手順28 お呼ばれしましょう
土曜日、ボクは清水先輩の家を訪ねる事になった。
ボクと寺園先輩以外は全員清水先輩の家に一度は行った事があるようだったので、ボクと寺園先輩は岡崎先輩に案内してもらう事になった。
当日、清水先輩の家の最寄り駅で二時に待ち合わせる。
そして、ライングループで待ち合わせの日時が決まった直後、寺園先輩からボク宛に単独のメッセージが届いた。
寺園先輩:私と響くんは明日早めに待ち合わせ場所に行くから、尚くんは少し遅れてきてもいいよ♡
さすがは寺園先輩、こんな時にも余念がない。
やっぱりつづらを落とすにはこれ位の計算高さがないとダメなんだなあ、とボクは一人感心した。
「ごめんなさい! 途中で乗り換えを失敗してしまって……」
「いいよいいよ☆ 早めに連絡くれたし間違えは誰にでもあるもんね♪」
「清水先輩にも少し到着が遅れると連絡しておいたから大丈夫だ」
翌日、約束の時間から十分遅れて待ち合わせ場所に行けば、寺園先輩と岡崎先輩が遅れた事を特に気にした様子もなく迎えてくれた。
寺園先輩はむしろ上機嫌だった。
今日の寺園先輩の服装は、普段のハーフツインテールに白いレースのリボンを結び、腰の辺りで切り返しのある水色のワンピースに控えめなボリュームのパニエを重ねているようだ。
斜めがけのポシェットが程よく胸の膨らみを演出していて、今日も絶妙なあざとさだ。
今日のボクの格好はといえば、寺園先輩のあざとい系ファッションに少し影響されている。
白地の少し透け感のあるブラウスに少し淡いピンクの大きめのリボンをつけ、紺色のハイウェストミニスカートにリボンと同じ色のオーバーニーソックスとストラップシューズだ。
ポイントはふんわりしたシルエットのブラウスとリボンで肩幅や胸の平らさをカバーしつつハイウェストミニスカートで腰の位置を高く見せつつ脚を出す事で視線をそっちに誘導している所だ。
ふわっとした形のミニスカートにしたのは、尻周りのボリュームをごまかすためというのもあるけれど、それ以上に最近はこの格好が以外に便利だという事に気づいたというのもある。
スカートを履けば全体のシルエットが一気に女っぽくなるし、なんだったらズボンよりもトイレに行く時楽だし、なによりこの開放感に慣れてしまうと、ズボンが窮屈に感じてしまう。
あと、男友達をからかいやすい。
男とわかっていてもミニスカートで脚を組んだりすると目がそっちにいってしまうようで、それがまた面白い。
せっかくなので、今日はこれにひっかかる先輩が何人いるかを試してみたいところだ。
「尚ちゃん、今日の服可愛いね☆ 特に大き目のリボンがいい感じ♪」
「ありがとうございます。寺園先輩の格好がいつも可愛いので、ちょっと影響されちゃいました」
「も~尚くんったら♡」
素直にボクが答えれば、寺園先輩が少し照れたように笑う。
あざとい系ファッション上級者である寺園先輩のお墨付きももらえたので、今度つづらと二人で出かける時はこの服を着て行こうかな。
「それにしても、先輩達ってお互いの家に遊びに行くくらい仲がよかったんですね」
岡崎先輩の案内で駅から清水先輩の家に向かう途中、ボクはふと尋ねる。
てっきり全員つづらを狙うライバル同士でつづらがいなければ集まる事もないような感じかと思っていた。
「ああ、まあ、過去に色々あってな……」
ボクの言葉に、岡崎先輩は妙に含みのある言い方をする。
色々とは。
その後は特に他愛のない世間話をしながらボク達は岡崎先輩の後について行った。
駅からしばらく歩けば、左側にしばらく高い生垣に覆われた景色が続く。
……いやいや、そんなまさか、アニメとかドラマじゃないんだから、生垣の向こうが全部清水先輩の家とかじゃないよね。
なんてボクが思っていると、岡崎先輩はその左側にしばらく続いた景色の先にある木造の門の前で立ち止まった。
「ここだ」
門の横に取り付けられた表札を見れば、清水と書いてある。
……やっぱりここだった。
岡崎先輩が表札のしたのインターフォンを押せば、若い女の人の声が聞えて、ロックが外れる音がした。
