汪溢する言葉
斉賀 朗数
たまとせい
はあと零細な嬌声を漏らした女、
男は云った。
「けうで終わりとしやう」
「何故でせう」
蛍火にも似た光が格子よりそうよそよと畳に舞う様相は、心許ない女の魂に近しい。女の死期は近い。それを介在して
男は云った。
「けうで終わりとしやう」
「何故でせう」
幾度となく反復された言の
男はひたと、女の前より姿を消す。
「あの方を……」
声は空を裂き格子よりはじけ外界を揺蕩うなど烏滸がましく、ただ静を
あと一晩も保つまいとする頃合いに、ごっごっと格子を打つ音が、静謐な匣の中でいささか無礼に木霊する。
「終わりにしとおない」
何時振りかの男の言霊は咆哮へと変容し匣を打ち鳴らすも、いまや女の生は滅する目前の儚き事この上なく意志の疎通すらも叶わぬ始末。
女は思考す。
――よもや言霊を信じやうとも時遅し。あなたの心の陰影に剣呑を残す他ありませぬとわたしは智見しております。故にお帰りください。お帰りください。決して
言の葉と成らずとも言の
「終わりにしとおない」
言の魂は男の心の宿り木と化して。
「終わりにしとおない」
粛々とセイを終える女が残した愛。
「終わりにしとおない」
女の
格子の外の咆哮が、絶え間なく夜霧を攪乱さす世界を錯乱させゆく。いまだ情欲の追求止めぬ男の相貌は獣。
神もまた照覧せよと詭弁弄し格子を打ち破ると匣は形容を失い、男は亡き女の
男もまた匣の喪失を観取するが、それがなにになろう。
宿り木やタマに根付いてセイ結ぶ。
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