんなこいつに騙されているんだ。そんな気しかしなかった。


 だがそう思っているのはこの何千人もいるパーティ会場で私1人らしく、会場の空気は凍り付き、皆が皆が私へ視線を送っているのを感じた。いくら賞賛される人間とはいえ、たった一言否定することを言っただけでこの反応……私には異常としか思えなかった。


「ちょっとポーラちゃん! いきなりなんなの?」


 ぷりぷりと声を荒げたのは豪奢なドレスに身を包んだ私と同い年くらいの少女、この国の王女ジーンだ。貴族とはいえ位の上ではずっと格下の私とも仲良く話してくれて、容姿も国一番の美少女という非の打ち所のない子。トレックにベタ惚れし、奴の全てを肯定するような状態だということを除けば。


「だってそうでしょ、あんたら揃いも揃ってこんなロクデナシに鼻の下伸ばしてさ! まるで神様か何かみたいに口を開けばトレックはステキステキって……ちょっとでもこいつを否定すればこの反応。バカに見えたからバカじゃないかって聞いたのよ、悪い?」


 沈黙したパーティ会場の連中に向かって私はまくし立てた。


 正直、私も感情のままに言っただけだった。別に根拠があったわけじゃない、このトレックに私では見抜けないような能力があって、それを使って実際に偉業を成し遂げたのかもしれない。ジーンたち美少女がこぞってトレックに愛情を寄せるのも当然なのかもしれない。


 単純に私はそんなトレックが気に入らなかったのだ。それはただの子供っぽい嫉妬だったのだろう、とにかくなにがなんでも皆が持ち上げているからそれを否定したいという反骨心もあったかもしれない。


 ともあれ、私はまるで完全無欠かのようにトレックを持ち上げる連中に対し、そして未だに間抜けな驚き顔で私を見るデクの坊トレックに対して一矢報いて、満足げに笑っていた。


 だが、周囲のトレックに対する信仰心は、私の想像をはるかに超えていた。


 直後、飛び交ったのは怒号。途轍もないほどの怒号だった。それが始まった途端に思わず体をすくませたほどだ。


 ひとつひとつの言葉は到底聞き取れない、何千人という人間が怨嗟の声を張り上げているのだ、口の動きで「死ね」「バカが」「愚か者」「無知」「クズ」といった罵倒が辛うじてわかる程度。だが確実に伝わるのは私への怒りの感情、いや怒りなどでは生ぬるい、憎悪、あるいは殺意にも等しいほどのどす黒い感情が私へ浴びせかけられた。


 私は直感的に死の恐怖を感じた。パーティ会場にいる数千人、中には国を守る兵隊の高官や招待された上級魔術師もいる、そうでなくとも私よりもずっと体格の大きな大人たちがほとんどの中、全員が私に対し怒号を浴びせかけている。今にも私に襲い掛かって、ねじ潰してしまいそうだった。


 正直、私はこんな反応は予想していなかった。怒られるとは思っていたが、それも軽く鼻で笑ってやるつもりだった。私はただ、何もかも肯定されるトレックという男が気に食わなくて、ちょっとだけからかってやるつもりで言っただけなのに……


 数千人の怒りが同調し、だんだんと怒号の勢いが増してきている。いよいよ本当に殺されるかもしれない。私の目元に涙が浮かび始めた、その時だった。


「やめろ」


 たった一言、静かな声。


 それは本来、この嵐のような怒号の中では欠片も聞こえない程度の声だ。


 だが彼がそれを発した瞬間、彼の周囲の人間がピタリと叫ぶのをやめる。そして声が届かなかった周囲の人間に、「彼がやめろ」と言ったという事実を伝達していった。まるで訓練された兵士が行う伝令のごとく伝達みるみるうちに波及していき……


 あっという間に、あれほどの勢いを持った怒号は止み、城は静寂に包まれた。


 この男、トレックの、ただ一言の呟きで。


「ひっ……ひぃ」


 怒号はやんだが、私は恐怖に囚われたままだった。むしろ恐怖は増していた。この男が、たった一言声を出しただけで、爆発せんばかりの人間たちがピシャリと黙った。それは、この男がその気になればその逆ができるということでもある。この男はやはり異常だ、異常極まりない、それが改めてわかっただけだった。


