手順26 連携をとりましょう

 金曜日の朝、つづらの机にゴミがぶちまけらるという事件があった。

 木曜日は何もなかったようだけど、どんどん回を増すごとに犯人がつづらへの悪意をむき出しにしてきている。


 寺園先輩:今日はつづらちゃんの机の上にゴミが盛られてて、私と響くんとつづらちゃん、大林くんの四人で片付けたんだよ(○`ε´○)プンプン!! 


 朝、HR前の自分の教室で、寺園先輩からのメッセージをチェックすれば、そのあとすぐに山盛りのゴミ箱の中身を机の上にぶちまけたような写真が添付されてきた。


「犯人は早く見つかって社会的に死ねばいいのに……」

 犯人に対しては怒りしか感じないけど、こんな時、寺園先輩やつづらの男友達が側にいてくれて良かったと思う。

 ボクは学年が違うのでどうやってもいつも一緒にいる事はできないから。




「つづらー、大丈夫?」

 それでもやっぱりつづらの事が心配なので、昼休みボクはつづらの教室を訪ねた。


「あ、尚ちゃんいらっしゃい」

 つづらはにこやかにボクを迎えてくれた。

 そして、つづら達が集まって食事をしているグループは、妙ににぎやかだった。


「あっ、やっぱりつづらちゃんが心配で来たんだね☆」

 寺園先輩がニコニコ笑いながら自分の横に椅子を用意してボクを手招きした。

 ……つづらの隣じゃないけど、まあいいか。


「そんなに心配しなくても大丈夫だよ~、でも、尚ちゃんが遊びに来てくれるのは嬉しいな」

 なんて、つづらは寺園先輩と岡崎先輩に挟まれながらニコニコと言う。


「あ、食事終わったらトランプしようよ☆ これだけ人数が多かったらババ抜きでもいい感じに難易度上がるよ♪」

 寺園先輩がお弁当を食べる手を一旦止めて、トランプを取り出す。

「そうだな、ババ抜きなんて久しぶりだ!」

 岡崎先輩が寺園先輩の言葉に同調するけど、妙にわざとらしい。


「あ、じゃあせっかくだからジジ抜きにして最後までババがわからなくしたらいい感じに疑心暗鬼になりそうだね~」

「いいね、それやろう!」

「とても楽しそうです」

 つづらがふと思いついたように言えば、周りの先輩達がものすごい勢いで同調する。


「尚ちゃんもやってくでしょ?」

「う、うん……」

 特に断る理由もないので、ボクはつづらの言葉に頷く。


その後ボク達は九人でなかなか手札の揃わないジジ抜きを不自然とも思える程の盛り上がりの中でする事になった。


「後でライングループに招待するから、そこで話をちょっと聞いてくれると嬉しいな♪ つづらちゃんには内緒で☆」

 場が盛り上がってつづらが岡崎先輩とどの札を取るかとワイワイ話し出したタイミングで寺園先輩がボクにこそっと耳うちしてきた。

 ……やっぱり何か裏があるらしい。


 その後は特に事件もなく、放課後ボクは昨日や一昨日のように図書室で待ち合わせしてつづら、寺園先輩、岡崎先輩、入谷先輩と一緒に下校した。

 下校中も、先輩達のテンションが妙に高く感じただけで。


「きっと皆、私が落ち込まないようにああやって無理に明るく振る舞ってくれてるんだよね……」

 先輩達と家の前で別れて家に入った後、ポツリとつづらが呟いた。


「そうだね」

「私、いい友達持ったなあ……尚ちゃんもありがとね」

 ボクが頷けば、つづらは少し嬉しそうに笑った後、ボクにもお礼を言ってきた。


 ……おかしい。


 普段なら、

「今日は杏奈ちゃんと一緒に帰れちゃった! 嫌がらせしてきた人は誰だかわかんないけど、足を向けて寝られないな~」

 くらい言いそうなのに。


 今日、机の上にゴミをぶちまけられたのがよっぽどショックだったのかと一瞬ボクは思ったけど、つづらは上機嫌に鼻歌なんて歌いながら家に入って行ったので、その線はなさそうだ。


 つまり、単純に寺園先輩以外の友達……というか、取り巻きの人達への好感度がつづらの中で上がっているのだろう。

 これは由々しき事態だ。


 取り巻きの先輩達は、当たり前のように隙あらばつづらに取り入ろうとあの手この手で迫ってくる。

 一方でつづらは寺園先輩以外の女子からは避けられているようだし、もし今後寺園先輩の恋路が上手く行ったら、そして、このままつづらの中で彼らに対する評価がどんどん上がっていけば……。


 そのうち自棄を起こして取り巻きのイケメンのうち誰かと付き合ってしまうかもしれない……!


 しかも、全員顔は良くてつづらの事がかなり好きで、恐らくうちの家よりも裕福だから、そんな優良物件といざ付き合いだしたら、つづらに別れる理由がない。

 もし万が一別れたとして、他にも似たような優良物件に囲まれているつづらがわざわざ弟のボクと付き合う理由なんて……。


 とにかく、つづらの中で彼らが恋愛対象に入る前になんとかしなくては。

 なんて事を考えていると、スマホのバイブが鳴った。

 寺園先輩からライングループの招待が来ていた。


「昼休みに話してたのってこれかな」

 自分の部屋に行ってからライングループに入室する。

 人数がボクを入れて八人になっていて、すぐに寺園先輩と取り巻きの先輩達なんだろうなとわかる。


 尚:こんにちは、何か姉の事で話があるって事でいいんですよね?

 寺園先輩:簡単に説明すると今までつづらちゃんに嫌がらせしてきた犯人が特定できたから、これからどうしようか話してたところなんだ(*゚▽゚*)


 ……ボクの知らないところで、既に先輩達は犯人を追い詰めていたようだ。

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