魔女は五度笑う

HaやCa

魔女は五度笑う

今日もまた、放課後の図書室にやってきている。課題に塾、やることは山ほどあるけど、今はそんな気分じゃない。

私が探していたライトノベルは、昨日とは少し遠い場所に置かれていた。西に傾いた陽の光を受けて、ほんのり輝いている。

手に取って感じるのは何のへんてつもない文庫本の重み。最近入荷されたばかりだからか、あまり触られていないようだった。誰に言われるでもなく、埃が舞い上がる。ふいに恍惚とした情景を頭に思い描いた。やっぱりこのライトノベルには力がある。私はうんと頷く。

 首を振ってあらためて周りを見渡す。図書委員の人が奥に座っていているだけで、他に人はいない。

今日もゆっくりと本を読めそうだった。なんとなく、昨日と同じ席に座りたい気分だった。

 

「魔女は五度笑う」

 この小説のあらすじは……、というもので、よくあるライトノベルとは一線を画している。私がこのタイトルを最初に目にしたとき、なんだか純文学っぽいなあと思ったけどどうやら違うらしい。

そのへんの境はよくわからないけど、作者が「これはラノベだ!」と言い切ったらそうなるんじゃないかなとぼんやりと考えた。

他にもいくつか興味を惹かれた点があって、とりわけ私が気になったのはヒロインの魔女だった。

彼女は笑うとき、五度笑うのだ。小説の中のエピソードからその具体例を引っ張りだしてみようと思う。ぱらぱらとめくるページからは真新しい匂いがする。

例えば、友達がどじをしたとき彼女はけらけらと腹を抱えて五度笑い、彼女の弟がテストで赤点を取ったときも必ず五度あざ笑う。

彼女の笑いかたは普通の人とあまり変わらないけど、どこか愛嬌があってとても印象に残っている。たぶん、私と似ているんだと思う。えくぼのくぼみとか。

 魔女が笑っていると、みんなは変なものを見るような目つきをする。確かに五度も笑う人なんていないし奇妙に感じるかもしれない。けれど、彼女が五度笑うのは彼女らしさだし、みんなが持っているものじゃないからそれはそれでいいと思う。

 

 私には魔女みたいになりたいと思うときがある。魔女みたいに自分らしさをもっていて、誰にどんな目で見られようとも気にもしない。そんな強さがほしい。

 今、私は高校受験を直前にしていて、ときどき周りの人に流されそうになったりする。自分の立ち位置がどこだかわからなくなって、歩んでいく道を見失ってしまいそうになる。

 似たような状況でも、小説の中の彼女はカッコとした自分を持っていた。何が正しいとか間違っているとか言う理屈じゃなくて、これなら私はちゃんと生きていける、そう思える力を魔女は持っていた。それが、魔女が五度笑う理由だと思う。

 

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