手順20 原因を突き止めましょう

「なんでそれぞれ好きな人がいるのにボクと寺園先輩が付き合うんですか……」

「まず、私と尚ちゃんが付き合うと、どうなると思う?」

 ボクが尋ねると寺園先輩は逆にボクへ質問してくる。


「……姉が、落ち込みます」

「そうかな?」

「え?」

 寺園先輩の言葉に更にボクは首を傾げる。


「私が思うに、つづらちゃんはああ見えて妙にハートが強いよ♪ むしろ姉、友達という立場を利用して積極的に輪に加わろうとするんじゃないかな☆ つづらちゃんが気のある女子って私だけじゃないし、多分本命は別の子に移るだけだと思う♡」


「待ってください、他にもつづらが気にしてる女子いるんですか」

 またとんでもない情報が出てきた。


「私が一番なのは単に好みの女子の中で一番身近で手に入りそうな存在だからじゃないかな☆ 基本つづらちゃんは好みの子は全クラス全学年チェックしてるし♡」

「その話初耳なんですけど、どこ情報ですか」


「つづらちゃん本人が学園中の可愛い子は学年クラス名前、部活まで把握してるって言ってたよ♪」

「確かに、姉ならやりそうではありますね……」

「男友達の名前とかはあやふやなのにね☆」


 そういえば、つづらが桂秋学院に進学した理由は”自分好みの美少女が多いから”だった。

 つまり、寺園先輩以外にもつづら好みの美少女はたくさんいて、つづらは彼女達を把握している事になる。

 ……いや、だとしてもボクに寺園先輩をとられたらつづらも普通に落ち込むと思うけど。


「それでね、つづらちゃんと私と尚ちゃんで響くんの前で連日これ見よがしにイチャイチャした後、響くんに相談するの☆ 尚くんの事が好きなはずなのに最近つづらちゃんがすごい気になる……って」

「確かにそれで姉と仲良さげにしてたら色々と岡崎先輩の心にひっかき傷を残せそうですけど……」

 余計に岡崎先輩の寺園先輩に対する敗北感を煽るだけで、恋愛感情には結びつかないような気がする。


「そしてこのままだとホントに女の子に目覚めちゃいそうだからってリハビリを響くんに手伝ってもらうよ☆ ほっといたら私がつづらちゃんとくっついちゃうし仕方ないよね♪」


 ……色々つっこみたいところはある。

 でも、まず一番に言いたい事は一つだ。

「あの、ボクも男なんですけどそれは……」


「むしろ尚ちゃん辺りからだんだん女の子に目覚めていくんだよ☆」

「というか、寺園先輩かなり自棄になってますね?」

「そりゃなるよー! だってもう思いつく事は一通りやったのに思ったような変化無いんだもん!」


 そう言って寺園先輩は床に倒れてじたばたする。

 ……寺園先輩はたまに本気なのか冗談で言ってるのかわかりにくい。


「ボクが思うに、一番にすべきは岡崎先輩の寺園先輩への認識を改めさせる事だと思うんです。たぶん岡崎先輩は寺園先輩の事が心のどこかで怖いと思ってるんですよ」

「……怖い?」

 不思議そうに寺園先輩はボクを見る。


「本人も言ってましたけど、岡崎先輩にとっては寺園先輩は兄弟的な感じなんでしょう。それも兄って言われてる辺り、未だに寺園先輩を自分より強いと認識してる所ありますよね」

「だから私は、響くんが守りたくなるような可愛くてか弱い女の子を目指してきたのに……」


 確かに寺園先輩は今のような見た目や振る舞いを手に入れるために、きっとものすごい努力をしてきたんだと思う。

 それは、ボクも同じ動機で似たような事をしてきたからよくわかるし、そのひたむきな姿勢には尊敬の念を覚える。

 だけど……。


「多分、それでも岡崎先輩に刻み込まれた敗北の記憶は拭えないんでしょうね」

 それが実際に実を結んでいるかと聞かれると、現状ではそうとも言えない。


「一度岡崎先輩と試合でもしてこっぴどく負けてみるとかどうでしょう?」

「きっとブランクがあるからって事にされるし、そんな事したらここぞとばかりに周りが私にまた柔道やらせようとしてくるから絶対嫌」

「確かに……」

 心底嫌そうに言う寺園先輩からはよっぽどやりたくないんだろう事がうかがえる。


「大体、お父さんもおじいちゃんも私に女であればこそ強くあれとか言う癖に、おばあちゃんもお母さんも全く武道経験ないし、お母さんもおばあちゃんもか弱いから自分達が守るんだってデレデレしてるのが許せない」

「あー……いわゆるダブルスタンダードってやつですね」

 むしろ、だからこそ一人娘には護身術を習わせたかったのだろうけど。


 そして、さっきから寺園先輩の話し方からいつものキャピキャピした感じが抜けている辺り、こっちが素なんだろうな、と思う。


「でも、柔道は置いといて、岡崎先輩の寺園先輩に対する敗北感を拭うような何かがあれば、岡崎先輩も自信を取り戻して寺園先輩をそういう対象に見るだけの余裕が生まれると思うんです」

「尚くんって、なんだかんだ言って結構辛らつだよね☆」


 クスクスと面白そうに寺園先輩は言う。

「とにかく強硬策に出る前に、こっちの方向で作戦を考えましょう」

「あはは、そうだね♪」

 そうしてボク達はしばらく今後の寺園先輩の方針をああでもないこうでもないと話し合った。




「なんだか今日は私の話だけで終っちゃったね☆ 今度は私も尚くんの相談に乗るからいつでも声かけてよ」

「ボクも寺園先輩や岡崎先輩の事が少しわかった気がします」

 日が暮れ初めた頃、そろそろ帰ろうとボクは寺園先輩の家からおいとまする事にした。


「駅への戻り方わかる? 送っていこうか?」

「そんなに難しい道じゃなかったから大丈夫です」

 寺園先輩の申し出を断り、ボクは家路につく。


 結局、話し合いの結果としては、寺園先輩のピンチを岡崎先輩が救うようなイベントがあればいいんじゃないかという事でまとまった。

 まだどんな形にするかは決まってないけど、昨日ボクがナンパされてたのを岡崎先輩が助けてくれたみたいな事が二人の間であれば……。


 ボクが一人そんな事を考えながら歩いていると、後ろから声をかけられた。

「あのすいません……」

「はい?」


 なんだろうと思ってボクが振り向けば、そこにはロングコートの下は長靴に全裸のおじさんがコートの前をはだけさせて立っていた。

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