手順30 参加表明をしましょう

「じゃあ、方向性がまとまったところで、具体的にどう飯田橋先生を地獄に突き落とそうか。誰か意見はある?」

「はーい☆」

 清水先輩が場をまとめたところで、寺園先輩が元気に右手を上げる。


「じゃあ寺園さん」

「監視カメラなんかの証拠集めは引き続きやってもらうとして、それとは別に飯田橋先生へのアプローチをかけるのはどうでしょう☆」

「アプローチ?」

 寺園先輩の言葉に清水先輩は首を傾げる。


「はい♪ カメラの映像は動かぬ証拠なのでメインはそっちですけど、サブ的に私が飯田橋先生に個人的に近づいて情報なり新たな罪の証拠なりを取ってきます☆ 上手くいけば罪状を上乗せできますよ♡」

 ……また寺園先輩がキャピキャピしながらとんでもない事を言い出した。


「具体的に、何をするつもりなんだい?」

「飯田橋先生の前で最近つづらちゃんに届く写真の事を褒めちぎったりして揺さぶりをかけたり、つづらちゃんの事を心配した体で相談したり、わざと付け入る隙を与えたりします☆ もちろん全部ICレコーダーで記録します♪」

 楽しそうに声を弾ませながら寺園先輩は答える。


「いわゆる、ハニートラップってやつですね」

 だとして、もしこの作戦に引っかかるような人間なら普通に自業自得としか思えないけれど。

 ……いや、引っかかりそうだな、男だとわかってるボクの脚にすら反応してたし。


「つづらちゃんへの盗撮とかへの有力な手がかりだとか、恋愛相談に乗るフリしてつづらちゃんへの下心を自白させたり、場合によっては私へのセクハラの罪も上乗せできるよ☆」

「いや、それはダメだ」

 寺園先輩の言葉を遮るように、岡崎先輩が言う。


「響くん、もしかして心配してくれてる? 大丈夫、いざとなったら飯田橋先生一人くらいなら制圧できるよ☆」

 一瞬きょとんとした寺園先輩は、ちょっと嬉しそうに岡崎先輩に言う。


「そうじゃなくて、杏奈の強さは校内どころかネットニュースで全国に知れ渡ってるんだから、そんな相手にほいほい手を出せる訳ないだろ……!」

 しかし、岡崎先輩の言葉は寺園先輩の期待したものとは違っていた。

 でも、きっとそれはこの場にいる全員が密かに思っていた事だ。


「というか、女子高生、露出狂を返り討ち、って全国ネットのテレビニュースでも放送されましたし、今度警察から感謝状が送られるんですよね?」

 ボクは一つずつ事実を確認していく。

 つい最近、校長先生が朝礼で嬉しそうに語っていたのも記憶に新しい。


「でも見て見て☆ こんな小柄で可愛い、か弱い感じの女の子を前にしてそんな事思う? たぶんたまたまのまぐれだと思うよ♡」

 しかし、寺園先輩は納得いかないのか、その場に立ち上がるとくるくるとあざと可愛いポーズをとってみせた。


 可愛い。

 確かに可愛い。

 でも、寺園先輩のあの勇姿を生で見たボクは、寺園先輩がか弱いとはとても思えない。


「杏奈ちゃんの実家がオリンピック選手も輩出するような大きな道場だっていうのも、うちの学校で知らない人はいないと思うよ~」


「しかも、強豪である我が校の柔道部には岡崎くんを初めとした門下生も多く、寺園さんに手を出した場合、すぐに実家に情報が伝わって本人に返り討ちにされるだけじゃ絶対終わらなさそうですよねえ……」


 追い討ちをかけるように入谷先輩と井田先輩が言う。

 というか、寺園先輩の実家怖い。


「確かお父さんも元日本代表の柔道選手なんだよね? 親が怒鳴り込みに来ただけでも圧が凄そう……」

「実際、去年の授業参観の時とか、凄かったよな……ただ後ろで授業を見てるだけなのに存在感が半端なかったし……うちの学校、基本クラスは持ち上がりだし去年も担任は飯田橋先生だったな……」

「相手が絶対に手を出してこないとわかっている状態でも、真の達人はただ相対するだけで相手の心を折るからな……」


 長谷川先輩、大林先輩の言葉に、岡崎先輩が答える。

 武道家怖い……。

 まあ、なんにせよ寺園先輩に手を出す事の危険さは飯田橋先生も知っているようなので、寺園先輩のハニートラップ作戦は難しそうだ。


「えー……いい作戦だと思ったんだけどなあ……」

 しょんぼりした様子で寺園先輩がまたその場に腰をおろす。

 こういう姿だけを見たら、確かにか弱そうな見た目ではあるんだけど……。


「じゃあ、ボクがその作戦やります」

 その場が落ち着いたのを見計らって、ボクは手を上げる。


 たぶん、飯田橋先生相手ならボクでもなんとか出来る気がするし、なんだかんだ言って男なので普通の女の子よりは万一の場合のリスクも少ないと思う。

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