第9話「本日はダンジョン屋開店しました」

 看板も改めて立てた。

 ダンジョン屋までの道もわかりやすく、道中の樹を伐採した。


 午前9時。


「さあ開店だ!」


「ダンジョン屋の名前はなんなのじゃ?」


「は!」


 やべええ、考えてなかった!

 しかも外観に看板もない!

 これでは何屋かわからないじゃないか!


 不足事項が早速出たか…。


「どうせ決まっていないのじゃろ?では、ダンジョン屋『シス』でどうじゃろう?余の名前を使える光栄などなかなかないぞ?」


「最高です、シス様!ただ、名前負けしていますね。このボロ屋では」


「おい、ヘイさんに謝罪しろ。ちゃんと拡張していくから、我慢しろ、ベルゼ。名前はまた折り入って話をしよう」


 む、気配がする。

 4人がここに向かってきているな。


「4人来ますね、シス様」


「俺のセリフ…」


 扉が開いた。


 黒のロングヘアーに革製の装備。

 年齢は16くらいだろうか。

 見目麗しく、心が強そうな人族の女一人。


 耳が長くブロンドロングヘアー。

 爽やかな青の布のローブを纏っている。

 内気な感じのエルフの女一人


 背中にカラスアゲハのような羽。

 黄色の旅人風の服を着たロングボブの妖精族の女一人


 180センチ程の長身で白髪オールバックの初老。

 軽鎧を装着した人族の男一人。


 よ、よし!


 最初の挨拶が肝心だ!

 昨日シスとベルゼにも教えた通り、挨拶をするぞ。


「い、いらっしゃいませー!」


「らっしゃせ~」


「らせ~」


 …………。


 …………………。


「す、すすすいませーん、ちょっとそのままお待ち下さい」


「え、あ、うん…?」


 黒髪の女が訝しげに返事をした。


 俺はどうしようもない魔族をカウンター裏へ連れていく。


「おいおい、なんだあの挨拶は?短縮するんじゃない。しかも『らっしゃせー』『らせー』ってそれは日本人しか知らないダメな接客じゃねえか。なんでそんなこと知ってるんだよ。特にシス、お前が一番ひどい。『らせ~』じゃないぞ。いらっしゃいませ、だ」


「余が下々の存在に挨拶するだけ光栄に思え」


「そうだ令司。あんな下等な生物如きになんで私ら魔族が挨拶しないといけない?」


 この鳥頭二人衆が!


 昨日のリハーサルではちゃんと言ってたじゃねえか!


 あれか?実際に人を目の前にすると腐ったプライドが邪魔をするってやつか?


「いいから、もう一度ちゃんと挨拶をしろ。戻るぞ」


 再び客の前に戻る。

 そして再度の挨拶。


「いらっしゃいませー!」


「いらっしゃ~」


「シャー!」


 …………………。


 うん、だめだコイツらは。


「な、何度もすいませーん、もう少々そのままでお待ちください…」


「な、なんなの…?」


 再びカウンター裏へ。


「アッホッかっお前ら!アホなのか!?えええ!?ベルゼ!あと少しでちゃんと挨拶できたってのに、なんで『ませ』が今度は抜けてるんだよ!?接客業馬鹿にしてんのか、あぁーーん!?」


「私は魔王だ。たかが霊長類になぜ敬語を話さねばならない?虫唾が走る」


「お、お、お、お前えぇぇ!」


「うむ!ベルゼの言う通りじゃ!敬語など話にならん!」


「お前が一番問題なんだよ!このにわか大魔王!なんだよ『シャー!』って!迎えるどころか、威嚇して帰れって言ってるようなもんじゃねえか!!『しゃ』しか合ってねえよ!ふざけんなよ!?接客なめんな!お前ら罰として今日のおやつ無しだ!」


「いやああああ!!いやなのおお!!敬語なんて人間に使いたくないのおお!!」


 寝転がって手足をジタバタさせて絶対拒否の態度を示すシス。


 あ、パンツ……いいなぁ……。


 モロ見えもいいんだが、やっぱり男心をくすぐるのはチラ見えだよな。

 足をジタバタしてるから、パンツが見えたり見えなかったりするこの絶妙なチラ見感!

 チラチラ見えることで交互に湧き上がる興奮と渇望!

 やっぱり俺はチラリズムに一票を入れたい!


 ってそうじゃない!


「ああもう!埒が明かない!わかったよ、このままじゃ業務に入れないから、お前らは挨拶はしなくていいから」


 まあ、敬語なんてこの世界には不要か。

 普通に接した方が胡散臭さもなくてダンジョンにも挑戦しやすいだろ。


 俺達は三度カウンターに戻る。

 そして、気持ちを落ち着ける。


「ふぅ。いらっしゃい。ダンジョン屋へようこそ」


「え、ええ。ここは一体なんなの?娯楽施設アリっていう看板があって来たんだけど」


 黒髪の美少女が当たり前の疑問を口にする。


「ここはダンジョン屋―」

「シス」


「シス、お前は静かにしていろ」


「ここはダンジョン屋といって、人間の力を何倍にも増強させ、加えて不思議な能力を習得できる場所なんだ。例えば火や氷を自在にその手から発現させたりできるんだ」


「まさか、そんな非常識的なこと人間ができるわけないでしょ?」


「な、なんだか…とてもいんちき臭いです…」


「すごおおい!え!?なにそれ!?超かっこいい!?やってみたい!」


「ふむ……」


 一名を残して懐疑的だな。

 そりゃそうだ。


「シス。ちょっと手本を見せてやってくれ」


 シスの手のひらの上で火の玉が浮いてメラメラと燃えている。


「うそ……!え、なんで?どうして?」


「こ、怖いです…ここは怖いところです…!」


「うわああああ!!どうやってやってるの!?私もやってみたい!」


「な、なんと……これはすごい……」


「わかってくれたかな?こういった事ができるようになるには、ダンジョンという建造物に入る必要があるんだ。そこでモンスターと呼ばれる怪物を倒していくことで様々な能力が身についていく」


