手順17 家族を大切にしましょう
「それでね、そのジェラートがほんとに美味しくて、杏奈ちゃんともそれぞれ違う味を食べさせあいっこしたの」
「あらあら、すっかり杏奈ちゃんと仲良くなれたのね」
「うん! 席が隣になった時からずっと仲良くなりたいなって思ってたから嬉しい」
渋谷から帰った後の夕食で、つづらは楽しそうに母さんへ今日の出来事を話す。
ジェラートはボクとも一口ずつ交換していたのだけれど……。
ちなみに岡崎先輩は寺園先輩とボクの連携プレイにより、つづらとジェラートを一口ずつ交換するイベントには参加できていない。
ボクと寺園先輩と交換しただけだ。
「それにしても、今日一緒に遊びに行った二人はつづらのクラスメートなんだろう? 尚はちゃんとクラスで友達を作れているのか?」
話を聞いていた父さんが横から話に入ってくる。
「心配しなくてもいるから大丈夫だよ。そうだ、この前友達と遊びに言った時の写真見る?」
父さんなりに心配してくれているのはなんとなく伝わったので、ボクはスマホを取り出して火曜日にカリンとあめやんと一緒に放課後、原宿に言った時の写真を見せる。
噂のギャラクシーチュロスで魔法少女っぽいポーズをしてる二人の写真を撮ってあげたら、ついでにとボクも巻き込まれた写真だ。
水色の髪のカリンと、金髪のあめやんがボクをはさんでギャラクシーチュロスをクロスさせている。
「もしかして、この二人も実は男だったりするのか……?」
写真を見た父さんの第一声はそれだった。
二人の格好が奇抜過ぎたのか。
恐る恐るといった様子で父さんが聞いてくる。
そんな未知の生物を見るような目で見なくても……。
「二人共本物の女の子だよ」
「あら~尚ちゃんったらモテモテね~」
ボクが答えれば、父さんからスマホを受け取って写真を見ながら母さんは楽しそうに笑う。
「なん……だと……? まさか、友達が出来るどころかその格好で学校に行ってモテてるのかお前……」
ますます訳がわからないという顔で父さんが見てくる。
別にこの二人とはただの友達なのでそういうのでは全くないんだけど……。
「この前も男の子に告白されたみたいだよ~」
「尚、やっぱりお前そういう……」
夕食のおかずをつまみながら平然とつづらは言う。
ますます混乱した様子で父さんがボクを見る。
「いや、ボクが好きなのは女の子だから!」
「どっちにしてもモテモテね~」
誤解を解こうとボクが言えば、母さんは相変わらず楽しそうに笑う。
「というか、もしかして尚ちゃん私よりも女友達多いんじゃ……」
ハッとしたようにつづらは言う。
「男友達の数を入れたらつづらの方が友達多いと思うよ」
「えーでも私ももっと女友達と女子女子した感じの事したい」
「……なら、ボクとやる?」
「待て、つづらはそんなに男友達が多いのか」
ボクが勇気を振り絞った言葉は、あっさり父さんに遮られる。
「そりゃそうよ~だってつーちゃんこんなに可愛いのよ?」
更に横から母さんが当たり前だろうと父さんに言う。
こういう身内の欲目みたいなのを堂々と言っちゃう辺り、つくづくつづらは母さん似だと思う。
まあ実際つづらは可愛いけど。
「……つづら、年頃になってそういう事に憧れる気持ちもわかる。だが、まだ高校生なんだから付き合うにしても節度を持った関係を」
「うん、わかってるから大丈夫だよ~」
心配からきているんだろう父さんの的外れな話をつづらは笑顔で受け流す。
そもそもつづらが興味あるのは可愛い女の子なので、根本的に話がかみ合っていないんだけど……。
「とにかく、父さんはそんなに心配しなくて大丈夫だから」
「いや、まあ、それはなんとなくわかった……」
よくわかってなさそうな顔で父さんが言う。
「うふふ、心配なのもあるんだろうけど、お父さんは二人ともっと色々話したいのよ。接し方がわからないだけで」
「母さん!?」
突然の母さんの暴露に父さんがものすごい勢いで母さんの方を振り向く。
「あら、本当の事でしょう?」
「お父さん、そうなの?」
「…………まあ」
母さんがさらりと返し、つづらが尋ねれば、父さんは気まずそうに目を逸らす。
「ホントは年頃の娘の反抗期に怯えてるのよ。いつかつづらから洗濯物分けてとか言われるんじゃないかとこの前言ってたし」
「ん~それはないけど、色柄物と白い服とおしゃれ着は分けて欲しいかな~」
「それは自分でやりなさい」
つづらにぴしゃりと母さんは言い放つ。
でも、ボクもボクもせめて色柄物とそれ以外は分けて欲しい。
別々にはねていてもたまにまとめて洗濯されたりする。
母さんは大らかとも言えるけど、全体的に大雑把だ。
お気に入りの服を守るには自分で洗濯するより他に道はない。
まあでも、娘のつづらはともかく、息子のボクまでこんな格好をしているので、父さんからしてみたら余計にどう接していいのかわからないのかもしれない。
ここはボクもいくらか歩み寄ってやろう。
「父さん……キャッチボールでもする?」
「やりたいか? そんな事今まで一度もした事ないだろ」
「いや別に」
父と息子のコミュニケーションのイメージとして安直にキャッチボールなんて言ってしまったけど、確かにそんな事今までやった事ないし、何が楽しいのかもわからない。
「あ、じゃあ一緒に風呂でも入る?」
「いや、お前の風呂長いからいい……」
なら背中でも流してやろうかとボクが提案すれば、それもあっさり断わられる。
確かに父さんは普段烏の行水レベルの速さで風呂から出てくるけど、ここまでボクが歩み寄ってるんだからそれくらいは合わせてもいいんじゃないだろうか。
「なら、私と入る?」
「つづら!?」
何を言ってるんだ。
「それはダメだろう」
それは父さんにもあっさり却下される。
むしろ、ここで父さんが却下しなかったらボクと父さんの間に今後埋められない溝が出来ていたところだ。
「じゃあお母さんと入る?」
ボクとつづらの流れを見て、母さんも手を上げる。
「えっ……」
父さんもこれは満更でもないらしい。
僕の家では基本的につづら、ボク、母さん、父さんの順でお風呂に入る。
その日、結局父さんと母さんが一緒に風呂に入ったのかどうかは知らないし、知りたくもない。
それはそうと、ボクはその夜、翌日寺園先輩の家に一人で呼ばれているにも関わらず今日の興奮が冷めなくて眠れないつづらに徹夜のゲーム大会に誘われた。
明日、起きられるかなあ……。
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