一見、古き良き日本建築のように見えてその実、現代的なセキュリティーが取り入れられているようである。
門をくぐって、奥の屋敷へと続く石畳の道を歩く途中で辺りを見回せば、手入れの行き届いた木々があり、清水先輩の家の経済力がうかがえた。
玄関に着けば、使用人らしいエプロン姿の恰幅のいい中年おばさんがニコニコしながらボク達を出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました。
おばさんに案内された部屋に向かう途中、家の中を観察する。
全体的に掃除とかの手入れが行き届いていて、たまに見かける調度品や欄間の飾り彫りなんかどれもお金がかかっていそうだ。
その気は無いけどうっかり壊したら弁償にいくらかかるんだろうと思ってしまう。
「やあ、いらっしゃい。待ってたよ」
部屋に通されれば、清水先輩がにこやかにボク達に話しかけてくる。
教室くらいの大きさの和室の真ん中に和机が二つ縦に並べられ、五人の先輩達が既に座っている。
「お、お待たせしてしまってすいません……」
「固くならなくていいよ。それで例の物は持ってきてくれたかな?」
「ああ、アルバムなら二冊とも借りられましたよ」
ショルダーバッグからアルバムを取り出して清水先輩に見せながら答えれば、その場で小さく歓声が上がる。
「それにしても、よく借りられたな……というか、よくつづらもそんな写真とってたな?」
「見ての通りフォトジェニックな写真ばかりなので、姉的には毎回新作が届くのを楽しみにしてるみたいです」
不思議そうに首を傾げる大林先輩に、一冊目のアルバムを渡しながら僕は答える。
「確かにこれは意外と……」
「なるほど、つづらさんらしいですね」
アルバムを見ながら、大林先輩と隣に座っていた伊田先輩が口々に言う。
……まあ、目が合ってる写真は一つもないけど、モデルが良いせいもあってか、出来自体は悪くないと思う。
「それにしても、なんて言って借りてきたんだい?」
「……インスタグラムの、参考にしたいからと」
「へ~、ナオミちゃんインスタやってるの?」
ボクが渡した二冊目のアルバムを長谷川先輩と見ながら入谷先輩はボクに尋ねてくる。
「ただの口実ですよ。アカウントも持ってません」
「せっかくだから本当にアカウントを作って、うちの庭の桜の写真でも撮って行きなよ。ちょうど見頃だし、なんだったら今度つづらちゃんと花見に来てくれてもいいよ」
ため息交じりにボクが答えながら空いていた大林先輩の隣に座れば、ニコニコと笑顔を浮かべながら清水先輩が言う。
抜け目ないなあ、なんてボクは思いつつ、座布団に座るのならあんまり足の露出とかは関係ないかもな、なんてちょっとがっかりする。
「あはは、ありがとうございます……」
清水先輩の申し出を適当に受け流しつつ、ボクは話を本題へと移す。
ちょっとしてみたけど、やっぱり正座は慣れないな、と脚を崩せばふと目の端にチラチラ下を見ている大林先輩が見える。
ふと視線を向ければ、崩したボクの脚を見ていた大林先輩と目が合って、気まずそうに逸らされた。
ついボクがクスリと笑ってしまうと、それに気づいた大林先輩の顔が赤くなる。
髪と顔の色がお揃いになったなあ、なんて、ボクはちょっと思う。
男の格好だと絶対に見られないような反応が見られるのも、最近見つけた女装の楽しみの一つだ。
「尚ちゃん……?」
「あ、すみません……それで、監視カメラの映像とやらなんですけど、ボクも見せてもらっていいですか?」
不思議そうに清水先輩に声をかけられて、ボクは我に帰る。
「もちろん。ただし、わかってるとは思うけど、今から見る映像はつづらちゃんには他言無用だよ」
「わかりました」
清水先輩はそう言うと、机の上のリモコンを操作して、部屋の奥にある何かの機器に繋がれたテレビをつける。
そして、映しだされた映像に、ボクはゾッとした。
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