「ねえ入ってみようよ!ダンジョンってところに!ツバキ、いいでしょ!?」


 妖精族の少女が黒髪の女に勧める。


「怪物を倒すってことがすごく気になるのよね。危険な匂いがするわ」


「えーー!でもあの能力があったら、帝国の人間にも物怖じせずに戦えるよ!?」


「わ、私は…その…怖いです……」


「個人的には興味深いですが、ここはリーダーのツバキの判断に一任しましょう」


「うーん……ねえ店長さん、怪物ってことは、危険ってことでしょ?」


「人知を超えた力を得る以上は危険も当然あって然り。しかし心配は無用。ここに一瞬で戻ってこれる帰還道具を渡すから、安全は折り紙つき。もし怪物にやられても、3日後に復活するから安心してほしい」


「し、信じられない……そんな非現実的なことって……」


「あたしは一人でも行くよ!心配いらないっていうなら行ってみるべきだし!」


「ちょ、ちょっとタンポポ……わかったわよ、行くわ。それでどうしたらいいの?店長さん」


「ではカウンターまで来てくれ。手続きをしよう」


 4人にダンジョン探索者としての手続きをする。


 用意した探索者カードに各自手を触れてもらう。

 するとレベルやステータスが刻印される。


 次に職業、いわゆるクラスを選択してもらう。

 初級クラスは5種類。


 【ファイター(戦士)】あらゆる物理武器のスペシャリスト。スキルは武器による技。


 【ウィザード(魔攻士)】攻撃魔法のスペシャリスト。スキルは攻撃魔法全般。


 【エンチャンンター(魔防士)】防御魔法のスペシャリスト。スキルは防御魔法全般。


 【ヒーラー(治癒士)】回復魔法のスペシャリスト。スキルは回復魔法全般。


 【ワークマン(技巧士)】ダンジョン探索のスペシャリスト。スキルは罠探知や敵感知等。


「私はファイターね。剣術に更に磨きをかけてコチョウの戦士として貢献するわ」


「あたしはウィザード!!攻撃魔法っていうのにすっごい興味あるんだ!」


「わ、私は……ヒーラーにします…やっぱり戦いは苦手ですから…」


「ふむ……本来なら私は戦士ですが…ワークマンという存在はどこか気になりますな。罠はダンジョンを進む際の大きな障害になると考えます。ワークマンにしましょう」


 探索カードに記載されたクラス名を指で触ると、クラス登録される。


「これでダンジョン探索者としての登録は終了だ。次はダンジョンに入った時の説明をする」


 ダンジョンに入ると、ステータス、スキルウィンドウ、ヘルプを表示できる。

 表示するにはオープンと言えばいい。

 オープンと言ったら、目の前にステータス、スキル、アイテムという文字が表示され、各文字を指で押すと、そこから詳細画面に切り替わる。


 最初はレベル1。

 モンスターを倒すことで経験値を取得でき、一定数稼ぐとレベルが上がる。

 1レベル上がることで、ステータスポイントを5、スキルポイントを3獲得する。

 そのポイントでステータスを上げ、希望のスキルを取得する。


 モンスターからはアイテムと魔石が手に入る。

 アイテムは確率ドロップだが、魔石は確定ドロップだ。

 手に入れたアイテムや魔石はアイテムボックスに収納される。

 アイテムボックスはレベルが上がることで収納数の上限が上がる。


「と、まあこんな感じだ。わからなければヘルプをみればいい。ダンジョンから出たい場合は『ダンジョンバック』と言えば、アイテムボックスに入っている帰還アイテムが発動し出ることができる。さっきも言ったが、モンスターにやられた場合は3日後に生き返る。ただし例外がある。一緒にダンジョンに入った仲間、つまりパーティー内の誰かが死んだ状態で帰還すると、死んだ仲間は3時間後に生き返る」


「なるほどね。全滅しなければいいってことか」


「そう。最初は無理をしないことを勧めるよ。さて挑戦にあたって、探索料が必要なんだが―」


 し、しまったああ!

 この世界の貨幣について何も知らん!

 反省点がまた一つ。


「…ええと、今君達はいくら払えるかな?」


「そうね一人1銀貨でどう?」


「そ、それでいい。じゃあ何やらたくさん持ち物があるようだから預かるが、どうする?」


「し、知らない人に預けるのは…ちょっとヤです…」


「そうね。いいえ必要ないわ」


 まあ、普通そうだよな。

 死んでも持ち物も一緒に復活するし問題はないが。


 そして、4人をゲートに向かわせた。


「では頑張ってくれ」


 ふぅ…なんとかいい感じに対応できたんじゃないか?


「最初と比較してスムーズに行ったではないか。ようやくルーラーとして少しはまともになったかの。ではあの4人がどのようにダンジョンで死ぬか見届けてやろうではないか」


「違う。金銀財宝や金になる素材を持ち帰ることを見届けるんだ」


「お前のその考えもどうかと思うぞ…?」


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