 だが同時に疑問も感じていた、トレックはなぜ信奉者たちに怒号をやめさせたのだろう、彼もまた私に対し怒りを感じているはずなのに……


 恐怖と疑問の間で私が混乱していると。


「この子とは、僕が直接話す。だから手を出すな、絶対に」


 トレックがまた声を発した。会場がざわつき、そのざわつきに乗ってトレックの言葉がまた伝達されていく。私はただ、その膨大な波の中心で、唖然として固まることしかできなかった。


 どこか悲し気な目をした、トレックを見つめて。






 少しして。


 王城の奥にあるトレックの自室に私は案内された。トレック自身の手に導かれて。

 家具から調度品まであらゆるものが最高品質で整えられ、王城の部屋の中で王の部屋よりも広いスペースがとられたトレックの部屋。トレックは私を中に通し、話しが終わるまで絶対に中に入らず聞き耳を立てたりしないよう外に伝えると、扉を閉めて鍵をかけた。


 トレックが振り返り、私と対峙する。見た目はやはり冴えない青二才、到底優れた人間には見えなかった。


「ポーラちゃん……だったね。さっき言ったこと、本当に本心なのかな」


 恐る恐るといった具合でトレックは訪ねてきた。ああそうだともと答えてやりたかったが、先程の騒乱の記憶も新しい私は恐怖に縛られて、ただ黙るしかできなかった。

 そんな私の様子をトレックも見抜いていたのか、トレックは膝をついて私と視線を合わせると、重ねて問うてきた。


「君の正直な気持ちが知りたいんだ、怒ったりしないし、この部屋の会話は他の誰も聞いてない。僕がそう命じたからね。だからとにかく正直に言って欲しい、さっき僕のことを、バカみたいだって言ったのは……君の、本心なんだね?」


 淡々と、どこか情けない声で尋ねるトレック。その目は淀んでいてまるで覇気がない。そんな男と目を合わせていると、なんだか私もばからしくなってきて、半ばやけくそ気味に答えた。


「ええそうよ、全部本心に決まってるでしょ! あんたなんて大っ嫌いよこのろくでなし!」


 言ってしまった。トレックは前言を翻し怒り狂うかもしれない。私はもうどうにでもなれという気分で目を閉じて、次の展開に身を委ねた。


 すると聞こえてきたのは……トレックの、すすり泣く声だった。


「……やっと。やっと、会えた……いたんだ……よかった……」


 すすり泣きながら、感極まったという感じでトレックが呟いている。えっと驚いて私が目を開くと、トレックはぼろぼろ泣きながら私を見つめていた。


「ようやく会えた、僕のことを嫌う人間に。そして僕に戦いを挑んで、負けに来ない人間に……礼讃者でも、敗北者でもない人に……!」


 私を見つめ、意味不明なことを呟くトレックの目は、ひどく疲れているように見えた。




 私はトレックに彼が持つ秘密について聞かされた。


 トレックがその【能力】を手に入れたのは10年前。当時21歳のトレックは王国のはずれで農業をする貧しい農民だったそうだ。


 【能力】はある日突然トレックに宿り、また能力の効果はまるで最初から知っていたかのようにトレックの知識に収まった。


 その【能力】とは、トレックの周囲にいるものに対し、絶対的に2種類の役割の内片方を担わせる能力。役割とは、『礼讃者』と『敗北者』の2つだ。


 つまりはトレックの周りにいるものは常に、トレックを賞賛し認めて愛するか、トレックに挑み、多義において敗北して、死ぬか、『礼讃者』に転ずるかのどちらかになるということだった。


 まず、トレックの他の農家全ては『敗北者』になった。彼らの農業における生産力がトレックを大幅に下回り、農家たちは敗北感あるいはトレックの能力の高さ理由として語ると『礼讃者』となり、まるでトレックの下僕のように働き始めた。


 トレックが街へ出ると、ひったくりが発生し、偶然にもトレックがそれを捕らえるような展開となった。すなわち、ひったくり犯は『敗北者』となり、彼の周囲にいた住民全てはトレックを英雄として『礼讃』した。


 【能力】は人間以外にも有効だった。トレックと対峙した魔物はいずれも偶発的な要因で死ぬか、トレックが乱雑に行った攻撃がたまたま急所にあたって致命傷となり、『敗北』した。


 気が付けばトレックは数多の魔物を倒し、数えきれないほどの市民を救い、魔王を倒し、そして無数の『礼讃者』に囲まれていた。


 【能力】に例外はなかった。一国の王も、魔王ですら例外なく、役割は振り分けられた。


 そのただ1人の例外が、私だったのだ。




「……僕はずっと探していたんだ、僕の【能力】が効かない人を。僕を礼讃しないし、無意味に敗北したりもしない君を」


 トレックはなぜか悲痛に、絞り出すように【能力】を得てからの半生を語った。

 私は不思議だった。図らずも私の予想通り、トレックは皆が思うような英雄ではなく単に謎の【能力】でなり上がった偽りの英雄だったわけだが、トレックからすれば【能力】で散々うまい汁を吸えたはずなのだから、こんな悲痛な表情を見せるわけないのだから。


「なんで? その【能力】があればあんたは無敵じゃない。私みたいな例外なんて邪魔なだけでしょ?」


 問うと、トレックはぶんぶんと首を横に振った。


「違うんだ、僕も最初はそう思ってた、この【能力】は神からの贈り物だ、これでクソみたいな貧乏生活から抜け出せるって……実際、はじめはよかったんだ。僕が周りから褒められて、たくさんのかわいい子が僕を好きになって、気持ちがよかった。だけどだんだん、怖くなってきたんだよ。この【能力】はただの洗脳だ、あらゆるものを僕が利用するためだけに捻じ曲げてしまう。もしもこの【能力】がある日突然なくなったら? 僕の周りの人間は僕を憎むだろう、不当な礼讃はそのまま恨みに代わって、僕はきっと、この世のものとは思えない憎しみの中で嬲り殺されるんだ」


 震えながら話すトレックは、それに、と続けた。


「この【能力】は歯止めが効かない。僕が望まなくなっても、今や僕の噂だけで【能力】は『礼讃者』と『敗北者』を生み出している。はっきり言って僕はろくな人間じゃない、世界の人間をランク付けしたら、僕は最底辺になると思う。でもこの【能力】がある限り、僕は世界の頂点になってしまうんだ。他はみんな僕の下で僕を褒め称えるか、僕を際立たせるために敗北する……つまり、僕を基準に、世界はみるみる下等な、くだらないものになっていくんだ。いつか世界中が、僕のための空っぽな礼讃を繰り返すものになってしまうだろう」


 だから僕は、怖いんだ。そう言ってトレックは崩れ落ちた。


「僕が死ねばいいのかと思った。僕が死んで【能力】がなくなり世界を利用した大悪党として僕が罵倒されるならそれでいい、だけどもしそうでなかったら? 僕が死んだ後も【能力】が残ったら? 僕が死んだら『礼讃者』たちはきっと大パニックに陥る、数えきれないほどの人間が後を追うかもしれない、特に僕を慕う女の子たちは……」


 私はトレックの周りのハーレムを思い浮かべる。たしかにあの子たちは、万が一トレックが死んだら、泣き叫んで後を追う命を絶つだろう。そしておそらくは、王国中の何万人以上が同様に。さすがにゾッとした。


「よ、要はあんたはその【能力】をもう疎ましく思っているわけね。じゃあそのことを他の連中にも話せば……」


 私がそう提案すると、トレックはすぐに「ダメなんだ」と首を振った。


「この【能力】について話しても皆の評価は変わらない。結局、『礼讃者』にとって僕が素晴らしい人間であるということに変わりはなく、【能力】も僕自身の魅力としか考えないみたいなんだ。それに、色んな魔術師に相談して、この【能力】を消すか制御できるようにできないか相談したけど、無理だった。この【能力】は出自もわからないから止めようもないんだ、魔法でも呪いでもない……僕自身、突然身についただけで……」


 トレックの様子を見るに、どうやら私が今ここで思いつくような対処策はとうの昔に試し切っているのだろう。でなきゃあんな絶望した顔は見せない。

 だがそこで当然、ひとつの疑問に思い当たるわけだ。


「じゃあなんで、私にそれが効いてないの?」


 私はトレックを礼讃するつもりはさらさらない。かといってトレックに戦いを挑んで敗北者になるつもりもない。私は私の意思で行動していると確信を持っていえる。トレックが持つ【能力】が私に利いていないのは間違いないようだ。


 トレックは顔を上げると、少しだけ微笑んだ。


「それもわからない……でも、君がいたってことはきっと、この【能力】にも限界があるってことなんだと思う。君に【能力】が効かない、この事実を突き詰めていけば、きっとこの【能力】を終わらせる方法が見つかるはずなんだ。だから僕はずっと探していたんだ、君のような存在をね」


 その時。


 感極まったのか、トレックは私にぐっと顔を近づけると、私の肩をがっしりと掴んだ。そして言った。


「お願いだポーラ、僕に協力してくれ。僕には、君が必要なんだ」


 君が必要……


 そのフレーズが、私の頭の中でこだました。


 私の中で何かが膨らんでいく。暖かで、柔らかな感情が。


 そうだ。私は貴族だけど、両親に必要とされていなかった。家は兄が継ぐし、優秀な姉もいる。できそこないの私は昔から必要とされない存在だった。どうして今まで忘れてたんだろう、こんな大事なことを。


 だからだろうか、トレックが私を必要だと言ったことが、こんなにも嬉しく思うのは。


 その感情が膨らむにつれて、私を見るトレックの顔がどんどん魅力的に見えてきた。なぜか私を見て、ハッと目を見開き何かに怯えたような顔をしたが、その変化すら素敵に見えた。


 いや違う、見えるんじゃない、トレックは素敵な人だ。


 そうだ。トレックは素敵だ。トレックは素晴らしい。私はトレックが大好き。


 トレックは世界で一番素晴らしい人。大切な存在。この世界はトレックのためにある。私はトレックのためにいる。


 トレックこそが、この世界で一番の存在!










 ……僕の言葉を聞いた途端、それまでとは打って変わって表情をほころばせ、頬を紅潮させた少女を見て、僕はまた、暗い絶望に突き落とされる感覚を感じた。そして自分の不注意を恥じた。


 ようやく見出した希望に舞い上がりすっかり忘れていた。【能力】を受けた少女は、ひどくつまらない理由で、僕を好きになってしまうこと。


 あるいは偶然にも、なんでもない僕の言葉が琴線に触れ、とても感動し満たされた気分になるような理由が……捏造されることを。


「ああ……」


 僕は嘆息を漏らし、ポーラから離れた。ポーラが何か言っている、内容は僕を褒め称える言葉がほとんどだった。今この瞬間からこの少女もまた【能力】により『礼讃者』となってしまったのだろう。


 【能力】の詳細がわからない以上、なぜポーラがそれまで【能力】の網の外にいられたのかは、今となっては永遠に謎だ。わかったのは【能力】の対象外であった相手も、やがては【能力】に支配されてしまうということだけ……


 熱に浮かされたように僕を見つめるポーラを無視して、僕は窓のそばへ行くと外の世界を眺めた。城下町はドラゴンを討伐した僕を讃えてお祭り騒ぎだ、トレック、トレック、と僕を崇める声がここまで届く。そのドラゴンは僕が立っていただけで滑って転び、頭を打って死んだというのに。


 きっとこうして、この世界は常に僕を下回り……どんどんつまらなくなっていくのだろう。


 この【能力】を与えたのが神様だとしたら、それが神の思し召しなのだろうか。


 僕はもう、この世界を蝕んでいく怪物。


 できるのはこの礼讃の熱狂の中、独り嘆くことだけだった。

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